『首』(北野武監督) | 新・法水堂

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『首』



2023年日本映画 131分

脚本・監督・編集:北野武

原作:北野武『首』(KADOKAWA)

撮影監督:浜田毅 照明:高屋齋

録音:高野泰雄 美術:瀬下幸治

装飾:島村篤史 衣装デザイナー:黒澤和子

特殊メイク・特殊造形スーパーバイザー:江川悦子

サウンドデザイナー:柴崎憲治

VFXスーパーバイザー:小坂一順

編集:太田義則 音楽:岩代太郎

助監督:足立公良 殺陣師:二家本辰己

スクリプター:吉田久美子

キャスティング:椛澤節子

製作担当:根津文紀、村松大輔

能楽監修:二十六世観世宗家 観世清和


出演:

ビートたけし(羽柴秀吉)

西島秀俊(明智光秀)

加瀬亮(織田信長)

浅野忠信(黒田官兵衛)

大森南朋(羽柴秀長)

中村獅童(難波茂助)

木村祐一(曽呂利新左衛門)

遠藤憲一(荒木村重)

勝村政信(斎藤利三)

寺島進(般若の佐兵衛)

桐谷健太(服部半蔵)

小林薫(徳川家康)

岸部一徳(千利休)

六平直政(安国寺恵瓊)

大竹まこと(間宮無聊)

津田寛治(為三)

荒川良々(清水宗治)

寛一郎(森蘭丸)

副島淳(弥助)

中村育二(滝川一益)

矢島健一(本多忠勝)

東根作寿英(丹羽長秀)

堀部圭亮(宇喜多忠家)

仁科貴(蜂須賀小六)

柴田理恵(遣手婆・マツ)

平原テツ(菩薩の権蔵)

ホーキング青山(多羅尾光源坊)

アマレス兄[アマレス兄弟](丁次)

アマレス太郎[アマレス兄弟](半次)

劇団ひとり(丁半博打の客)、日野陽仁(茂助の父)、國本鍾建、柳憂怜、大西武志、田中壮太郎、笠兼三、佐藤銀平、小谷真一、久保勝史(高山右近)、

中島広稀(織田信忠)、坂東龍汰、岐部公好、早川剛、常磐昌弘、雪之丞、野々目良子(茂助の妻)、お宮の松、芦川誠、サンティアゴ・エレーラ(宣教師)、観世清和(能「敦盛」のシテ)、観世三郎太(能「敦盛」のアド)、今村美乃、青木志穏(遊女)、松本亨子(遊女)、宮園博之(兵士)、大森亜璃紗(女郎)、菅家ゆかり(くノ一)、鈴木優(織田軍足軽)、渡辺光(公家)


STORY

天下統一を掲げる織田信長は、毛利軍、武田軍、上杉軍、京都の寺社勢力と激しい戦いを繰り広げていたが、その最中、信長の家臣・荒木村重が反乱を起こし姿を消す。信長は羽柴秀吉、明智光秀ら家臣を一堂に集め、自身の跡目相続を餌に村重の捜索を命じる。秀吉の弟・秀長、軍司・黒田官兵衛の策で捕らえられた村重は光秀に引き渡されるが、光秀はなぜか村重を殺さず匿う。村重の行方が分からず苛立つ信長は、思いもよらない方向へ疑いの目を向け始める。だが、それはすべて仕組まれた罠だった。【公式サイトより】


北野武監督が自身の小説を映画化。


北野武監督が戦国時代をどのように描くのか、非常に興味のあるところではあったが、まずキャストが男性ばかりなのが驚く。先般最終回を迎えた大河ドラマ『どうする家康』でも多くの女性キャラクターが登場したが、本作はお市の方も濃姫も細川ガラシャも出てこない。それだけでも他の余分な要素は削ぎ落とし、信長や秀吉を中心とした戦国武将の物語を描きたいという北野監督の思いが伝わってくる。

女性をほとんど排除することによって浮かび上がってくるのが、残虐性であろう。タイトルの「首」にふさわしく(?)一体本篇中で何人の首が斬られたか分からないし、最初も首を斬られた武士が川に横たわり、その切断面に虫がたかっているカットがインパクトを与える。そんな血で血を洗う残酷描写は北野監督がこれまでも『アウトレイジ』シリーズなどで見せてきた得意技でもあるが、一瞬たりとも気の抜けない武将たちのひりひり具合を醸し出すのに成功している。

その中でも際立っているのが、信長の狂気。これまでも様々な描かれ方をしてきた信長だが、ここまで常軌を逸しているのはちょっと記憶にない。村重に刀の先につけた饅頭を食べさせて口の中を血みどろにさせたかと思うとそこに唇を重ねたり、蘭丸と事を済ませた後、マッサージをさせていた弥助に噛みついたり、その一挙手一投足が強烈だった。


もちろん、残虐なだけではなく北野監督らしいユーモラスなシーンもそこかしこに。特に可笑しかったのが、秀吉、秀長、官兵衛が家康を訪ねるシーンで、秀長が土下座する兄の頭を押さえつけたり家康の草履を兄の懐で温めようとさせたりともはやコントのよう。

家康の影武者が次々と首をはねられて持っていかれるあたりも残虐性とユーモアが同居していたが、首を巡って争う男たちの滑稽さをも表している(そうそう、本能寺の変で信長の首を斬ったのが弥助だったというのには驚いた)。

最後、秀吉が「天下さえ取れれば首などどうでもいい」と茂助の首を蹴飛ばすが、その滑稽な争いに蹴りをつけたのが秀吉というわけですな。おあとがよろしいようで。


男ばかりの中、今村美乃さんが出演されていたのは嬉しい限り。ちゃんと気づけてよかった。笑