かつて、いわゆる手の届かない人に恋をして自分の気持ちを伝えたことがあった。

誰から見ても震え上がるほどの人気者に、恋愛卒業してるんでしょと周りから揶揄われる女が告白をするという無謀なことをしたくなったのである。

恋人としての関係を求めたのではなく、好きでしたとだけ伝えた。

月に向かって本気で石を投げるような感じだった。そして石はありがとうという言葉で帰ってきた。


私が思いを伝えたことは、相手本人の漏洩により瞬く間に広まった。

私に探りを入れてきたり、何も言わずに縁結びのお守りを渡してきた人もいた。女子会や飲み会にはもってこいの、最高の酒の肴だったのだと思う。


その後、なぜ自分が手の届かない人を好きになってしまったのかについて考えた。

ネットでは肥大した承認欲求と書かれていた。そうなのかもしれない。


30代後半以降、ハラスメントが声高に叫ばれる現代においても、シングル中年女性への風当たりはキツイ。

こんなに揶揄されるなんて20代のときは思いもしなかった。

しかも同じ女性や、一般的にはマイノリティと言われる側の人間から愚弄されることに心底驚いた。

枯れてるね、という言葉を度々聞いた。自尊心てこんなにも傷つくものなのかと思った。


傷ついた私は復讐をしたかったのかもしれない。身分超絶不相応な相手に告白をするというやり方で。

あなたたちには枯れているように見える私にも、度胸だけはあると示したかったのかもしれない。


ただ、本当のところは分からない。

告白の直前に思ったのは、無謀でも伝えることと伝えないこと、どちらの人生を選ぶかということ。

恐怖はあったが迷いなく伝える方だった。


私は幼児期のある不幸な事件以降、親に気持ちを伝えることが出来なくなった。

気持ちをため込む一方で、その気持ちが爆発するかのように毎朝おねしょをした。

おねしょをする度に母に怒鳴られ、時には殴られ、その罵声や暴力を受け流すためか、私はどんどん鈍感になっていった。おねしょは成人まで続いた。その間、一度も病院に連れていかれたことはなかった。


母は今も存命で元気にしているが、子供の時のあの瞬間に戻って伝えたいことがたくさんある。

言えなかったことがトラウマになって、私は突然無謀な行動に出てしまうのかもしれない。

本当のところ、私はあの頃の私自身に復讐しているのかもしれないと思う。