東京芸術劇場
『パンドラの鐘』
歴史の謎に惹かれ長崎で発掘を行う考古学者のオズがカナクギ教授の下で同僚のイマイチと掘り起こしたのは、土深く埋もれた巨大な古代の鐘であった。発掘研究の出資元であるピンカートン財団のピンカートン未亡人とその娘タマキはその鐘の謎を明らかにするようオズたちに依頼をする。すると、その鐘は古代王国が諸外国との戦の末に見つけた戦利品であったことが分かる。ところ変わって、物語は古代王国の歴史を描く。王女・ヒメ女は王であった兄の死をきっかけに王位を継承。王族に仕えるヒイバアとハンニバルは王の葬儀を終え、埋葬を葬式屋のミズヲらに命じる。王の遺体を埋めるため森深く進んでいく葬式屋たち。とあることから、棺の中に隠された秘密を知ってしまう 。ヒイバア・ハンニバルは口封じにミズヲらを処刑しようと企てるが、ヒメ女がそれを阻止、代わりにある任務をミズヲらに命じる。ヒメ女が統べる古代の王国は諸外国との戦を重ね、連戦連勝。戦利品として持ってきた鐘は美しい音色を持ち、パンドラという国から持ってきたことから「パンドラの鐘」と名付けられる。しかし、「パンドラの鐘」は古代王国の秘密と共に埋められてしまう。そこから時が経ち、長崎で古代王国の秘密をひも解くオズらは隠された真実に気付く。決して覗いてはならなかった「パンドラの鐘」に記された王国滅亡の謎とは? そして、古代の光の中に浮かび上がった<未来>のゆくえとは?【「SPICE」より】
1999年に初演された野田秀樹さんの戯曲を熊林弘高さんが新解釈で演出。
初演は野田秀樹さんと蜷川幸雄さんによる演出対決が話題となったが、私自身は蜷川演出版をシアターコクーンで観て、NODA・MAP版は映像で観ている。
今回、タマキとヒメ女、ミズヲとオズ、ピンカートン未亡人とヒイバアといった役を一人の役者が演じているのが大きな違い。
野田さんの作品は観ているうちに、実はとある事件を描いていたことが分かるというのがよくあるが、本作もそのうちの一つ。野田さんの故郷でもある長崎を舞台にした本作は、考古学やら古代王国の話かと思いきや、原爆投下がテーマであることに気づく。
熊林さんの演出は照明の使い方が凝っていて、冒頭のフェードアウト・フェードインは物語世界へと引き込まれる感覚を与えてくれる。また、舞台のあちこち4ヶ所に縦に置かれた棒状のライトや舞台中央に斜めに傾いだ状態で放置された残骸のU字の部分につけられた照明も効果的に使われ、全体的にスタイリッシュ。
ただ、展開を知っているせいか、テンポが遅く感じられ、やや物足りなさも残った。劇場自体のスケールの問題もあるかもしれないけど。
上演時間1時間48分。