演劇ユニット鵺的第18回公演
『おまえの血は汚れているか』
2024年10月18日(金)~27日(日)
ザ・スズナリ
作:高木登(演劇ユニット鵺的)
演出:寺十吾(tsumazuki no ishi)
舞台監督:田中翼(capital inc.)、中西隆雄
演出助手:中山朋文(theater 045 syndicate)
照明:阿部康子、内田英嗣
音響:岩野直人(STAGE OFFICE)
音楽:坂本弘道 舞台美術:小林奈月
宣伝美術:羽尾万里子(Mujina:art)
衣装:上岡紘子 舞台写真撮影:石澤知絵子
映像担当・稽古場制作:小崎愛美理(フロアトポロジー/演劇ユニット鵺的)
配信用映像撮影:小崎愛美理、浪谷昇平
制作:J-Stage Navi(島田敦子、早川あゆ)
制作協力:加瀬修一(contrail/演劇ユニット鵺的)、平田愛奈
賄い方:山本かおり
出演:
浜谷康幸[ゴツプロ!/ふくふくや](長男・黛匡志)
中村栄美子[tsumazuki no ishi](匡志の妻・黛美津世)
杉木隆幸(次男・皆川憲司)
今井勝法[theater 045 syndicate](三男・馬場志郎)
西原誠吾(四男・仁野芳夫)
堤千穂[演劇ユニット鵺的](芳夫の妻・仁野忍)
杉本有美(末子・片桐登志子)
谷仲恵輔[JACROW](美津世の兄・黛義文)
STORY
婿入りして妻の実家である書店を継いだ黛匡志は、30年以上離れ離れに暮らしていた弟たちを家に集める。次男の皆川憲司、三男の馬場志郎、四男の仁野芳夫と妻の忍、そして末っ子の片桐登志子。酒乱だった父親が母親を殴り殺すという事件が発生したために別々の家に養子に出されていた兄弟はそれぞれの思いを胸に集まってくる。その場には匡志の妻・美津世の兄で結婚に反対していた義文の姿もあった。匡志は弟たちに死んだと思われていた父親が生きていて、脳溢血で入院中であることを告げ、延命措置をするかどうかの相談を持ちかける。
演劇ユニット鵺的、新作公演。2012年上演の『荒野1/7』と同じテーマを扱う。
舞台手前は9畳ほどの和室。テーブル2つと座布団人数分。上手に店へと通じる廊下があり、取次店の段ボールが積み重なる。下手の廊下はガラス戸の玄関や2階への階段に通じる。廊下に囲まれた空間に井戸や手水鉢など。
実に素晴らしかった。
冒頭、一人の男が座布団を枕にして和室に転がる。すると一人の女がやってきて男を起こす。この2人が夫婦なのか恋人なのか、ひょっとして親子なのかと見ていると、女が男を「兄さん」と呼ぶことで兄妹だと判明する。
続いてやってくる妻の夫の客たちの関係性もすぐには分からない。どうやら兄弟らしい彼らはお互いの顔も確認しなければならないほど長い年月を隔てていたらしく、再会を懐かしむ者もいれば、すぐにでも帰りたそうな者もいて温度差がある。
やがて彼らがなぜ30年以上、疎遠だったのか、苗字がバラバラなのか、なぜ長男は兄弟を集めたのかという事情が明らかとなり、家族会議が開かれることになるが、客席がその様子を固唾を飲んで見守っているのが肌で感じられて実に心地いい緊張感を味わえた。
兄弟がバラバラとなったのは、酒乱の父親が母親を殴り殺した事件のせいなのだが、その実、父親は子供たちには手を出さず、むしろ母親が子供たちを虐待しており、父親はそれを止めるために最後の手段に出たことが示唆される。
もちろん、どんな事情があれ、殺人は許されることではないし、その事件のせいで兄弟の人生が狂ってしまったのも事実。しかも父親は外に女を作っていて(その子供が登志子ということも後で判明)、それが母親が荒れた原因なのではとなってくるとどっちもどっちということになってしまう。
自分は自分、親は親といくら頑張ったところで、どうしても気にしてしまうのが血というものだろう。次男は子供を作ったことを悔やみ、長男は子供を作らなかったことを悔やむのだが、どんな選択をしたところで殺人者の子供という運命からは逃れられない。長男はまだ美津世という理解者に出会えただけ幸せなのかもなぁ…。
心地よい緊張感が得られたのは、役者陣の好演があってこそのもの。
全員よかったけど、特に序盤、兄弟とは距離を置いて自分のことは皆川さんと呼ぶように言う次男役の杉木隆幸さんは、30年分の恨みつらみ後悔憤りを背負っているかのような佇まいで真に迫るものがあった。
長男の義兄役の谷仲恵輔さんは大声でののしりまくるような特異な人物ながらも妹にはやりこまれ、三男役の今井隆法さんは無職で結婚もしていない、ザ・うだつの上がらない男でともに憐れみを誘う面もあった。
長男役の浜谷康幸さん、その妻役の中村栄美子さんの関係性もとてもよかったし、四男夫婦の西原誠吾さんと堤千穂さん、事件当時のことはまったく記憶にない末っ子役の杉本有美さんもそれぞれの立場に説得力を持たせる演技だった。
演出、特に音響の使い方にも痺れるばかり。
とりわけ玄関の戸を開くと聞こえてくる救急車のサイレンや近所の小学校のチャイムの音、それに続く子供たちの声などは、音だけで別のドラマがこの家の周囲にも起きているのだと感じさせる。
ディティールまで作り込みつつ、ちょっと不思議な空間を生み出す舞台美術も秀逸で、玄関を開けたらよしずが立てかけられ、水の入ったペットボトルやサボテンが見えるのがリアリティがあった。
上演時間1時間28分。