今回は番外編として音楽ホールの話を少し。クラシックの演奏会場、っていうことです。
いまでこそ、サントリーホール(赤坂)や東京オペラシティコンサートホール(初台)、東京芸術劇場(池袋)など、クラシック音楽専用と言われるホールがたくさんありますが、私がクラシックを聴き始めた中学生の頃、ざっと40年前ですが笑、そんなものはひとつもありませんせでした。
強いて言えば東京文化会館(上野)がそれでしたが、あそこはバレエやオペラもできる多目的ホール。あとは、NHKホール(渋谷)とか、昭和女子大学人見記念講堂(三軒茶屋)とか?、古くは日比谷公会堂とか笑、普通の多目的ホールで外来クラシックの演奏会も開かれていました。
例外的に、観客動員を見込んでか、カラヤンは5千人入る普門館(杉並)で何度か来日公演をしたし、バーンスタインは確か日本武道館でも公演をしたはずですが。。
■響くということ
クラシックとホールの関係、これはとても深いと思う。
クラシック音楽は基本的にアコースティック(電気的な増幅をしないという意味でね)なわけで、楽器から出た生の音を響かせる空間がとても重要になります。
いわゆる多目的ホール、〇〇市民会館みたいなところは、音楽もやるけれど、集会とか講演とか映画とかもやりますね。そういう人の話し声を聴き取るのに適した環境(音響)と、アコースティックな音楽を聴くのに適した環境(音響)というのは、かなり違います。
簡単に言うと、人の話し声を聞き取るには残響(響き)が少ないほうがいい。一音一音ハッキリ聞こえて、雑音があっても混濁し難い。ただしそういう場所で楽器を演奏すると、生の音がそのまま耳に入るので、それなりの演奏はそれなりにしか聞こえません笑
逆に、クラシック音楽には適度に響く空間がありがたくって、、「残響2秒」なんていうキャッチフレーズもありましたが。。
でもそういう場所で人が話すと、前の音と次の音が響きでつながってしまうから、言語としては不明瞭、大きな声になるほど聴き取りにくい。銭湯の端と端で大声で会話する感じです(やったことないけれど)。
■クラシック音楽とコンサートホール
そういうわけなので、クラシック音楽、特にオーケストラのような大きな編成を聴くホールと、講演や演劇を見聞きするホールとは、理想としては共存できないのです。響きのいい音楽ホールはもはや楽器で、オーケストラの一部であるとも言えるでしょう。
ウィーンのムジクフェラインザールとウィーンpo、アムステルダムのコンセルトヘボウとコンセルトヘボウ管、ライプツィヒのゲヴァントハウスとゲヴァントハウス管、ボストンのシンフォニーホールとボストンsoなど、欧米では街の音楽ホールとオーケストラが一緒に発展してきた例がたくさんあります。
しかし、そこまで文化として音楽が根付いていない日本では事情が違い、音楽も落語も映画も集会も、何でもそこで済むよう巧妙に作られた立派な「文化」会館ばかりが、どの街にもひとつずつ建てられてきたというわけです。
このことが、日本のクラシック音楽の発展を妨げてきたとまでは言いませんが、30数年前に初めてサントリーホールで体験した音、天から降り注いでくるようなあの豊潤な響きを聴いたとき、これじゃ勝負にならん、戦争に負けるわけだ、みたいな諦め笑と、今後への大きな期待が膨らんだものです。
サントリーホールは、ベルリンのフィルハーモニーホールをモデルに、日本で初めて登場したワインヤード(ぶどう畑)型と言われるホールです。
ワインヤード型ホール自体は決して古いものではなく、音響的な賛否もあるのですが、欧米の一流ホールに負けない器がついに東京にもできたか、という感慨はいまも忘れられません。と、言うのも、大阪では、既にその4年前、クラシック専用を謳ったザ・シンフォニーホール(←「残響2秒」が売り文句)が開場していて羨ましかったこともありまして。。
■シューボックスとワインヤード
音楽ホールのタイプにはもうひとつ、シューボックス(くつ箱)型と言われるものがあります。
ウィーンやボストンのホールはこれにあたり、ワインヤードが現代の音響学と建築デザインの観点から考案されたもの(後述)であるのに対して、シューボックスはいわば在来工法、古くからある音楽ホールの多くはこのタイプです。
当時の建築技術で大きな空間を作るにはこの形状しかなかったとも言えるのですが、音響的には間違いのない、優れた響きを生み出す形とも言われています。
現在の東京で言えば、東京オペラシティコンサートホールや、Bunkamuraオーチャードホール(渋谷)などがこれにあたり、他にも紀尾井ホール(四谷)、浜離宮朝日ホール(築地)といった小型の室内楽ホールに多いタイプです。
ウィーン・ムジクフェラインザール
東京オペラシティコンサートホール
ただしこのシューボックス型、形状と座席配置の関係から、どうしてもステージが見にくい場所ができてしまったり、音響的にも場所によってムラができてしまうという難点があります。小ホールならまだいいのですが、収容人員が多くなるとそういう条件の悪い席も多くなり、興行的にはマイナス要素になりかねません。
そこで考案されたのが前述のワインヤード型、段々畑のように客席をブロックで区切り段差を設けることで、区切る壁を反響面に利用するというアイディアで、さらにステージを客席が取り囲むように配置して(オープンステージ)、どの席からも見やすく響きのいいホールの実現を目指したのです。1960年代初めにベルリンのフィルハーモニーホールで初めて採用され、以後世界各地にひろがりました。
ベルリン・フィルハーモニーホール
サントリーホール
■演奏を観る
ビジュアルも重要なポップスやロックと同じように、クラシック音楽の演奏も視覚的な要素は重要だと思います。
指揮者はもちろんのこと、演奏者の体の動きを観ながらそれにシンクロした音を聴くことで、音楽がいっそう豊かなものに感じ取れるはずです。
マーラーが多様する管楽器奏者へのベルアップの指示(楽器を上向きにして演奏せよ)なども、音がよく通るようにという理由だけでなく、そうした視覚的なパフォーマンスの意味も多分に含まれていると思います。
クラシックの生演奏を鑑賞するとき、こうした演奏会場のことや座席位置のこと、演奏を観るということを考えながら、次のコンサートを予約するのもまた一興かと思うわけです。
■おわりに
東京の音楽ホールは、その数や質において今や欧米の都市にも劣らないレベルにまで整備されたといえます。
ソフト面も、毎年秋になると、世界各地の一流オケが代わるがわる毎日のように登場してコンサートが開かれるという、世界中の音楽ファンが羨むような様相を呈してきました。
しかしながら、ここ数年の感染症騒ぎで状況は一変し、それがようやく戻りつつあるところで今度は極端な円安や原油高など、外来の演奏家を待つ身には厳しい流れが続いています。
この間隙を縫って、地元東京の、そして国内のオーケストラにはぜひ頑張ってもらいたいと思うところなのですが。。
街のホールとオーケストラが一体となって、その音楽が地域で持続可能な文化になる、流行りのSDGsじゃないですが、そんなふうになったらいいなと。
..私の儚い願い、かな。