イキウメ『人魂を届けに』 | 新・法水堂

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年間300本以上の演劇作品を観る観劇人です。ネタバレご容赦。

イキウメ
『人魂を届けに』

【東京公演】
5月16日(火)〜6月11日(日)
シアタートラム

作・演出:前川知大
ドラマターグ・舞台監督:谷澤拓巳
美術:土岐研一 照明:佐藤啓
音楽:かみむら周平 音響:青木タクヘイ
衣裳:今村あずさ ヘアメイク:西川直子
ステージング:下司尚実 舞台監督::山下翼
演出助手:山下茜 プロップマスター:渡邉亜沙子 照明操作:溝口由利子 音響操作:堤裕吏衣
衣裳進行:塚本かな 美術助手:安岐祐香
宣伝美術:鈴木成一デザイン室
Photo:©Inka & Niclas 舞台写真:田中亜紀
制作:坂田厚子 票券:宍戸円
制作デスク:谷澤舞 プロデューサー:中島隆裕

出演:
安井順平(刑務官・八雲)
盛隆二(公安警察・陣)
浜田信也(森に迷う者・葵/八雲の妻)
森下創(森に迷う者・鹿子/刑務所所長/ラジオパーソナリティ)
大窪人衛(森に迷う者・清武/山鳥の息子・ミュージシャン)
藤原季節(森に迷う者・棗/八雲の息子)
篠井英介(森に住む女・山鳥)

STORY
人魂(ひとだま)となって、極刑を生き延びた政治犯は、小さな箱に入れられて、独房の隅に忘れもののように置かれている。耳を澄ますと、今もときどき小言をつぶやく。恩赦である(捨ててこい)、と偉い人は言った。生真面目な刑務官は、箱入りの魂を、その母親に届けることにした。【公式サイトより】

イキウメ約2年ぶりの新作公演。

舞台となるのは森の中にある山鳥の家。出入口は中央奥、細長く高さがあり、ステップで下に降りてくる形。下手に山鳥のベッド。近くにだるまストーブ、上手に棚など。床には衣類が散在。

相変わらず突飛な設定のイキウメ作品だが、木漏れ日のような照明、鳥の鳴き声に包まれていた劇場が瞬間的に切り替わって物語世界へと引き込まれる。
「魂を込める」「魂を抜かれる」「魂を売る」など魂を使った慣用句は多いが、実際には目に見えない魂がぼんやりはしているものの姿形を取るのが人魂。本作ではその人魂がもっとはっきりした形を伴って、ついには人から人へ運ばれることとなる。
ある種、寓話性に満ちた物語で、舞台が森の中というのもいかにもという感じ。「キャッチャー・イン・ザ・ライ」ならぬ「キャッチャー・イン・ザ・フォレスト」という言葉も出てきて、八雲は山鳥たちに自分の過去を話すうちに(山鳥とも因縁あり)刑務所でのキャッチャーたらんことを志すようになる。
魂は目には見えないあやふやな存在だが、誰か一人でもいいから受け手がいれば、その存在は確かなものとなる。逆に受け手がいなければ、実体があろうとその存在は不確かなものとなる。
イキウメの舞台はいつも見終わった後にあれこれ思索したくなるのだが、本作も例外にあらず。すべてを咀嚼できているわけではないが、最後にほのかな希望が感じられる作品だった。

キャストはいずれも安定感あり。
シームレスに他人の思い出話の登場人物となる中、八雲の妻になった浜田信也さんがよかった。
篠井英介さんも篠井さんならではの役どころ。

上演時間1時間53分。