大学の授業を終えたときにリカちゃんからの着信に気がついた。


折り返すとリカちゃんはすぐに出た。




れもんちゃん、今晩ひま?




4人で飲んだ夜より、ずいぶん落ち着いた声だった。




飲み会があるんだけど、人数が足りないから来て欲しいの。18時に六本木に来られる?




当時は携帯に地図を見られるような機能はなく、慣れない六本木で、やっとのことでリカちゃんに指定されたお店に辿り着いたのは18時を過ぎていた。




個室のドアが開いた瞬間、面食らった。


座敷に姿勢を崩して座っている中年の男性が4人、リカちゃんと他に女の子が2人、一斉に私を見た。




今、値踏みされている。




無理矢理上げた口角がピリッと引き攣った。




同じ大学生の男の子としか付き合いのなかった私は、目の前の自分の親の歳に近いであろう男性と恋愛のような空気を醸し出す光景に戸惑った。




とても綺麗な女の子の隣に座っている、本日の1番偉い人が私に2冊の本を差し出してきた。




はい、これあげる!読んでね!




本の帯を見て、誰なのかが分かった。




わぁ、すごい。テレビで見てます。




そう答えると、1番偉い人は鼻の穴を膨らませてうなずいた。




偉い人の隣の綺麗な女の子の名前は、レミちゃんというらしい。


細い体にスラッと伸びた手足、卵型の輪郭にアーモンドアイ。今のように美容整形がメジャーでなかった時代に、こんな美人は珍しかった。


1番偉い人の人生年表を全員が聞いているなかで、私はレミちゃんの美しい顔ばかりを見ていた。








私、帰ります。




1次会が終わったとき、ひとりの女の子が、抜けた。




私も…と言いかけたとき、目の前でレミちゃんがリカちゃんに耳打ちした。




あの子、今度から呼ばないでね。




小さいはずなのにハッキリと声が聞こえて、私は脱出のタイミングを逃した。