戻ってきて1週間以上、彼のスーツケースは家の中のあまり行かない部分に置きっぱなしだった。
私は大抵、帰省から戻ると、眠くても疲れていても、
全部スーツケースの中を出して空っぽにし、
片付けたい方である。
が、ダンナはいつまでもその時の服やら、道具やらを散らかしっぱなし。
が、その気持ちもわからんではない。
『ホリデー』の余韻を楽しめるからだ。
見るもの全てに、ああ、これはあの時あれに使って、あんな話をした、と思い返す。
旅行好きだった私も、その気持ちがわかるからこの散らかしにはガーガーいうつもりはなかった。
が、とうとう旦那もこの週末重い腰を上げ、
自分の荷物を取り出し始めた。
彼とは3週間ほど全く別行動だった私には、
毎日少しずつ出てくる思い出話が新鮮である。
写真はその都度送ってもらっていたが、
ビデオで撮ってきたバイク運転中の映像は、
それは臨場感があって美しかった。
旅行前はユーチューバーになるぞーと張り切っていたが、
とてもとても、そんなに映像ばかり撮っていられない。
そんなことをしていたら、自分が楽しむ時間がないのだ。
つくづく、ユーチューバーというのは重労働だなあ、と思う。
本州をバイクで回る、などという60代のおっさんの夢が無事達成できたのは事実。
これは、結構たくさんの周りの同世代男性をいい意味で動揺させ、
そうだ、今やっておかなければいつやるのだ、と、
数人の人もひとりで小旅行に出たとか。
彼がレンタルしたバイクは、古ーい話、昔のトップガンでトムクルーズが乗ったあのカワサキだったんだそうで。
道の駅やらガソリンスタンドに停めていると、そういうことを知ってるバイク好きのおっさんたちが、
かっこいいね、と寄ってきて話も弾んだそうで。
こんなことが、男のプライド、というか、自分に対する自信とか、生きがいを取り戻す要素、なんだろうな。
シンプルっちゃあ、シンプルだ。
友人のひとりは、言っていた。
男の更年期で、奥さんと色々うまく行かなくなって、
新しい女性に走って離婚した人を知ってる、
あなたの夫はバイクでまだよかったよね、と。
とりあえずは、そう、かもしれない。
どっちもどっち、という気もするが。