日曜に街中のアパートへと引っ越したが、引っ越しはやはり人生の苦行であり、
帝王切開の傷が息子はもう1歳4か月になるというのにまた痛んだ。
重い物はダンナと義理パパと叔父さんが全部運んでくれたのに、
それでも痛んで、「ひーーー」という位、かゆい。かゆいのはもうずーーっとで、
仕事中でも人目を忍んであらぬ場所を掻いてしまうほど、かゆい。
今週は木・金・土・日曜と、売り上げのかんばしくないイタリアブランドの店勤務。
木曜と金曜は、カバン2個と、1個しか売れなかった。恐怖である。
フィンランド全土で、一等地の中の一番良い場所に店をかまえているというのに。
まだ20代前半の店長は今週は笑顔があまり見られず、表情も厳しかった。
火曜は売り上げゼロだったという。
土曜の今日は、やっと安心出来るほど売り上げも出た。
4時頃の事である、一目見ただけで芸能人ぽい女性が入ってきた。
まず顔が整っている。それも非常に整っている。服装も玄人っぽい。
色使いではなくて、形や素材が非日常的なものを組み合わせていて、
凄いハイヒールをはいている。何より化粧が違う。
厚いけれど綺麗でバランスの取れている化粧テクニックは、
日本だと素人でもそこそこ見かけるが、欧米人は日本人の様にファンデも
アイシャドウもチークも眉毛も毎日フルメークする人はもの凄く少ないので、
厚化粧のテクニックが無い。しかし非常に綺麗な人で、
すぐ「フィンランドで超有名人のあの美人シェフ!」と気づいた。
後から店長に聞くと香港で見かけたバッグをELLEの雑誌撮りに
借りに来たそうだ。それは全世界のファッション雑誌のエディターが
ITバッグとしてネットや雑誌にしょっちゅうのっている、このブランドのバッグで
一番有名なシリーズのバッグで、店長が気を利かせてゴールドのグリッターの
入ったブリンブリンのバッグを見せると一目で気に入って決めて持って行った。
店長はフィンランド人だと言うのに、彼女が名刺出すまで本人だと
気付かなかったらしい。うーーーん、なぜ??
私はあらま~~芸能人じゃーーん、しかもほんっとにすげー綺麗!!などと思い、
穴の開くほどでは無かったが、ガン見に近いレベルで2度ほどじいっと見た。
すると彼女が色々と饒舌に語っているのに、気分がのらないせいかはたまた
フィンランド人の気質のせいか、にこりともせず事務的に接して貸出書を記入
していた店長からいきなり私の方をぐいっと向いて先ずフィンランド語で
「Puhutko suomea?」=あなたフィンランド語しゃべるの?
「Do you speak English?」 と聞いてきた。
びっくりしたがじっと見てたのが気に入らなかった感じだったので即座に、
「Yes, I know you and I was thinking that you are so beautiful in real」と言うと、
「あらまっ」という感じでにかーーーっと、子供っぽい感じで笑って
「Thank you」と、言った。店長とおつきの人らしき女性はおそらく、
「なんちゅうまあ歯の浮くような事をいうごますりだ」と思っただろうが、
文字通りそう思っていた私は、野次馬根性で彼女を見ていたかったから
見ていたのである。なんというか、一頃大好きだったウイノナライダータイプの、
非常に整った顔で、「雑誌よりも実物の方が綺麗じゃーん。
肌が綺麗じゃないのは知ってたけど、そばかすうまく隠れてるな。
何見ても肌が乾燥して映ってるけど、ツヤツヤタイプのファンデ使えばいいのに」
などと思って観察していたのだ。だがいきなり少し離れた所にいる
アジア人の店員に顔を向けてシャープな事を言い放つのは、明らかに
自意識過剰のなせる業で、わかーーい頃同じような思いをしたのを思い出した。
