財布だけだと思っていたのに、スイくんの持ち物は次々と高価なものに替えられていった。


私がどうしたのかと尋ねるたびに、スイくんは、ファンからもらったものだ、と答えた。


けれど、事務所に届く彼宛のファンレターの数と高価なプレゼントの数がどうしても合わないような気がして、私は訝しんだ。




そんなに変な話じゃないよ?クリスマスには、れもんにも何かプレゼントする。




私は詮索を止めて、彼の目を見た。




もらえるなら指輪がいい!




スイくんの彼女だという証が欲しい。




高価なものをねだった訳ではないのに、スイくんは何かを考えている様子で、少し間を置いてから口を開いた。




指輪はダメ。俺、指輪は結婚を決めたときだけって決めてるから。




ふぅん、と流したが、彼の言葉には幾分鼻白んだ。




私は毎週毎週、こんなにやってあげているのに。


どんなに顔が良くても、デートで遊園地にも行けない、外食もできない、こんな生活を続けている彼と本気で結婚を望む子がいるとは思えなかった。


ただ、私ならどんな苦労をしてもスイくんを支えられる。




だって愛しているから。




呪文のように、その言葉をお守りにして、私はスイくんの家に通い続けた。








れもんちゃんて、◎◎の弟と付き合ってるんだって?




放課後、誰もいないと思っていた大学のピロティーで、ふいに声をかけられた。


そんなに派手では無いのに、造形が美しい顔が私を覗き込んでいる。


学内で1番可愛いグループにいる美人ちゃんだった。


私はベンチから投げ出していた足を引いて、姿勢を正した。




それ、誰に聞いたの?




ぶっきらぼうな返事を意に介さない様子で美人ちゃんは続けた。




れもんちゃんってレミちゃんと仲良くしてるでしょう?私、あの子と同じ事務所だから。




レミちゃん。




一瞬で、気だるげな表情の美しい顔が脳裏に浮かんだ。


私と同じ大学に知り合いがいるなら、私にも一言くれてもいいのに。




わざわざ私に話しかけてきた美人ちゃんの意図は分からないが、こちらも以前耳にした噂の真相を尋ねてみることにした。




美人ちゃんはものすごい芸能人の彼がいるって聞いたけど…。




ああ、それはずいぶん前の話かも。結局、歌姫に取られちゃったんだよね。




週刊誌の一面を飾った記事が頭に浮かんだ。


美人ちゃんが懐かしそうに、ふふっと笑う。




短い間だったけど楽しかったよ。元カノの⬜︎⬜︎って分かる?部屋にラブレターがいっぱいあってね。1人で待つことが多かったから、全部読んじゃった。




ところで…と、一頻り話を終えたところで、美人ちゃんが声を潜めた。




もうレミちゃんとつるむのは止めたほうがいいよ。あの子、最近やばいかも。




え…?




私の怪訝な顔を見て、美人ちゃんは満足そうに右の眉を上げた。




意味が分からない。いや、分かりすぎるのか。




美人ちゃんが細い指に巻きつけている柔らかい髪の毛を見ながら、あぁ、この子はあの芸能人と寝たんだなぁ、なんてぼんやりと考えている。