『兄 かぞくのくに』(ヤン・ヨンヒ著) | 新・法水堂

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『兄 かぞくのくに』


著者:ヤン ヨンヒ
出版社:小学館
発売日:2012年7月23日

公開中の映画『かぞくのくに』のヤン・ヨンヒ監督自身による原作。
これまでヤン・ヨンヒ監督は『ディア・ピョンヤン』『愛しきソナ』という2本のドキュメンタリー映画を作ってきたが、『かぞくのくに』は初の劇映画。ただし、原作はノンフィクションとなっている。

本書は3部構成となっており、「新世界より―テドンガンでコノ兄は叫んだ」、「君に送る最後の手紙―コナ兄のステップファミリー」、「白いブランコ―たった数秒のケン兄の嗚咽」とそれぞれ3人の兄に焦点が当てられている。
映画は前2作を観ているので、監督を始めとしてアボジやオモニ、3人の兄たちの状況や人となりなども分かっているのだが、それでもやはり涙なしには読めない。いやむしろ、「ケーキ事件」などは娘を猫かわいがりするアボジの姿が浮かんできて余計に泣けてしまうのかも。
帰国事業で北朝鮮に「帰国」することとなった兄たちとの別れ(最初にコナ兄とケン兄、継いでコノ兄)や、精神を病んでしまったコナ兄が指揮者になりきって「新世界より」を歌い始めるあたりなども的確な描写で読ませる。
また、しがない劇団員だった監督に北朝鮮で撮影する映画に出演する話が舞い込み(『バード』)、ドタバタ続きの撮影の日々を送るくだりは興味深かった。