こまつ座『日本人のへそ』 | 新・法水堂

新・法水堂

演劇と映画の日々。ネタバレご容赦。

こまつ座 第135回公演

『日本人のへそ』

 

 

【東京公演】

2021年3月6日(土)~28日(日)

紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA

 

作:井上ひさし 演出:栗山民也

音楽:宇野誠一郎 振付:新海絵理子

美術:妹尾河童 美術補:横田あつみ

照明:勝柴次朗 音響:山本浩一

衣裳:前田文子 ヘアメイク:鎌田直樹

音楽監督:国広雅毅

歌唱指導:やまぐちあきこ、安部誠司

宣伝美術:ささめやゆき 演出助手:坪井彰宏

舞台監督:福本伸生 制作統括:井上麻矢

 

出演:

井上芳雄(会社員/吃音研究者ワタヤ)

小池栄子(ストリッパー・ヘレン天津)
朝海ひかる(アナウンサー/第二秘書カネコノブコ)

山西惇(教授/代議士フナヤマ)
久保酎吉(審判員/やくざの親分コマツ)

土屋佑壱(右翼イシイ)
前田一世(鉄道員/第一秘書タカダ)

藤谷理子(沖縄娘/お手伝い・サイトウトメ)

木戸大聖(学生/書生キミヅカ)
安福毅(合唱隊 男①/チンピラやくざ・エンコヅメ)

岩男海史(合唱隊 男②/チンピラやくざ・サンズン)

山﨑薫(合唱隊 女①/お手伝い・ステ)

大内唯(合唱隊 女②/お手伝い・スエ)
朴勝哲(ピアノ伴奏者/ワタヤの助手ヤマダ)

STORY

アメリカ帰りの教授の元に集められた吃音患者たち。彼らはこれから教授の指導の下、「アイオワ方式吃音療法」によって患者の一人・ヘレン天津の半生を題材にした舞台劇に取り組むことになっていた。岩手県の農村に生まれ、集団就職で上京したヘレンは亀戸のクリーニング店に勤めるが、様々な職を転々とした後に浅草でストリッパーとなる。その後、ヤクザの女となり、やくざの親分の情婦、右翼の先生の二号、そして政治家の東京の妻となる。劇はやがてフィナーレを迎えようとしていたが、教授が背中から刺されるという事件が発生する。


井上ひさしさんの初めての戯曲を10年ぶりに上演。栗山民也さんが本作を演出するのは4度目だとか。

 

舞台は三方を壁で囲まれ、下手と上手には2ヶ所、中央に1ヶ所出入口。中央の出入口の左側には半分ぐらいの高さの出入口がある他、壁にいくつか空洞。上手にピアノ。

 

チラシに「趣向がすべて!」とある通り、様々な要素が詰め込まれたとんでもない傑作。それまでに『ひょっこりひょうたん島』などを手がけていたとは言え、これが初めて書いた戯曲とは恐るべし、井上ひさしさん。

冒頭、吃音患者たちによる吃音発声矯正練習では、読み上げる文の最後が「アイウエ王様」「カキクケ侯」「サシスセ僧」「タチツテ島」「ナニヌネ野」といった具合に言葉遊びがなされ、劇中劇が始まってからも歌う時は吃らないということでミュージカル仕立てでストリッパー・ヘレン天津の半生が語られていく。

 

とまぁ一幕まではそれなりに楽しめてはいたのだけど、二幕に入ってから怒濤の展開。

(以下、ネタバレ注意)

幕が上がると、舞台は代議士フナヤマ邸の応接間に様変わり。一幕で空洞になっていた箇所に扉や暖炉、絵画、窓がはめ込まれ、床にはラグ。

実は先ほどまでの矯正劇で吃音療法を受けていたのは教授で、他の人は協力者。お手伝いさん同士、トメとノブコ、ノブコとヘレンといった具合に同性愛の関係が連鎖し、男性陣は男性陣でこれまた全員が同性愛者というドタバタめいた展開もある中、フナヤマが殺害されたという報告が飛び込んでくる。アリバイのないワタヤはヘレンと一緒にいたと供述するが……。

そこから更に二転三転とどんでん返しの連続(朴勝哲さんが絡んでくるのはちょっと予想していたけど。笑)。もちろん仕掛けだけではなく、東北出身で吃音者でもあった井上ひさしさんのまさに原点とも言うべきテーマが込められた作品だった。

 

キャストは芸達者揃いで文句のつけようがない。

一幕では一人で何役もこなし、早替えもあって大変そう。

井上芳雄さんは最後の戯曲『組曲虐殺』に続いて最初の戯曲の主演をそつなく務める。

小池栄子さんは生きているうちに井上ひさしさんと出会っていたら、気に入っただろうなぁ。

朝海ひかるさんは、特に二幕でイメージを覆すような演技も披露。

恐らく一番台詞が多かったであろう山西惇さんもさすがの一言。

藤谷理子さんも頑張っていたけど、こまつ座の舞台に出演するとはなぁとしみじみ。

 

上演時間3時間7分(一幕1時間57分、休憩19分、二幕51分)。