文学座9月アトリエの会『アナトミー・オブ・ア・スーサイド―死と生をめぐる重奏曲―』 | 新・法水堂

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文学座9月アトリエの会

『アナトミー・オブ・ア・スーサイド―死と生をめぐる重奏曲―』



2023年9月11日(月)〜23日(土・祝)
*21日(木)〜29日(金)に変更
文学座アトリエ

作:アリス・バーチ 訳:關智子
演出:生田みゆき
美術:乘峯雅寛 照明:賀澤礼子
音響:藤平美保子 衣裳:宮本宣子
舞台監督:的早孝起
制作:白田聡、谷口邦明、鈴木美幸
演出部:西本由香、水野玲子、戸塚萌、立花育栄
音響操作:池田優美
宣伝美術:荒巻まりの

出演:
栗田桃子(キャロル)
吉野実紗(キャロルの娘アナ)
柴田美波(アナの娘ボニー)
鈴木弘秋(キャロルの夫ジョン)
山森大輔(アナの夫ジェイミー)
磯田美絵(子ども時代のアナ/ティムの娘/近所の子ども)
渋谷はるか(ボニーの恋人ジョー/キャロルの後輩ラウラ/訪問助産師ローラ)
沢田冬樹(アナの元恋人ダン/エマの夫トビー/患者の息子ルーク/医師マーク)
梅村綾子(エマの娘デイジー/不動産屋カレン/医師ダイアン/看護婦/看護師)
目黒未奈(ジョンの姉エマ/エスター/水着の女性)
村上佳(ボニーの同僚ティム/不動産屋デイヴ/医師フェリックス/看護師)
鶴田しげ里(担当看護師メイ)

STORY
自殺願望を持ちながらも母としての役割を果たそうとするキャロル、薬物中毒に苦しみつつ自分の居場所を見つけようとするアナ、母親を早くに失い、医者として人間の死と生に常に向き合うボニー。三世代の物語は舞台上で同時に進行していく実験的な構造となっている。そこで紡がれる言葉は時に呼応し、共鳴しながら重奏曲のように奏でられていく。《母であること、女性であること、生き続けること、命をつなぐこと》自問自答を繰り返し、3人はそれぞれ決断していく。【公式サイトより】

2017年、イギリスで初演されたアリス・バーチさんの実験的な戯曲を關智子さん翻訳、生田みゆきさん演出にて上演。
本作は2021年、国際演劇協会(ITI)日本センターによる企画ワールド・シアター・ラボ第1弾として同じコンビによるリーディング公演が行われており、その際のタイトルは『自殺の解剖』。

舞台は3つに分けられ、それぞれにドアの枠組のようなものが並んで置かれている。背後にはスクリーンがあり、年号や場所を表示。
第一幕では下手より順にキャロル、キャロルの娘のアナ、アナの娘のボニーという三世代の女性の物語が同時に上演される。
左からA、B、Cとすると、シーン1はAのみ、シーン2はA、B、シーン3でABCの3つが揃い、シーン1のAでのモチーフがシーン2のB、更にシーン3のCへと受け継がれていく。つまり3つのパートが螺旋を描いているようになっており、第二幕ではABCの位置が入れ替わることで更に複雑に絡み合う。
螺旋で思い起こされるのがDNAの二重螺旋構造で、自殺と遺伝子の関係についても多くの調査研究がなされている。本作のタイトルにも「解剖」とついているが、自殺の本当の原因というのは病死などとは違って「解剖」できるようなものではなく、自殺を遂げた本人にすら分からないこともあるだろう。
いずれにしても、キャロル、アナと続いてきた負の連鎖を医者でもあるボニーが断ち切れるのかどうか。繰り返し用いられるモチーフの1つであるプラムが生を象徴する果実として存在感を発揮していた。

複数の会話が同時多発的に発せられるものとしては平田オリザさんによる現代口語演劇が想起されるが、本作は時代すらも飛び越えて、モチーフがリンクしたり、同時に同じ台詞が発せられたりする。更に戯曲では句読点のあるなしで台詞を発するタイミングが指示されていたり、大文字と小文字を使い分けることでどこを強調するかも指示されている。アリス・バーチさんはこの戯曲を「作曲した」と発言していたそうだが、役者陣はこの高度な技術が要求される楽譜を読み解き、見事なアンサンブルを奏でていた。
メインとなる栗田桃子さん、吉野実紗さん、柴田美波さんはいずれもよかったが、その他では表情豊かな梅村綾子さんが印象に残った。

上演時間2時間(一幕50分、休憩15分、二幕55分)。

アフタートークは上手から順に山森大輔さん、村上佳さん、磯田美絵さん、吉野実沙さん、沢田冬樹さん、柴田美波さんが登壇。
山森さんが進行役で、最初に文学座アトリエに来た回数、この作品が刺さったか、難しかったか、このタイプの舞台を観たことがあるかなどのアンケートを挙手にて実施。
同時多発的に行われる会話を時代ごとにやってみて、それを合わせるという(つまりは本番通りにやってみる)試みも。