椿組『まっくらやみ・女の筑豊(やま)』 | 新・法水堂

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椿組 2023年春公演

『まっくらやみ・女の筑豊(やま)』

 

 
2023年2月9日(木)〜19日(日)
新宿シアタートップス
 
脚本:嶽本あゆ美(メメントC)
演出:高橋正徳(文学座)
主題歌:山崎ハコ
美術デザイン:加藤ちか
照明デザイン:野中千絵(RYU CONNECTION)
音響プラン:佐久間修一(POCO)
音響オペレーター:島貫聡
音楽(作曲):寺田英一
衣裳デザイン:阿部美千代(MIHYプロデュース)
振付:スズキ拓朗(CHAiroiPLIN)
小道具美術デザイン:松本淳市(人形製作・操作)
かつら(床山)メイク:杉岡実加
演出助手:飯嶋佳保(文学座)
舞台監督:ジャック天野、本多慎一郎
舞台監督助手:松本淳市
HPデザイン:福原望
制作票券:佐藤希、近藤たえ、清水直子、アンデム
宣伝美術:黒田征太郎+タカハシデザイン室
 
出演:
井上カオリ(森下和子)
斉藤健(谷山健/坑夫/ヒョウスケ)
水野あや(ごりょんさん・大川ミサオ/権蔵の夫、ミサオの母・お鶴)
辻親八(頭領、ミサオの父・大川権蔵)
長嶺安奈(若き日の大川ミサオ/ミサオの孫・シズエ)
岡村多加江(語り部・トシエ)
木下藤次郎(トシエの夫・本田/筑豊炭坑・小頭/高松炭鉱・労務/仲鶴炭坑・労務)
山中淳恵(お鶴の連れ子・サト/スナックのママ・ミヤコ)
鈴木彩乃[劇団晴天](同・スエ/レイコ)
山本亨(サトの夫・伊藤伝介/伝介の孫・伊藤九郎/坑夫)
趙徳安(ミサオの恋人・ゲンゴロ/坑夫/木下)
佐久間淳也(ミサオの夫・キンジ/シズエの夫・ムネオ/坑夫)
望月麻里(金アキ/オキミ/看護師)
田渕正博(役人/トラジ/ミヤコの夫・斉藤正雄)
土屋あかり(坑夫の女房/山田の娘・山田リエ)
外波山文明(高松炭鉱・主任/大正炭坑・山田)
 
STORY
1958年(昭和33年)、一組の若い男女(和子、健)が筑豊の炭鉱町・中間(なかま)に現れる。二人は町に住みつき、人々に文芸サークルへの参加を呼び掛ける。当時、石炭から石油へのエネルギー政策の転換と合理化により、全国で労働争議が激化していた。和子は元坑夫の大川ミサオを訪ね、明治、大正の坑内労働と納屋頭の大川一家についての語りを記録する。健は若者たちに新しい運動を呼びかけ、それは町と二人の運命を嵐のように変えていく。【当日パンフレットより】

昨年は春の劇場公演が中止、夏の野外劇『夏祭・花之井哀歌』が初日のみの上演となった椿組(秋公演は無事に上演)。
 

昨年6月に死去した森崎和江さんが女坑夫から聞き書きした『まっくら』を基にしていて、森崎さんとパートナーでもあった詩人、評論家の谷川雁さんをモデルにした人物も登場し、明治時代から昭和にかけての炭坑の歴史を紐解く。


舞台は黒板で囲まれ、舞台の下が炭鉱への入口のようになっている。また、客席通路もたびたび使用。


物語は1958年(昭和33年)、森下和子が幼い娘(松本淳市さんが人形を操作)と赤ん坊を連れて客席通路を通って炭鉱町に現れるところから始まる。

和子がごりょんさんと呼ぼれる頭領の妻・ミサオの話を聞く形で、1899年(明治32年)筑豊炭鉱、1902年(明治35年)高松炭鉱、1918年(大正7年)仲鶴炭鉱と時と場所が移り変わり、再び1958年に戻って更に2年後、大正炭鉱へと至る。

一昨年の夏の野外劇『貫く閃光、彼方へ』同様(演出は今回と同じ高橋正徳さん)、過酷な環境で肉体を駆使する労働者の姿が嘘臭くないところがいい。


本篇中、森崎和江さんが妻や母といった名前から女性を解放することを目的として始めた交流誌「無名通信」も本作に出てくるが、全体的にフェミニズム的視点を通して炭鉱の歴史が綴られており、女性同士の連帯が描かれる。

「まっくらやみ」というのは炭鉱の内部のことだけではなく、女性たちが置かれた境遇そのものを指しているのだろう。60年余りの時が流れても大幅に状況が改善されたように思えないのが何ともはや…という貫地ではあるが、本作に登場する女性たちはみなたくましく、まっくらやみの中での一筋の光明にも見えた。

 

上演時間2時間8分。