みちばたカナブン『旗をあげる』 | 新・法水堂

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みちばたカナブン第一回公演

  『旗をあげる』

 

 

 
2022年2月23日(水・祝)〜27日(日)
レンタルスペース+カフェ兎亭
 
作・演出:渡邉結衣
制作補佐:島野日菜子 宣伝美術:渡邉結衣
音響・照明オペ:出演者のみんな
 
出演:
渡邉結衣(ヤナギ)
伊勢広(アヤ)
横尾未来(サトウ)
林美月(マキタ)
山本真生(女)

 

STORY
ヤナギとアヤは旅にようとするが、なかなか踏み出すことが出来ない。アヤはネットカフェを転々とするマキタに誘われ、無人島に向かう。一方、ヤナギは練馬区でスーツ姿のサトウに声をかけ、サトウの家が自分の家だと言い張って中に入る。

 

現在、日本大学芸術学部2年生の渡邉結衣さんが主宰を務めるみちばたカナブン、タイトル通りの旗揚げ公演。
渡邉結衣さんは宮崎企画『東京の一日』に出演していて、アフタートークに呼ばれた宮崎玲奈さんのツイートでこの公演を知った次第。
 
開場時からマスクをしたヤナギとアヤが離れて座り、その前には様々な種類の靴やスリッパなどが仕切りのように並べられている。本作は出演者がマスクを着用した状態で上演されるのだけど、渡邉結衣さんによれば、大学入学以来、作・演出をした作品は全部がマスク着用だそうで、改めて今の大学生が置かれている状況に愕然とさせられる。

作品自体は短いものだが、独特なセンスが感じられた。
まずヤナギとアヤがヒッチハイクしていたかと思ったら、流れるようにアヤはマキタと会話を始め、ヤナギはサトウに声をかける。基本的にはこの二組の会話が交互に進むのだが、どこかふわふわとした空気感が漂う。
特にヤナギは引っ越したばかりで自分の家が分からないと言いつつ、サトウの家の前に来るとここが自分の家だと言い出して、住み着いてしまう。この二人の会話もかなりちぐはぐなものだが、例えば履いている靴が左右バラバラだったり、アヤの役を男性が、サラリーマンらしきサトウの役を女性が演じていたりするあたりもそういったちぐはぐさを醸し出すことに成功している(全然演出意図と違うかも知れないけど)。

本作でキーワードとして出てくるのが「ライン」という言葉。メッセージアプリのアレではなく、自分と他人との間の線、自分の心の中の線など様々な目に見えない線を指す。
思えば、上述した通り、靴が並んでいるのもラインである。会場は通常の劇場と違ってステージがあるわけではないが、靴を並べることで舞台と客席を分け隔てる。我々観客はその向こうに行くことは許されていないが、少なくとも今回の出演者5人はラインの向こうに行くことを選び、旗をあげることを決意した(ただし、劇団員はいないらしい)。その決意に拍手を送るとともに今後の活躍を期待したい。
 
上演時間44分。