《イタリア映画祭2022》『小さなからだ』【配信】 | 新・法水堂

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『小さなからだ』

PICCOLO CORPO

 

 
2021年イタリア・フランス・スロベニア映画 89分
脚本・監督:ラウラ・サマーニ
脚本:マルコ・ボロメイ、エリサ・ドンディ
製作:ナディア・トレビサン、アルベルト・ファズーロ 
撮影:ミーチャ・リーチェン 編集:キアラ・ダイネーゼ 
音楽:フレドリカ・スタール
美術:ラケーレ・メリアド 衣裳:ロレダーナ・ブシェミ
録音:ルカ・ベントリン 音声編集:リカルド・スパニョール 整音:ナタリー・ヴィダル
日本語字幕:関口英子
 
出演:
チェレステ・チェスクッティ(アガタ)
オンディーナ・クワドリ(リンチェ)
マルコ・ジェロミン(賢人イニャック)、ジャコミア・デレアニ(女盗賊リア)、アンナ・ピア・ベルナンディス(聖地の隠者)、アンジェロ・マッティウッシ(御者)、ルカ・セラ(小島の司祭)、テレサ・カッペラリ(マーラ)、マルツィア・コリンナ・マイナルディス(コリンナ)、マリサ・ルピル(ヴァンダ)、イヴォ・バン(鉱夫頭)、デニス・コルバット(アガタの夫マッティア)、ジョヴァンナ・チェスクッティ(アガタの母)、クリスティーナ・キッツォラ(リンチェの母)、クラウディア・ロドロ(農場の調査員)、ルチア・カスティラーノ(農場主アスンタ)、イラリア・エミリアーニ(助産婦)、アレッサンドロ・バルバチェット(盗賊の頭コキアス)、ニラ・パトリツィオ(儀式の女)、エマヌエラ・チチゴイ(鉱夫)、マチルダ・ペルーチ(アガタの妹)、フェデリカ・ムリナー(司祭の賄い女)、リゼッタ・トティス(助産婦の手伝い)、マルコ・ノガロット(船頭)、フェデリコ・ソラヴィート(船頭の声)、フラヴィオ・デ・アントーニ(リンチェの父・声)
 
STORY
20世紀初頭のイタリア北東部、女の子を死産したアガタは悲嘆に暮れていた。洗礼を受けられずに亡くなった赤子は、永遠に辺獄をさまようと信じられていたからだ。だが、一瞬だけ死んだ赤子を蘇らせ、洗礼を授ける教会があると聞き、苦難の旅に出る。【公式サイトより】

《イタリア映画祭2022》上映作品。
 
昨年も何本かオンライン配信で鑑賞したイタリア映画祭、まずは今年の1本目。
ラウラ・サマーニ監督の長篇デビュー作で、カンヌ国際映画祭批評家週間に選出された他、ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞では新人監督賞を受賞。
 
舞台は20世紀初頭のイタリア。
女の子を死産したアガタは、洗礼を受けずに死んだ赤子が永遠に辺獄(リンボ)をさまようと聞いて苦悩するが、夫にも相手にされず、賢人イニャックに救いを求める。そこで耳にしたのが、赤子を一瞬生き返らせて洗礼を受けさせることができるという教会の存在で、アガタはその教会がある渓谷を目指して旅に出る。
現代なら「んなアホな」と思ってしまうところだが、なんせ電球もろくに普及していない時代なので、こういった信仰に関わるようなことは純粋に信じられていたのであろう。
途中、道案内を買って出たリンチェ(大山猫)に騙され、金持の家で乳母をさせられそうになるも、一行の馬車に拾われた女性が実は盗賊の一味でアガタも大事に持っていた箱を奪われそうになる。女盗賊リアはその中身を見て、アガタを逃してやる(言うまでもなく箱の中身は赤子の遺体)。ひょっとしたら、この女盗賊にも子供を亡くした過去があるのかも…。
アガタはくだんの渓谷がリンチェの故郷の近くにあるということで、道行をともにすることになるのだが、実家に戻ったリンチェが実は女性だと分かってびっくり。
とすれば、彼女にも語られざる過去があったはずで、総じて本作はリアも含めて母親になれなかった女性の生きづらさを描いているとも言える。
 
アガタと言うと、3世紀のシチリアに生きた聖女の名前でもある。両方の乳房を切り取られるという拷問にも耐えた聖女と同じく、本作のヒロインも困難を耐え忍び、赤子のために命を賭す姿が美しい(とりわけ終盤の水中のシーン)。
アガタの信心と呼応するかのような静謐さが余韻を残す秀作だった。