PARCO PRODUCE『粛々と運針』 | 新・法水堂

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演劇と映画の日々。ネタバレご容赦。

PARCO PRODUCE

『粛々と運針』

 

 
【東京公演】
2022年3月8日(火)〜27日(日)
PARCO劇場
 
作:横山拓也 演出:ウォーリー木下
演出補:友花 美術・衣裳:ひびのこづえ 照明:原口敏也(A EST FIRM)
音楽:GOMA 音響:原田耕児 映像:大鹿奈穂 ヘアメイク:宮内宏明
演出助手:佐藤ゆみ 舞台監督:小林清隆
宣伝:DIPPS PLANET 宣伝美術:成田久
 
出演:
加藤シゲアキ(築野一)
須賀健太(築野紘)
徳永えり(田熊沙都子)
前野朋哉(田熊應介)
多岐川裕美(結)
河村花(糸)
 
演奏:GOMA & 粛々リズム隊
Didgeridoo:GOMA
Percussions:辻コースケ(日替わり)
 
STORY
築野家。一(はじめ)は弟・紘(つなぐ)と二人で母を見舞う。病室で母から紹介されたのは、「金沢さん」という初対面の初老の紳士。父が死んだあと、親しい仲らしい。膵臓ガンを告知された母は、金沢さんと相談の結果、穏やかに最期を迎えることを選んだという。まだ治療の可能性はあるのに。
田熊家。平均寿命くらいまで支払いを続けたら自分のものになる小さな一軒家を去年購入した沙都子と應介。その家のどこかで子猫の鳴き声がする。早く助けてあげたいけど、交通事故で頸椎を痛めた應介はケガを理由に探してくれない。そしてお腹に新しい命を宿しているかもしれない沙都子は不思議なことにこの話の切り出し方が分からない…。
平凡な生活の内に潜む二つの家の葛藤を、周到な会話で縫い合わせるように描き出す命の物語。【公式サイトより】

iakuの横山拓也さんの2017年初演作品をウォーリー木下さんが演出。
私は2018年、《iaku演劇作品集》の1本として上演された再演をこまばアゴラ劇場にて鑑賞していて、それが初めて観たiaku作品だった。
 
舞台には全面に糸が張り巡らされ、スーツや椅子、柱時計などがぶら下がっている。
床面にも様々な形・大きさの椅子が置かれ、テーブルもある。
奥には向かって左にパーカッションの辻コースケさん、右にディジュリドゥのGOMAさん。
 
オープニング、体に響くディジュリドゥの音、背景には音楽に調和した映像が映し出され、俳優たちがキビキビと動く。ここだけでもずっと見ていられるほどのクオリティ。
物語は3つのパートで構成。築野家の兄弟は母の最期の話をし、田熊夫妻は授かった命をめぐって議論を戦わせる。いわば生と死の話が並行して進んでいく。
ディジュリドゥの音色は母親の胎内を思わせるが、交通事故によって記憶障害が残ったGOMAさんをこの作品の音楽に起用したことの意義は大きい(GOMAさんについては映画『フラッシュバックメモリーズ』が必見)。
 
築野家、田熊家ともう一組、糸と結という女性2人が縫い物をしているのだが、この2人の正体が物語全体のキーポイントともなる。正直なところ、4年前に観たときほどの感動はなかったが、劇場が大きくなった分、零れ落ちてしまうものがあるのも仕方ないところ。そもそも大きな劇場向きの作品ではないからなぁ…。
それでも終盤、周囲からはすすり泣きが聞こえ、この物語がきちんと届いていることを感じる。ジャニーズ主演によって多くの人がこの作品の存在を知ったことを思うと、メジャーの力はすごいなと純粋に感心。ただその分、チケットの値段が高くなり、入手しづらくなるのは困りものだけど。
キャストでは妊娠したことに戸惑い、産みたくない気持を吐露する徳永えりさんがよかった。
 
昨年の『目頭を押さえた』に続いて過去作がPARCO PRODUCEで上演された横山拓也さん、来年は満を持しての書き下ろし新作をご自身で演出かな?
 
上演時間1時間53分。