こまつ座『雨』 | 新・法水堂

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演劇と映画の日々。ネタバレご容赦。

こまつ座 第139回公演

『雨』

 

 
【東京公演】
2021年9月18日(土)〜26日(日)
世田谷パブリックシアター
 
作:井上ひさし 演出:栗山民也
音楽:甲斐正人 音楽監督:国広和毅
美術:松井るみ 照明:勝柴次朗 音響:山本浩一 衣裳:前田文子 ヘアメイク:鎌田直樹
振付:田井中智子 擬闘:渥美博 歌唱指導:満田恵子 方言指導:萩生田千津子、橘麦
宣伝美術:ささめやゆき 演出助手:坪井彰宏 舞台監督:加藤高、村田旬作
制作統括:井上麻矢 制作協力:美馬圭子
 
出演:
山西惇(拾い屋徳/紅屋喜左衛門)
倉科カナ(紅屋喜左衛門の妻・おたか)
前田亜季(芸者・花虫/町人)
薄平広樹(紅屋の番頭・金七/花売り)
久保酎吉(親孝行屋/藩士/紅花百姓)
櫻井章喜(男娼・釜六/紅花百姓)
土屋佑壱(願人坊主/平畠藩藩儒・佐藤愕夢/紅花百姓)
石田圭祐(井戸浚え/平畠藩家老・浜島庄兵衛/紅花百姓)
野坂弘(太鼓叩き/平畠藩勘定役・長谷川又十郎/紅花百姓)
木村靖司(桶直し/住吉大明神宮司)
チョウヨンホ(腕香者/紅花問屋仲間・最上屋/紅花百姓)
花王おさむ(峠の茶屋の婆・おかね/紅花問屋仲間・白石屋)
尾身美詞(峠の茶屋の娘・お絹/女中/芸者)
俵和也(飛脚/紅花百姓 ろ)
頼田昂治(紅屋の手代/紅花百姓)
岡部雄馬(紅屋の丁稚/紅花百姓)
助川嘉隆(町人/紅花百姓 い)
村岡哲至(町人/紅花百姓 に)
元田牧子(町人/紅屋の女中・とめ/芸者)
川飛舞花(浮浪者/紅屋の女中・お清/仲居)
榎本ゆう(浮浪者/女中/仲居)
宮松ぼたん(浮浪者/女中/仲居)
南里双六(紅花百姓 は)
武者真由(女中/芸者)
演奏:熊谷太輔(パーカッション)
 
STORY
東北羽前国平畠藩...そこは一面の紅花の里。瓜二つの紅花問屋の当主になりすまそうとした江戸の金物拾いの徳。言葉、習慣を捨て、自ら証明するものを失っていく。騙したつもりが騙されて、替え玉になったつもりの徳を待ち受けていたのは…幕府と藩の駆け引きを背負って、紅花問屋の娘・おたかは、必死に何を守ろうとしたのか。【公式サイトより】

『ムサシ』に続いて井上ひさし作品。

1976年、井上ひさしさんがオーストラリアの首都キャンベラに1年間滞在していた時期に書かれた戯曲を10年ぶりに再演。
10年前の上演は今回と同じ栗山民也さん演出だが、新国立劇場主催の公演。徳を演じる山西惇さんが釜六を演じた他、花王おさむさんは同じ役で出演していた。
私は初見。

本作の主人公・拾い屋徳は天涯孤独の身の上で、道端に落ちている五寸釘などを拾っては小銭を稼ぐ乞食。それが紅花問屋の旦那・喜左衛門に間違われたところから運命の歯車が大きく動き始める。
平畠の地にやってきた徳は、辻褄の合わないことが出てきたら何でも天狗隠しに遭ったせいにして乗り切ることにする。
徳は美貌を誇る喜左衛門の妻おたかに溺れる一方で、平畠弁を流暢に操れるようになり、紅花のことも勉強していく。さすがにそれでも限界があり、番頭・金七らから問い詰められる徳。その窮地を救ったのがおたかで、鈴口(亀頭)にイボが2つあるのが何よりの証拠だと言い、喜左衛門と一度肌を合わせたという女中・お清にも証言させる。
この辺りからどうも変だなと思うのだが、当の徳は偶然にも喜左衛門にもイボがあったのだと胸を撫でおろす。その一方で、自分の過去を暴くと脅しをかけてきた乞食仲間の釜六に手をかけ、正体を見抜いた喜左衛門の愛人・花虫も家ごと火をつけて亡き者にする。更には寒河江に潜んでいた喜左衛門本人にも毒を盛る徳。
こうして完全に喜左衛門になりすました徳だったが、喜左衛門が犯した罪により切腹を命じられた際、自ら証人を殺していたことに気づき、愕然となる。

自分が何者であるかを証明することの難しさ、自分という存在の危うさを描いているという点で極めて今日的でゾッとさせられる。
かつて辻萬長さんが演じた役を山西惇さんがコミカルな面とシリアスな面を緩急自在に演じていた(山西さんが辻さんの演じた役をやるのは5回目だとか)。
『anan』の表紙が話題の倉科カナさんは、紅屋を守るために徳を利用するおたかを演じ、凄みを感じさせた。

上演時間2時間58分(一幕1時間13分、休憩16分、二幕1時間29分)。