劇団文化座『旅立つ家族』 | 新・法水堂

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劇団文化座 公演164

『旅立つ家族』



【東京公演】
2023年6月27日(火)〜7月2日(日)
あうるすぽっと(豊島区立舞台芸術交流センター)

原作:金義卿 翻訳:李惠貞
脚色:金守珍、佐々木愛 演出:金守珍
照明・映像:泉次雄 舞台美術:大塚聡
作曲・音響:大貫誉 振付:大川妙子
殺陣:佐藤正行 舞台監督:鳴海宏明
演出助手:米山実 制作:中山博実

出演:
藤原章寛(李仲燮(イ・ジュンソプ))
髙橋美沙(仲燮の妻・山本方子、後に李南徳)
佐々木愛(現在の山本方子)
津田二朗(文化学院・津田教授/方子の父/婚礼の人々/軍人/避難民/国際市場の人々/画廊の客/李署長)
青木和宣(五山学校・任用璉(イム・ヨンヨン)先生/文化学院・山下教授/汽車の男/避難民/国際市場の人々/国会議員/医者)
小谷佳加(仲燮の母/国際市場の人々)
姫地実加(仲燮の姉/避難民/酒屋の女主人)
高橋未央(方子の母)
桑原泰(詩人・具常(グサン)/国際市場のMP)
井田雄大(画家・韓黙(ハンムク)/闘う牛/五山学校の生徒/蟹/国際市場の人々)
泉建斗(仲燮の兄/闘う牛/避難民/国際市場のMP/李署長の部下)
小佐井修平(仲燮の甥・栄進(ヨンジン)/蟹/国際市場の人々)
為永祐輔(闘う牛/牛の持ち主/電報配達夫/婚礼の人々/運転兵/避難民/蟹/国際市場の人々/画廊の人々)
岡田頼明(牛/婚礼の人々/軍人/避難民/蟹/国際市場の人々/画廊の人々)
中田千尋(婚礼の人々/避難民/国際市場の人々/画廊の人々)
早苗翔太郎(闘う牛/五山学校の生徒/文化学院の学友/婚礼の人々/避難民/蟹/国際市場の人々/画廊の人々)
田中孝征(闘う牛/記者/五山学校の生徒/婚礼のカメラマン/国際市場の老人/画廊の男)
松永佳子(闘う牛/五山学校の生徒/婚礼の人々/避難民/蟹/国際市場の人々/画廊の従業員)
若林築未(闘う牛/五山学校の生徒/婚礼の人々/避難民/蟹/国際市場の人々/画廊の記者)
市川千紘(闘う牛/五山学校の生徒/婚礼の人々/避難民/蟹/国際市場の人々/画廊のカメラマン)
深沢樹(闘う牛/方子の友人・京子/婚礼の人々/避難民/蟹/国際市場の人々/画廊の女性客)
季山采加(五山学校の生徒/婚礼の人々/避難民/国際市場の人々/画廊の従業員)
阿部由奨(闘う牛/五山学校の生徒/文化学院の学友/婚礼の人々/軍人/避難民/国際市場のMP/画廊の人々)
五十嵐芹架(五山学校の生徒/婚礼の人々/避難民/国際市場の人々/国会議員の秘書/看護婦)
かんね[子役](仲燮の息子・泰賢(テヒョン))
あおか[子役](仲燮の息子・泰成(テソン))

STORY
日本による韓国併合の時代に朝鮮北部に生まれた李仲燮(イ・ジュンソプ)は、朝鮮の大地を愛し幼い頃より絵に描いていた。1935年、支配国である日本に渡り、文化学院美術科で絵を学ぶ。在学中に山本方子と出会い魅かれ合うが、戦局も逼迫して一人、実家のある元山(ウォンサン)へと戻った。想いを断ち切れない方子は終戦間近の1945年、危険な玄界灘を一人渡り仲燮と再会する。二人は結婚、山本方子は李南徳(イ・ナムドク)として生まれ変わり二人の子どもを授かる。まもなく第二次世界大戦は終結するも朝鮮半島は混乱が続き、やがて朝鮮戦争が勃発。身の危険を感じた仲燮は、芸術と家族を守るため、一人残るという母に絵を託して元山から脱出。一家は釜山から済州島にたどり着くが、南徳と子供たちは健康状態が悪化、仲燮を残して日本に帰ることとなった……。愛情のこもった手紙のやりとりがしばらく続くが、国交のない日韓の距離は思った以上に遠く、仲燮は次第に精神に異常をきたしてゆく…。【公式サイトより】

韓国の国民的画家、李仲燮の半生を描いた金義卿さんの代表作を金守珍さんが演出。2014年に初演、2017年に再演され、今回が再再演。

恥ずかしながら、李仲燮さんのお名前は今回初めて知ったので、開演前の幕に描かれていた《黄牛》が彼の作品だとは思っていなかった(サインのㅈㅜㅇㅅㅓㅂが중섭だと気づいてなるほどとなった次第)。

今でこそ国民的画家と言われる李仲燮さんだが、生前は特に評価されることなく、不遇のまま39年の生涯を終えている。日本留学時代に知己を得た山本方子(まさこ)さんと結婚して二児をもうけるも、貧困、病気、別居、そして何より画家としての苦悩が彼を襲う。
本作はそんな李仲燮さんの半生を彼の作品を交えつつ描いていて、徐々に追い詰められ、看護婦の首を絞めて「メフィストを呼んでくれ!」と叫ぶなど、精神にも異常をきたしていく彼の姿に引き込まれていく。
パーツで分かれた牛2頭を闘わせるシーンや国際市場での活気あるシーンなどは金守珍さんらしいところで、何曲か歌もあり。

キャストでは、主演の藤原章寛さんが実に素晴らしく、特に目の輝きが場面によって違っていて、乗り移ったかのようだった。
佐々木愛さんの存在感にも説得力があり、終盤の「ふるさと」は泣けた…。ちなみに現在の山本方子が登場するのは佐々木愛さんと金守珍さんによる脚色で、後に韓国でもこのバージョンで上演されたとのこと。
他には親友・具常役の桑原泰さん(最後に渋い歌声も披露)とアンサンブルの深沢樹さんが印象に残った。

なお、山本方子さんは昨年8月に101歳の天寿を全うされていて、初演時、再演時は本当に「現在の山本方子」だったわけね。『ふたつの祖国、ひとつの愛』というドキュメンタリー映画も観なくては(U-NEXTで配信中)。

上演時間2時間37分(一幕1時間18分、休憩13分、二幕1時間6分)。