『陪審員2番』(クリント・イーストウッド監督) | 新・法水堂

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年間300本以上の演劇作品を観る観劇人です。ネタバレご容赦。

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『陪審員2番』

JUROR #2



2024年アメリカ映画 113分
監督・製作:クリント・イーストウッド
脚本:ジョナサン・エイブラムズ
製作:ティム・ムーア、ジェシカ・マイアー、アダム・グッドマン、マット・スキーナ
撮影監督:イヴ・ベランジェ
美術:ロン・ライス
編集:ジョール・コックス、デイヴィッド・コックス
衣裳:デボラ・ホッパー
音楽:マーク・マンシーナ
キャスティング:ジェフリー・ミクラット

出演:
ニコラス・ホルト(陪審員2番、雑誌記者ジャスティン・ケンプ)
トニ・コレット(首席検事補フェイス・キルプルー)
J・K・シモンズ(陪審員4番、元刑事ハロルド・チコウスキー)
クリス・メッシーナ(弁護人エリック・レズニック)
ゲイブリエル・バッソ(被告人ジェームズ・マイケル・サイス)
ゾーイ・ドイッチ(ジャスティンの妻アリソン・クルーソン)

キーファー・サザーランド(断酒会世話人、弁護人ラリー・ラスカー)

セドリック・ヤーブロー(陪審員9番マーカス・キング)
レスリー・ビブ(陪審員長(陪審員3番)デニース・オルドワース)
エイミー・アキーノ(判事テルマ・ホラブ・スチュアート)
アドリエン・C・ムーア(陪審員1番、バス運転手ヨランダ)

ブリア・ブリマー(廷吏ウッド)、ジェイソン・コヴィエロ(陪審員5番ルーク・ロビンソン)、ヘディ・ナッサー(陪審員6番コートニー)、レベッカ・クーン(陪審員7番ネリー)、フィル・ビードロン(陪審員8番ヴィンス)、チカコ・フクヤマ(陪審員10番、医学生ケイコ)、オニックス・セラーノ(陪審員11番イーライ)、ドルー・シャイド(陪審員12番ブロディ)、ジール・アヴラドポロス(陪審員13番、犬のトリマー・アイリーン)、フランチェスカ・イーストウッド(被害者ケンドル・アリス・カーター)、ケイトリン・ニューベリー(「ハイドアウェイ」のバーテンダー)、レイチェル・ウォルターズ(バーの女)、メガン・マダック(アリソンの友人)、メラニー・ハリソン(選挙運動本部長・声)、スコット・アラン・スミス(ジャスティンの職場の用務員)、ハビエル・バスケス・ジュニア(発見者のハイカー・リード)、カート・ユエ(検視官アンドルー・グエン)、トム・ソン(証人の老人)、ラヴァル・デイヴィス(レポーター)、ゲイブリエル・バトラー(アリソンの教え子オリヴァー)、ケヴィン・ソーンダーズ(体格のいい男)、ルシアーノ・アントニーノ(友愛会の男)、ルー・ボッシュ(コーヒーカートの売り子)、ケレン・ボイル(フェイスの助手)、ヴィンセント・ミヌテッラ(グラウンドキーパー)


STORY

ジョージア州に住むジャスティン・ケンプはアルコール依存の過去を乗り越え、妊娠中の妻アリソンの出産を心待ちにしていた。その矢先、陪審員としてある殺人事件の裁判に関わることになったジャスティン。事件は1年前の10月、恋人とバーで喧嘩をしていたケンドルが小川で遺体となって発見されたというもので、恋人のサイスに容疑がかけられていた。検事総長を目指すフェイスと国選弁護人エリックの話を聞くうちに、ジャスティンは自分がその日、同じバーにいてその帰り、車で何かを轢いたことを思い出し、自分が犯人であることに気づく。断酒会の世話人で弁護士のラリーにも相談するが、告白すれば身の破滅だと言われたジャスティンは苦境に立たされる。やがて始まった審理では有罪の意見が大半を占める中、ジャスティンはもっと議論をするべきだと主張する。


御年94歳になるクリント・イーストウッド監督の最新作。これが引退作とも言われているが、日本では劇場公開がなく、U-NEXTにて独占配信(アメリカでもかなり小規模の公開だったとか)。


陪審員制度を描いた名作と言えば、舞台作品を映画化した『十二人の怒れる男』があるが、ヘンリー・フォンダさん扮する陪審員8号がただ一人、被告となった少年の無罪を信じて他の陪審員を説得するのと同様、本作ではタイトルロールの陪審員2番ことジャスティンが有罪に傾きかけていた陪審員に待ったをかけ、審理を続けることになる。

ジャスティンは『十二人の怒れる男』の陪審員8号のような正義の人ではなく(名前が正義に由来しているのも皮肉なところ)、自分が真犯人だということに気づいてしまったがために良心の呵責に苛まれて審理続行を望んだに過ぎないのだが、サイスが無実だと証明することは自分に疑いの目が向けられる可能性が生じることを意味する。

なお、『十二人の怒れる男』はタイトル通り、陪審員は男だけだったのに対し、本作では男女入り混じり、人種も様々(日系人もいる)。その中の一人、ハロルドは元刑事であることが判明し、警察の捜査が不十分だと感じている彼もまたサイスの有罪に懐疑的な立場を取る。

サイスの無罪を証明したい、しかしもうすぐ子供が生まれてくる今の生活を壊すわけにはいかないというジャスティンのジレンマが全篇を貫く一方、サイスの有罪を信じて疑わない検事のフェイス(これまた信念という意味ありげなネーミング)が徐々に心乱されていく様も捉え、一分の隙もない演出が冴え渡る。

ニコラス・ホルトさん、トニ・コレットさんともに秀逸な演技で、両者が対峙する終わり方もよかった。


本国でも不遇な扱いを受けているとのことなので仕方ないのかもしれないけど、クリント・イーストウッド監督のスワンソング(仮)を劇場で観られないのはやはり寂しいのう。