飯守泰次郎ワーグナーと人生を語る
2023年に亡くなった指揮者飯守泰次郎氏のワーグナー作品の解説と彼自身の軌跡が細かく書かれていて非常に面白かった。小澤征爾の後輩であり、同じく斎藤秀雄門下。秋山和慶と同期である。指揮者は「コンサートとオペラを両輪として活動して一人前」とはカラヤンの言葉だが、小澤征爾がウィーン国立歌劇場の音楽監督になったのは遅かったし、ボストン響などとコンサート活動で華々しいキャリアを積んだ後だと言えるだろう。飯守泰次郎は逆である。若い時からオペラを指揮し、バイロイト音楽祭の音楽スタッフを長年務めた。そこはワーグナーを上演する最高峰の劇場であり、一流歌手に音楽稽古をつけ、ブーレーズの新しいワーグナー演奏の解釈を現場で支えたりもした。その大変さは想像するに余りある。ベーム、ホルストシュタイン、ショルティ、バレンボイムなどスター指揮者が安心して振れるのは飯守泰次郎やジョフリー・テイトら音楽スタッフが下準備したおかげなのだ。バイロイトの仕事以外はドイツやオランダの歌劇場で数々のオペラを振っており、おそらく日本人で最初のたたき上げカペルマイスターであろう。だからというか、日本でオーケストラのコンサートに出演する機会は限られ、日本のオーケストラの常任指揮者というポストを歴任するのは、50代からだ。新国立劇場の音楽監督就任は70歳の時。飯守氏自身が回り道の人生をあえて選んだようなことをおっしゃっているが、後に日本でのワーグナー上演が高いレベルで可能だったのは、彼がドイツで着実に力を蓄えたことが大きな支えとなっている。当然全てのワーグナー作品をピアノで弾けるし、振れる。全てのドイツ語テキストを理解し、ワーグナーの変化する響きを深い調性の洞察とともにオーケストラに伝えることができる。歌手の信頼もあつい。指揮者の尾高忠明氏がバイロイトを訪問したとき、名だたる歌手たちが飯守氏に「taijiro,ここはこんな歌い方でいいか?」と質問する様子を見て非常に感心したという。(この本についてはまだまだ続きますし、このブログも編集前提で書いてます。)