二兎社『鷗外の怪談』再演 | 新・法水堂

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二兎社公演45

『鷗外の怪談』

 

 
【東京公演】
2021年11月12日(金)〜12月5日(日)
東京芸術劇場シアターウエスト
 
作・演出:永井愛
美術:大田創 照明:中川隆一 音響:市来邦比古
衣裳:竹原典子 ヘアメイク:清水美穂
演出助手:白坂恵都子 舞台監督:福本伸生/下柳田龍太郎
宣伝美術:永瀬祐一( BATDESIGN inc. )
宣伝写真:西村淳 宣伝ヘアメイク:川村和枝( p.bird )/望月香織
票券:熊谷由子 制作協力:持田有美 制作:安藤ゆか
 
出演:
松尾貴史(森林太郎(鷗外))
瀬戸さおり(森しげ)
木野花(森峰)
池田成志(林太郎の親友・賀古鶴所)
味方良介(「三田文学」編集長・永井荷風)
渕野右登(「スバル」編集者、弁護士・平出修)
木下愛華(森家の女中・スエ)
 
STORY
明治43(1910)年、帝国軍人にして、再び旺盛な文筆活動を再開していた作家・森鷗外のもとには来客が絶えることがなかった。時あたかも幸徳秋水ら社会主義者が一斉検挙される大逆事件が起きる中、弁護士でもあった「スバル」の編集者・平出修は事件の弁護をすることになり、鷗外に無政府主義についてレクチャーを受ける。一方で、慶應義塾大学の教授に就任し、「三田文学」を創刊した永井荷風や元陸軍軍医の親友・賀古鶴戸もたびたび顔を出し、第3子を妊娠中の鷗外の妻・しげは外出もままならないと苛立つ。小説を書き始めていたしげは、鷗外が書いた「半日」に対抗して「一日」という小説を構想。かねてから反りの合わない鷗外の母・峰は眉をひそめ、新米女中のスエは板ばさみとなる。

二兎社四十周年記念公演。
2014年初演、ハヤカワ「悲劇喜劇」賞を受賞した作品を新キャストにて再演。
 
舞台は鷗外森林太郎の「観潮楼」と呼ばれた居宅の2階。
正面奥に障子戸があり、その向こうに廊下。舞台手前には屋根瓦が見える。
下手側に本棚、机、椅子。中央に丸テーブルと椅子。上手に屏風、その陰に座布団。

初演を観たときにも感じたことだが、これは決して過去の物語ではない。
同じく大逆事件を扱った劇団チョコレートケーキ『一九一一年』(双方に平出修が登場)が奇しくも今年再演されたのは決して偶然ではなく、現在の政治状況がそうさせた結果だという気がしてならない。

中でも印象的だったのが、大逆事件の裁判をめぐる荷風との問答の中で、林太郎が「日本はそこまでデタラメな国じゃない」と答えるシーン。その実、司法の独立性は保たれず、政治的な判断による判決が下されるわけだが、近年の日本でも似たような事例があったようななかったような…。つまるところ、100年以上前から日本はデタラメな国だったということであろう。
 
松尾貴史さんは文学者でもなく軍医でもなく、一人の人間として思い悩む森林太郎像を作り上げていた。妻しげとの関係性は初演よりもカップル感が増していた。
 
上演時間2時間30分(一幕1時間34分、休憩10分、二幕46分)。