まだ二十歳ごろの時、バイト先の店長がタニマチ筋か何かで、
バイトの後におそらく若い女の子で英語もちょっとわかったからだろう、
千代の富士となぜかCNNのアメリカ人のニュースキャスターと何人かの
取り巻きの人と、京都の玄人っぽい舞子さんとダンナはんが行くような
物凄く高そうな寿司屋に連れて行ってもらったのである。
私は隅っこの方でニュースキャスターの人2人とちょこちょこと
話していたが、黙って大人しく寿司を味わい心の中で
「何これ信じられないほどウマい~~、もうスーパーの寿司食べらんない」
とか思ってひたすらもぐもぐしていると、
「おい、そこの中森明菜に似たの、黙って寿司ばっか食ってんな」と、
全然こっち見てなかった千代の富士につっこまれた。
そりゃあ私だって悪いなあとは思っていたし、内心小学生の時から
相撲取りの中では千代の富士だけはファンだったが、
二十歳やそこらの話術も無い私が、失言が怖くて口をはさめるわけが無い。
有名人は会った事の無い相手でも、相手からするとよく知った人なので、
彼らはこちらにもいきなり矛先を向けて話かけられるのであろうか。
それとも私がガン見する失礼な奴なのであろうか。
兎に角あれは有名人特有のふるまいだな・・・と思った。
私がフィンランドで知ってる芸能人は少ない。
第一フィンランドのテレビを殆ど見ないし、田舎くさいフィンランドの
芸能人には興味が無いので、ファッション雑誌最王手の ELLEの特集で
何度か見かけるとか、多くは無いフィンランド国産のCMで顔がバーンと
映るのを何回も見るとか、テレビ番組にしょっちゅう出てるようなレベルで
無いと全く知らないのだ。くだんの彼女はELLEでも見たし、
テレビでも見たことがある。冠番組の料理番組も何度か持っていたし、
料理本も店頭で売られていたし、モデル上がりの美貌と、
更に忘れられない特徴があった。 被り物である。
この彼女を初めて見た時ダンナに、
「この人綺麗だけど、有り得んわこの帽子。誰か注意してあげないと」と、
言ったのを覚えているくらい、センスがひどい。
今日もこれ↓だと思われる帽子を被っていたが、今日のはまだ大丈夫だった。
しかし今日、はたと思った。これは有名になる為のアイテムではないか。
確かに、あんな帽子被られたら絶対に忘れようがない。
しかも帽子以外は大真面目にお洒落している感じだ。
今日帰宅した後にウィキで調べてみると、パパがフランス系アメリカ人
(顔の感じからモロッコ系ではないかと推察)でアメリカ生まれ、
アメリカのテレビにも出て料理本もビデオも海外で販売され、
ウオッカのフィンランディアやチョコレートのファッツェルとコラボレートし、
マリメッコのスポークスマンや、極めつけはこのイタリアのブランドの
入っているショッピングセンターのスポークスマンまで努めていた。
勿論オープンして半年たらずのこの店の店長は、それも知らなかったはずだ。
折角フィンランドの女性雑誌で推定発行部数1位だと思われる ELLEに、
こんな超有名人が載せる為に直に来店してくれてるんだから、店長よ、
もうちょっと微笑んで接客しても良いのではないだろうか・・と思うが、
そういうとこは半分イギリス人だがやっぱりフィンランド育ちなのだ。
有名人はどこに行っても下にも置かぬ丁重ぶりで扱われるので、
扱いが悪いと2度と戻って来ないと思う。と言っても、ブランド店も少ないが
人口も少ないフィンランド、毎月うちの系列店のブランドのバッグが
必ずどこかの雑誌載るが、1個も売れない事も珍しくは無いのが、現実だ。
くだんの撮影用に彼女が持って行ったバッグは、クリスマスも近づくし、
値段も素材の関係で2万5千円以下なので 5個はかたいと思うが、
さてどうであろうか。





