くちびるの会『老獣のおたけび』 | 新・法水堂

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くちびるの会

『老獣のおたけび』

 

 
2022年9月3日(土)〜11日(日)
こまばアゴラ劇場
 
作・演出:山本タカ
美術:稲田美智子 照明:山本創太、川添真理
音響:中村光彩 演出助手:佐野七海
舞台監督:わたなべひでお(猫侍)
衣裳協力:Costume Classics
宣伝美術:平崎絵理 広報:宮原真理
舞台写真:サギサカユウマ
収録・編集:近藤実佐輝
制作:北澤芙未子 制作助手:小関悠佳
制作協力:ゴーチ・ブラザーズ
 
出演:
薄平広樹(脚本家・川村明利)
中村まこと(明利の父・川村徹)
橘花梨(明利の同棲相手・友田千春)
木村圭介(明利の兄・川村雅史)
堀晃大(農家・大村健)
藤家矢麻刀(健の息子・大村タカシ)
 
STORY
駆け出しの脚本家・川村利明はある日、銀行員の兄・雅史から父親の様子がおかしいから見に行ってほしいと頼まれる。脚本の修正に追われていた利明がしぶしぶ三河地方に独り住む父親を訪ねると、父親は象になっていた。大学を卒業してから10年同棲している千春もやってきて、妊娠していることを報告する利明。畑を貸している大村には父親に会わせないようにするが、合鍵で上がり込んだ大村の息子・タカシが父親の姿を目にしてしまう。

くちびるの会、約3年ぶりとなる長篇新作公演。
 
舞台は日本家屋の一角。六畳一間の和室にテーブルなど。壁は何かのシルエットのようにくり抜かれ、廊下に出られる。廊下は上手にある三和土および玄関へと続き、更に奥にはトイレがあるという設定。
 
田舎に暮らす父親が象になるというカフカ的導入部だが、グレゴール・ザムザと違うのは父親は喋ることは出来て、息子たちと意思疎通は図れるという点。
東京で脚本家をしている利明は元々父親とは折り合いが悪かったらしく、母親が3年前に亡くなってからは田舎にも積極的に帰ろうとはしていなかった人物。千春との結婚も言い出しにくい中、象になった老いた父親に戸惑いながらも、最後は保護に来た人々に立ち向かっていくまでになる。
本作は山本タカさんの私小説的な側面もあるとのことだが、父親に対する愛憎半ばする思いが溢れているように感じた。
 
そんな父親を演じた中村まことさんが実に見事。中村さんだからこそ成り立っていたと言っても過言ではないぐらいだった。
薄平広樹さんも息子の複雑な心境を十二分に伝える演技だった。
 
上演時間1時間31分。