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2011年に出版されており、2014年にちくま文庫から出た。
グールド好きなのにやっと最近取り寄せて読んだ。
青柳いずみこさんの著作には敬意をいだいており、ピアニストにしてこの取材力、文章力、分析力は圧倒的だ。
特にドビュッシーに関する縦横無尽な知識の飛翔は素晴らしいが、それはまた別の話。
グールドのファンは彼の正規録音を通してそのバッハやベートーヴェン、人によってはベルクやヒンデミットなど20世紀の作品を楽しんでいることだろう。
僕も定期的にマイブームとしてのグールド聴きたい週間みたいなものがやってくるが、そういうときは持っているDVDで若き日の放送を観たりCDを聴くことになる。
彼に関する著作も多数あるが、大抵深みにはまりすぎて眩惑されがち、難解な本になっている。
グールドについて語ることはそれほど危険を伴うが、同時に楽しい作業ともいえるだろう。
グールド自身が語ったり書いたりしているものも、どこか煙にまかれている感があって、これはこっちの理解が彼の天才性に付いていけないだけなのだと思いがちだ。
そういう中において青柳いずみこさんの「グレン・グールド」は実にクールで分かり易いドキュメントになっている。
ピアニスト特有の技術論から分析したり、彼のライブ演奏を含む多数の音源を的確な文章で表現する技は比類がない。
時代を追って彼と比較されるピアニスト(特にリパッティ)や、重要な指導者の方法論なども興味深い。
引用される本の中には読んだことのあるものもあるが、そのセレクトがものすごい読書量による事を裏付けている。
意外とレコーディングだけに活動を絞る以前のグールドの様子は非正規録音のCDなどがないわけでもないが、普通は聴く機会もそうないと思う。
そしてステージを引退するまでのグルードの演奏スタイルを著者はほぼ次のように看破している。
「ステージ演奏家としてのグールドは、意図的に変わった演奏をしようと思った時以外はスタイル、解釈、音楽性、音色、テクニックいずれをとっても超弩級の正統派ピアニストだった。集中力もすばらしく、和声進行、フレージング、リズム、楽曲構成などすみずみまでコントロールしながら、しかも計算をはるかに超えた、霊感に満ちた演奏をきかせることができた。」
グールドも自分自身をロマン主義的ととらえており、われわれになじみ深い彼のバッハ解釈からすると意外に思える。
スタジオで綿密に練られて創り上げられた録音はある意味完成されたグールド主義のような世界だが、聴衆と旅行で消耗する中でどのような演奏をしていたのか知ることで、よりグールドの作品解釈が読み取れる気もするのである。