普段から結婚指輪をしない私。
Kさんも指輪を付けない派なのかな、なんて呑気に思いながらデートを重ねていました。
ある日、送ってきてくれた海外出張の写真を見て気がついた。
Kさん、結婚指輪をはめてる…。
一番大好きな人が奥さんで、逢瀬の時間に奥さんを褒めたって、ヤキモチをやいたりしない。
だけど…、私、結婚指輪は嫌だ。
次のデートのときに、指を絡ませながら左手の薬指を見たら、日焼けでできた指輪の跡。
Kさんが私の目線に気がついて、左手を隠してしまい、何も言えなかった。
クリスマスの夜、カウンターの並び席でメニューを指差すKさんの左手に指輪があった。
私が気がついた瞬間、Kさんも気がついたはずだ。
けれど、そのまま落ち着いた声で私に飲み物をたずねるKさん。
私は動悸と息が詰まる感覚に襲われる。
Kさんが私の知らない人に見える。
お願い、早く外して。
今なら気がつかなかったフリができるから。
何事もなかったように、楽しく笑えるから。
バッグからハンカチを取り出し、ゆっくりと広げて太ももの上に乗せる。
視線を上げると、Kさんの薬指の指輪は消えていた。
私はようやく息を吸って、Kさんに微笑みかける。
奥さんのいる人と不倫をしている。
自分のしていることが分かっているようで、本当は正しく想像さえできていないのかもしれない。