『ウェイトレス おいしい人生のつくりかた』(エイドリアン・シェリー監督) | 新・法水堂

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『ウェイトレス おいしい人生のつくりかた』

Waitress



2006年アメリカ映画 108分

脚本・監督:エイドリアン・シェリー

音楽:アンドルー・ホランダー

撮影:マシュー・アーヴィング

美術:ラムジー・エイヴリー

編集:アネット・デイヴィー


出演:

ケリー・ラッセル(ジェンナ・ハンターソン)

ネイサン・フィリオン(ジム・ポマター先生)

シェリル・ハインズ(ベッキー)

エイドリアン・シェリー(ドーン)

ジェレミー・シスト(ジェンナの夫アール・ハンターソン)

アンディ・グリフィス(食堂店主オールド・ジョー)

エディ・ジェイミソン(オギー)

ルー・テンプル(カル)、ダービー・スタンチフィールド(ジムの妻フランシン・ポマター)、ハイディ・スルツマン(疲弊した母親)、ローリ・ジョンソン(ノーマ看護師)、サラ・ハンリー(リリー・ミューラー医師)、シンディ・ドラモンド(病院の看護師)、ネイサン・ディーン(牧師)、キャロライン・フォガティ(医師の助手)、クリスティ・テイラー(妊婦)、ジェニファー・ウォルシュ(同)、ハンター・キング(反抗的な幼児)、マッケンジー・キング(フラワーガール)、ドナ・レスリー(チャー)、ノーラ・パラディソ(エセル)、ダニー・アレン(ジム)、アンディ・オストロイ(ケーキの男)、ヘイリー・パーカー(新生児のルル)、ライリー・ステファネッリ(同)、ベラ・ストロメル(同)、キーラ・グレイス(3ヶ月のルル)、エレイン・レヴィン(パイ・コンテストの女性1)、ドリーン・パウエル(パイ・コンテストの女性2)、ソフィー・オストロイ(幼児のルル) 


STORY

国道沿いの食堂でウェイトレスをしているジェンナは、パイ作りの天才。毎日ユニークなパイを考案する彼女だったが、嫉妬深くて暴力的な夫アールが運転する車で食堂と家を往復する日々を送っていた。そんなアールとの子供を妊娠したことが発覚し、同僚のベッキーとドーンは同情を寄せる。ジェンナは妊娠の事実を告げずに町を出るため、隣町でのパイ・コンテストに出場して賞金を獲得することを決意。アールの猛反対に遭うが、出場資金を家のあちこちにへそくりする。産婦人科のミューラー医師のためにマシュマロパイを持っていくジェンナだったが、担当となったのは新任のジム・ポマター医師だった。店長のカルに小言を言われ、オーナーのジョーからの細かい注文を受けながらも働き続けるジェンナ。5分間デートをするというドーンのために恋するパイを作り、メイクをして別人のように仕立て上げる。だが翌日、花束を持って店に現われた相手の男オギーはストーカーのようにドーンにつきまとう。出血をしたことが気になったジェンナはポマターに電話をして、翌朝7時に診察の約束を取りつけるが、妊娠初期によくある症状だと言われてしまう。はっきりしない態度のポマターに腹を立てるジェンナだったが、バッグを取りに戻って彼の姿を見た途端、激しく唇を求め合う。妻がいるポマターとの関係を続ける一方で、オーナーのジョーと仲良くなっていくジェンナ。コンテスト当日、ジェンナは隣町に向かおうとするが、バス停に現われたアールに連れ戻される。妊娠していたこともバレ、「赤ん坊より俺を愛するなら産んでもいい」と言われる。そんな中、ドーンが嫌っていたはずのオギーと結婚することになり、店の中でパーティが開かれる。ところがそこにアールが現われて店で暴れる。ジョーはジェンナに新しい人生を踏み出すようにアドバイスする。やがてジェンナは出産のために入院。同じ病院に入院することになったジョーは、彼女に封筒を渡して出産の後に開けるように言う。苦しんだ末、ジェンナは遂に女の子を出産する。


脚本・監督、そしてドーン役で出演もしているエイドリアン・シェリーさんの遺作となってしまった作品。

最初はそのこともあって甘めの評価になってしまうかと思ったが、そんな心配はまったく必要なく、文句なしにいい映画であった。


食堂で働き、ダメ夫と二人暮らしをしている女性が妊娠をする、というまるでアメリカ版『自虐の詩』だが、大きく異なっているのはヒロインが旦那を死ぬほど憎んでおり、お腹の赤ん坊も望んではいないということ。

ジェンナはパイを作るときのみ辛い現実を忘れることができる。その中に自分の気持をぶちまけ、“アールの子供なんて欲しくない”パイといった具合に妙な名前のパイを作る。

パイ、特にアッパルパイなんかはアメリカではお袋の味ともいうべき食べ物だが、それを作る女性が母親になることを喜んでいないと言うのも皮肉な設定。

ジェンナはその能力を活かして町を出ようとしたり、ポマター先生との不倫に走ったりしてアールとの生活から逃れようとするわけだが、彼女を最終的に救ってくれたのは望んでいなかったはずの赤ん坊。

赤ん坊を授かった後の彼女の劇的な変化が痛快。出産というものが女性にとっていかに大きな出来事であるかがよく分かる。

その後のエピソードも心温まり(ジョーがいい味出していた)、ラストショットではるか向こうまで続く道がとてつもなく明るいもののように感じられる。


こんなに希望に満ちた作品を作る人が殺されてしまうなんてなぁ…。

この作品はエイドリアン・シェリーさんが妊娠中に脚本を書いたということだが、最後にヒロインの娘ルルとして出てくるソフィー・オストロイちゃんが実の娘とのこと。

それを知った後では尚更あのラストが切ない。


ところで旦那の名前がアールなので、同じく暴力的な夫が登場するディクシー・チックス(現ザ・チックス)の"Goodbye Earl"を連想したが、やはり本国でもそういう人が多かったようだ。日本ではそのことについて触れている人は一切いなかったけど。笑