『マイ・バック・ページ』(山下敦弘監督) | 新・法水堂

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『My Back Page』
マイ・バック・ページ
 
 
2011年日本映画 141分
監督:山下敦弘 脚本:向井康介
原作:川本三郎「マイ・バック・ページ」(平凡社)
音楽:ミト(fromクラムボン)、きだしゅんすけ
主題歌:「My Back Pages」奥田民生+真心ブラザーズ
プロデューサー:青木竹彦、根岸洋之、定井勇二
ラインプロデューサー:大里俊博
撮影:近藤龍人 照明:藤井勇 録音:小川武
美術:安宅紀史 編集:佐藤崇 装飾:松本知恵
音響効果:中村佳央 スタイリスト:伊賀大介
衣装:渡辺祥子 ヘアメイク:根本佳枝
スクリプター:中西桃子
VFXスーパーバイザー:小田一生
アソシエイトプロデューサー:岩浪泰幸
アシスタントプロデューサー:加納貴治、志子田勇
助監督:窪田祐介 制作担当:原田耕治
演出助手:片山慎三、倉光哲司
 
出演:
妻夫木聡(沢田雅巳)
松山ケンイチ(赤邦軍リーダー・梅山(片桐優))
忽那汐里(週刊東都表紙モデル・倉田眞子)
石橋杏奈(赤邦軍隊員・安宅重子)
韓英恵(同・浅井七恵)
中村蒼(同・柴山洋)
あがた森魚(東都ジャーナルデスク・飯島)
三浦友和(東都新聞社社会部部長・白石)
長塚圭史(東大全共闘議長・唐谷義朗)
山内圭哉(京大全共闘議長・前園勇)
古舘寛治(週刊東都記者・中平武弘)
山本剛史(自称自衛隊・清原(荒川昭二))、山本浩司(運動家・佐伯仁)、康すおん(刑事・高峰)、松浦祐也(うさぎ売り・タモツ)、青木崇高(同・キリスト)、赤堀雅秋(私服刑事)、早織(キネマ旬報編集者・三谷)、水崎綾女(タモツの妻)、中野英樹(週刊東都記者・津川)、山崎一(週刊東都デスク・徳山健三)、中村育二(週刊東都編集長・島木武夫)、菅原大吉(東都ジャーナル編集長・小林)、近藤公園(社会部A)、並樹史朗(記者・山口)、服部竜三郎(遠藤清/劇中映画の声)、杉山文雄(刑事A)、ノゾエ征爾(中堅刑事)、橋下一郎(大迫陸士長)、金子清文(公安の男)、朝香賢徹(刑事B)、中島朋人(同C)、松本たけひろ(同D)、松木大輔(同E)、いましろたかし(映画評論家)、長尾謙一郎(キネマ旬報編集者)、野中隆光(敷島の兄貴)、奥村勲(中華料理店の男)、児玉貴志(焼鳥屋の客)、保田泰志(同)、平家和典(同)、椿ゆきこ(同)、千代将太(松本)、岸井ゆきの(女の活動家)、熊切和嘉(京大パルチザン)、宇治田隆史(同)、本田隆一(同)、大橋裕之(同)、志子田勇(同)、足立智充(拡声器の男)、長尾長幸(哲芸研の学生A)、半沢知之(同B)、高羽彩(女学生A)、仁後亜由美(同B)、小寺智子(ホステス)、小高三良(ニュースの声)、横山真弓(劇中映画の声)、山田雅史(同)、深堀玲子(同)
エキストラ:【週刊東部】木村秀吉、坂倉虎一、竹内誠、武田耕一、土屋信幸、西川浩介、平林之英、港吉弘、山瀬海人、やまだ慎弥、名嶋創、【東都ジャーナル】大内進、親里嘉次、坂田耕児、杉迫義昭、杉本陽生、田中宗利、辻林義次、野村雅昭、安村進平、高木風太、富岡邦彦/桧垣吏、福田靖久、田中耕三郎、松川悦也、荒井知啓、香山栄志、桜塚れい、嶋村太一、春山剛、森山将史、杉山秀光、湯本真由、金枝修、将一、小堀真幸、丹羽悠介、真樹、大谷豊か、田中大介、片山健、田中利廣、松村タイキ、荻野達郎、星野富一、栗山元博、REON、亀山敦弘、落合順、竹田尚弘、丸山ひとみ、五十嵐壮弥、わたなべりんたろう、那須千里
 
