じおらま『たいない』 | 新・法水堂

新・法水堂

年間300本以上の演劇作品を観る観劇人です。ネタバレご容赦。

じおらま

『たいない』



2023年5月19日〜28日
こまばアゴラ劇場

原作:三好十郎『胎内』
上演台本・演出:神保治暉(じおらま/エリア51)
共同演出:山田朋佳、渡邉結衣(にもじ/みちばたカナブン)
光:麗乃(あをともして)
音:中野志保(エリア51)、神保治暉
空間:関由樹 宣伝美術:鈴木美結(エリア51)
舞台監督:橘美海(あをともして)
制作:本多瑛美子(じおらま)、西垣内園佳(じおらま)、渡邉結衣
芸術総監督:平田オリザ
技術協力:中條玲(アゴラ企画)
制作協力:半澤裕彦(アゴラ企画)

出演:
逵真洋(雑誌編集社勤務・私)
松田崚汰(高層ビル現場監督・ダースモール)
小松弘季[じおらま](コンビニ店員、元冷凍運搬船乗組員・アオリ烏賊)
林美月[にもじ](最後の電話交換手、そしてみんなの声・コエ/走る人/私の上司/ダースモールの友人/アオリ烏賊の妻・チヅ/アオリ烏賊とチヅの息子、園児・Qちゃん/Qちゃんのともだち・きどまる/小松原先生)

STORY
例の取材以降、家に閉じこもるようになった私。無断欠勤してから数日のある夜、停電した町に〈闇〉と〈静寂〉がおとずれ、私はトビラの外へ出る。同じ町に暮らすコンビニ店員、高層ビル建設の現場監督、園長先生…それぞれの光と闇。人々はふとしたコエでつながって、コエを介して”対話”をはじめる。これは、過去のようにもみえる未来の話。【当日パンフレットより】

エリア51の神保治暉さんによる新劇団じおらまの旗揚げ公演。

水道管が舞台を横断し、手前には鉄道模型。ランプがいくつか天井から吊るされている。そのタイトル通り、胎内を思わせる。
原作は三好十郎の『胎内』となっているが、ほとんど原型を留めておらず、「0 劇場」「1 音」「2 声」「3 地下鉄」「4 深夜」「5 早朝」「6 走る人」「7 闇」「8 光」「9 対話」の10の場面で構成。

舞台は近未来(上演台本によれば、第三次世界大戦以後)の日本で、雑誌編集者の主人公・私はさくら保育園で起きた事件を取材したことがきっかけで無断休職中という状態。
本作のタイトルは原作の「胎内」を平仮名にしたというだけでなく、「出たい」「出られない」の語尾を繋げた言葉でもある。
言わば行き場のない人々の物語と言ってもいいが、冒頭、諸注意のアナウンスをしていると非常口の「走る人」の声が聞こえてきて会話を交わし、最後に非常灯にふたがされて暗くなってから本篇が始まるのが非常に象徴的。
闇と光の対比も本作のモチーフとなっているが、暗い胎内を通り抜けてようやく光のあるところへ出たかと思ったら、理不尽にも再び暗闇に突き落とされる命もある(ただし、本作では暗闇が必ずしもマイナスのイメージを持つものとはなっていない)。そういった意味では、最後に2人の女性が交わす会話からは祈りのようなものが感じられた。

上演時間1時間33分。

今回は上演前、上演後は撮影可の他、上演中もスマホやタブレットを見たり途中入退場したりもOKというスタイル。
開場時からキャストおよび音担当の神保さんは舞台上にいて、準備運動をしたり話をしたりしていた。
アフタートークのゲストはうみのいえ代表の米村智裕さん。毎回1時間ほどのアフタートークを実施するというのも異例では。