アトランタ近郊を走るBNSFからの直通石炭列車

 

この写真は2012年にアトランタ近郊で見かけたワイオミングからやってきた石炭列車です。Powder River Basin(PRB)というワイオミング州の石炭産地からはるばるやってきました。その距離約1,800マイル(2,900km)。当時は一日1-3本走っていたようです。

 

アトランタ市内のヤードを通過する石炭列車。BNSFの機関車をアップで

 

 ノーフォークサザン鉄道の路線なのですが、BNSFの機関車が直通してくるため、注目度が高い列車でした。

 

なぜこんなことをやっているのか、アメリカのエネルギー事情の一端がうかがえます。

 

 アメリカでは石炭はエネルギー源の王者として長らく君臨してきました。古くは東部ペンシルバニアのアンセラサイト(無煙炭)で、急成長するニューヨークのエネルギーとして重宝され、当時数多くの鉄道会社が設立されました。

 

無煙炭の歴史を象徴するラカワンナ鉄道のホッパーと蒸気機関車

(ペンシルバニア州スクラントン スティームタウン博物館にて)

 

 次にアパラチア山脈に埋まっている瀝青炭で、鉱脈はペンシルバニアからケンタッキーにかけて分布していますが、こちらも中西部や東部の産業を支えました。鉄の町ピッツバーグなども、近くで産出される瀝青炭を熱源としていました。

ノーフォークサザンの返空石炭列車 アパラチアの瀝青炭輸送用

 

CSX鉄道のアパラチア炭輸送列車 バルチモアに運ばれ輸出されます

 

 ではなぜワイオミング?ワイオミングの石炭は瀝青炭や無煙炭に比べカロリーが低く、また周囲に産業も輸送インフラもない(基本的に大草原の中)ため、かつては見向きもされませんでしたが、1980年以降露天掘りで大量に産出できること、鉄道運賃が柔軟に設定できる規制緩和が行われたこと、硫黄分が瀝青炭や無煙炭に比べ低いこと、そして石油危機で石油の価格が高騰したことが追い風となり急速に産出量が拡大しました。

 

 アメリカの火力発電所も多くがPRB炭が燃焼できるよう改造が行われ、遠くはジョージア州やデラウェア州まで輸送されました。

 

 ピークといわれる2000年代後半にはアメリカの発電需要の約半分を石炭が担い、その半分以上をPRB炭が占めるようになりました。当時は15,000t以上を輸送できる列車が1日80本近く発送されていました(ということは返空列車もそれだけある)

 

 それから約10年で世の中は大きく変わりました。環境問題が高まり石炭火力への批判が高まっていること、風力などの代替エネルギーの導入が進んでいること、そして石油やガスの価格が安価で推移していることがあり、現在石炭はアメリカの発電需要の20%を切るまでになってきました。

 

安価なエネルギーの一つシェールガスの輸送列車 機関車とタンク車の間に空のホッパーや有蓋貨車が付くので見分けがつきます

 

 現在も石炭は輸送重量的にはアメリカの鉄道輸送量の約3割を占めますが、かつては孤高の一位を占めていた運賃収入減としては、現在コンテナ・化学品の後塵を拝す3位となっています。

 

 鉄道輸送の王者と言われた石炭輸送もあと10年したらほとんど見られなくなり、アトランタまでやってくる石炭列車も見られなくなるかもしれません。