STORY
1969年。東都新聞社で「週刊東都」の記者として働く沢田雅巳は、理想に燃えながら日々活動家たちを追いかけていた。1970年。大学生の片桐優は哲学件p思潮研究会を作るが、仲間たちと決裂。安宅重子、浅井七恵、柴山洋らと行動を共にするようになる。一方、沢田がオールナイトで映画を観てそのまま出社すると、新たに表紙のモデルに採用された倉田眞子が挨拶に来ていた。1971年。沢田は先輩記者・中平武弘とともに京西安保の幹部・梅山を名乗る男からの接触を受ける。その梅山こそ片桐優だった。中平は4月に行動を起こすという梅山に疑念を抱くが、沢田は宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』を好み、CCRの「雨を見たかい」をギターで歌う梅山に共感していく。その後、大幅な人事異動が行われ、沢田は念願だった「東都ジャーナル」に配属となる。梅山は京都に向かい、京大全共闘議長の前園勇に自衛隊襲撃事件について相談する。そして8月21日。梅山は柴山と自衛隊を名乗る清原に襲撃を指示。2人は通りがかりの自衛官を殺害し、「赤邦軍」と書かれたヘルメットとビラを置いて立ち去る。その後、梅山を取材した沢田は彼らが事件を起こした証拠として自衛官の腕章を受け取る。だが、そこに社会部の記者・津川が現れたことにより、梅山は思想犯ではなく殺人犯として扱われることになる。やがて梅山こと片桐優は逮捕され、沢田も犯人隠匿および証拠隠滅の罪で取調べを受ける。

川本三郎さんの回想録を山下敦弘監督が映画化。
 
原作者の川本三郎さんのことを知ったのは中公新書『アカデミー賞』(現在は中公文庫)を読んだのが最初。映画評論家だと思っていたので、本作で描かれる朝日新聞社時代の経歴について知ったのはずっと後になってのこと。
 
そんな原作者が関与した朝霞自衛官殺害事件(本作では朝霧)を題材にしているわけだが、当時もやっぱり片桐のような勘違い野郎はごまんといたんだろうなぁ。
最初に片桐が登場する大学での議論からして、彼の稚拙さが露呈される。相手に反論できない彼は「この研究会は俺が作ったんだ! それは間違いない」などと言い出す始末で、まともに議論もできないような男。よくそんな奴に他の3人はついていったものだ。
更には事件後、記事がいつ雑誌に載るのかと沢田を訪ねるシーンでは、「記事が載れば本物になれるんだ」という台詞が決定的にイタい。そんなことでしか自分たちの行動を正当化できないようでは、真の革命など程遠いだろう。
そんな勘違い野郎の犠牲となった若き自衛官・迫田もお気の毒。彼が今際の際、最後の力を振り絞って這っていくシーンが一番印象に残ったが、そんな彼の姿の前では片桐の理想など塵あくたに過ぎない。
その後の片桐がどうなったかは知らないが、果たして彼は理想のために老婆を殺害した『罪と罰』のラスコーリニコフのように地面にキスをしたのだろうか。
 
1976年生まれの山下敦弘監督がこの時代をどのように描くのかと思ったが、がっつり真正面から取り組んだという印象。全篇に響くウッドベースの音が効果的。141分という長さも感じさせなかったが、ただ一点、自衛官殺害のシーンで遠雷が轟いていたのにはずっこけてしまった。
 
主演の妻夫木聡さん、松山ケンイチさんはともに好演。松ケンは普段はあまり好きな俳優ではないのだけど、とにかく憂いを帯びた目の表情が抜群。
忽那汐里さんや石橋杏奈さんといった全共闘の「ぜ」の字も知らなかったであろう2人も画面に溶け込んでいた。もっとも、どちらも大して必要な役ではなかったけど…。忽那汐里さんなんて「私はきちんと泣ける男の人が好き」と言うために出てきたようなものだし。韓英恵さんや中村蒼さんもちょっともったいなかったかな。
 
ちなみに沢田がオールナイトで観る映画は川島雄三監督の『洲崎パラダイス 赤信号』。我らが芦川いづみさんの出演シーンではなかったのが残念だけど、新珠三千代さんが見られただけでもよしとするか。