都内のバー。

 

久しぶりに立ち寄ってグラスを傾ける。

 

この時期はモヒート。まずはこれからだ。。

 

 

今日持ち込まれた売却案件の問題点を頭の中で整理していると、隣の女性が声を掛けて来た。

 

「ガタイ、いいですね」

 

 

最近出張続きでジムに行けていない。。。当然トレーニングもおざなり。

 

なのでそう言われて胸を張れるような自分ではない。

 

「何か、やってました?」

「あ、。。まあ、。。。ラグビーを学生時代に」

「やっぱり。。。うちの夫もラガーマンなんです」

 

いや、まいったね。。。

 

このアラフォーの女性、一人でグラスを傾むけているが有閑マダムといったところか。。

 

よく見るとそれなりに整った品のある女性だ。。

 

 

 

 

女:「バックスですかね?スマートだし。。」

L:「ご名答。CTBです」

女:「うちの夫はWTBだったんですよ」

 

何だこいつ、。。。妙に詳しいな。。

 

まあいい。・・・

 

放っておけばそのうち飽きて帰るだろう。

 

無口なおっさんに話かけたところで盛り上がることはまずない。。。。

 

だが彼女は予想に反し話しかけることを止めなかった。。

 

 

 

 

父親がラグビーをやっていたことから、幼少のころから試合会場や練習場に頻繁に連れていかれたそうだ。。

 

自分も男だったらやってみたいな、と子供心に思うも当時は女子チームは皆無。

 

やがて高校でラグビー部のマネージャーに就任。

 

大学進学後も、同じようにマネージャーに収まったとのこと。

 

どうりで詳しいわけだ。

 

ご主人もそこで知り合い結婚。

 

よくある話だな、こりゃ、。。。

 

「あのウェールズ代表との試合、見ました?」

「あの決勝戦、見に行ったんですよ」

 

試合談義に花が咲き、気が付けばいい時間。

 

そろそろ辞去しようかなと思っていると彼女がぼそっとこぼした。

 

「主人、亡くなったんです」

 

え???

 

聞けば数年前に事故死したとのこと。

 

伏し目がちな表情にしばらく時間は凍り付いた。

 

 

 

実はこのスポーツをやっていた人、早く死ぬ人が珍しくない。

 

有名選手だったHさんも早稲田の監督だったSさんも、トヨタの若手のホープだった男も早くして夭逝した。

 

死神に好かれるスポーツなのかもしれない。。

 

ありし日の夫との思い出を手繰るように話す彼女。

 

心中察して余りある。

 

だが一緒に感傷に浸る間柄ではない。

 

帰ろう。。。。

 

 

 

 

マスターに目くばせして帰り支度に入った。

 

「帰っちゃうんですか?」

「もう少しご一緒できませんか?」

 

美しい寡婦は名残惜しそうだ。。

 

「名刺だけでも頂けませんか?」

 

そんな言葉に聞こえないふりをして店を出た。

 

話相手が欲しかったのかもしれない。。。

 

誰かに話して夫のいない寂しさを埋めてしまいたい。。

 

そんなところか。。

 

気の毒でならないが、辞去させてもらった。。。。

 

 

 

夫という生き物の悪口を耳にすることはよくあるが、こんな風にいつまでも心の中に敬慕の念と共に宿し続ける女性もいる。。。

 

夫冥利に尽きるというものだ。。

 

勘定?

 

もちろん彼女の分も払っておきましたよ。。。

 

なに、。。おなじスポーツに打ち込んだ男からの香典ってこと。

 

Rest in peace,  ...

 

美しい寡婦の旦那さん、安らかに眠れ。