大衆店でサムギョプサルを食べようと誘われて乗り気になるなんて、私はこの人が好きなのだろうか。


確かに、顔合わせの日に彼が作り出した空気は、危うく、心地よかった。だけど、そう感じる相手を選ぶべきなのかどうか、私はまだ決めきれずにいる。




この彼です指差し 最近の私、食べてばっかり汗







顔合わせから、ちょうど1週間。2度目の今日は、本場の韓国料理に連れて行かれる約束だった。


でも19時。予約を受け付けない人気店はどうやら満席だったらしい。急遽、麻布十番で電車を降りることになり、面白いと思った。予定通りにいかない感じも、嫌いじゃない。







東京タワーが見える大通り。彼は車の外に出て待っていた。自然な動きでドアを開けてもらうが、車高が高くて乗るのに苦労した。




車はそのままヒルズへ向かった。




れもんちゃんが来るまでに予約しておいたから、今度は大丈夫。本場っていうより、綺麗めになっちゃったけど。



やることが早いね♡




動きが早い。話が早い。人の何倍も頭と身体を動かしてきた人だと分かる。




俺のこと好きでしょ。



まだ選考中だから。



絶対、俺が一番いいから。



それ、みんな言うよ。




軽く笑いながらも、心の中で彼の自信の正体を測っている自分がいる。




今朝のLINE、びっくりしちゃった。早朝の新幹線で西日本まで行って、その後に都内で打ち合わせて、私に会う時間まで作るなんて。毎日こんな感じ?



そうだよ。今日はこの時間のために仕事を頑張ったんだよ。




運ばれてきたサムギョプサルは、私たちの会話には似合わなかった。やっぱり、もっと煙くて、もっと雑で、もっと油っぽいほうが良かったかもしれない。




絶対に俺たち、相性いいと思うんだよね。




肉が焼ける音の中で、彼はそう言った。



れもんちゃんにすごく惚れてる。エッチしたら、今までで一番だって言わせる自信あるよ。



せっかくだけど、そこまで興味ないかな。




サンチュに肉をのせながら答える。




めくるめく経験をしないまま人生が終わっても平気。それより性病になる方が怖い。




私がそう言うと、彼は自分の携帯を差し出した。画面には性病検査の結果。




毎月、フルコースで検査してるよ。



うわ、遊んでるー。



そう言うから、サイトやめたじゃん。



それくらいは普通にみんな辞めてくれるよ。



他はどんなヤツだよ。




一瞬凄まれた気がして怯んだ。背も高いし、ガタイもいい。隣を歩くときに、すれ違う人が避けてくれることに私は気づいていた。この人の素性も本性も私は何も知らない。




れもんちゃんは一体、何のためにこうやって遊んでるの。言うことが投げやりに見えたり、妙に保守的だったり、全然読めないんだよ。




無言でいると聞かれた。




今日家に来る?



行かない。



車に乗っても、海に沈められなかったでしょ。



家に行ったら、エッチなことをされて、それが盗撮されてて、流出でもしたら大変だから行かない。



もう、おかしいだろ!笑



ねぇ、奥さんも元カノも起業してる人でしょう。私みたいな女と付き合ったことある?



ない。



私たちは合わないよ。あなたはもっと、生きることに貪欲なタイプがいいんじゃない?私は人生で何も残してないって嘆くけど、そのことで現状を変えようとはしない。婚外をなんでやってるかって、そんな質問にさえ、ちゃんと答えられない。聞かれるのが分かってて、答えすら用意できてないんだよ。



別にいいんじゃない。今日、俺は、朝からこういうことをやってきたって話をしたけど、それは俺がやりたくてやってるから。れもんちゃんは、自分の暮らしたいように暮らせばいい。最後に残るのは、何を残したとかじゃない。好きなように生きられたかどうか、それだけだよ。








駐車場に降りるエレベーターの中で、腰を引き寄せられた。途中の階で外国人が降りた途端にキスされる。




これからまたあの大きな車に乗る。怖がりな私は、車に乗った瞬間、後部座席に控えていた知らない男たちに首を絞められるんじゃないかって想像までしている。




非日常の世界にいるときの私は、日常では考えられないような危険なことをしている。なんで婚外をしているのか、本当の理由は、たぶんそんなに大したものじゃない。




家の場所は教えてくれないの?



うん。



近くまで送りたいだけなんだけど。



もう近いよ。ここから歩いて帰れる!




店内だけでなく車内でも、彼の携帯には何度も仕事の着信があった。最後の電話は彼が経営する会社の若い女の子からで、スピーカーホンでの会話を聞いていたら、あっという間に彼の本名を知ることとなった。




バレたな。いいよ、車を降りたらすぐ調べろよ笑




初めて彼の動揺が見えた気がして、私は大きな声で笑った。