シス・カンパニー公演
『23階の笑い』
2020年12月5日(土)~27日(日)
世田谷パブリックシアター
作:ニール・サイモン 翻訳:徐賀世子
演出・上演台本:三谷幸喜
美術:堀尾幸男 照明:服部基 音響:井上正弘
衣装:前田文子 ヘアメイク:佐藤裕子
舞台監督:瀧原寿子 プロデューサー:北村 明子
出演:
瀬戸康史(ルーカス・ブリックマン)
松岡茉優(キャロル・ワイマン)
吉原光夫(ミルト・フィールズ)
小手伸也(マックス・プリンス)
鈴木浩介(ブライアン・ドイル)
梶原善(アイラ・ストーン)
山崎一(ヴァル・スロツキー)
浅野和之(ケニー・フランクス)
青木さやか(マックスの秘書ヘレン)
STORY
時は、マッカーシズムに揺れる1953年。社会は政治、人種など様々な問題があふれていたが、テレビ業界は、熾烈な視聴率戦争の真っ只中。その闘いの中心は、生放送のバラエティショーだった。物語の舞台は、ニューヨーク五番街と六番街の間、57丁目通りにある高層ビルの23階の一室。ここは、冠番組『ザ・マックス・プリンス・ショー』を持つ人気コメディアン・マックス・プリンスのオフィスである。新入りライター・ルーカスにとっては、まさに夢の現場。ここには、マックスの才能を愛し、彼のためにコントを書き、認められようと集まった個性的な放送作家たちが行き交っている。主なメンバーは、目立ちたがりのミルト、ロシア出身のヴァル、ハリウッドを夢見るブライアン、マックスが信頼を寄せるベテランのケニー、病気不安症気味のアイラ、紅一点のキャロルとルーカスを含めた7名の作家たち。そこに、秘書のヘレンも加わって、出自も性格もバラバラなメンバーが、毒舌を交わしながら切磋琢磨しつつ、コント作りに没頭していた。マックスもそんな彼らを大切にしてきたが、そこに大きな問題が…。大衆受けを望むテレビ局上層部が、政治的な話題も番組に織り込むマックスたちのやり方を気に入らず、厳しい要求を突き付けてきたのだ。マックスと23階の仲間たちは、このピンチをどうやって切り抜けるのか?! 彼らに未来はあるのだろうか?【公式サイトより】
三谷幸喜さんが多大なる影響を受けたニール・サイモンさんの戯曲を演出。1993年初演。
舞台は高層ビルの23階の一室。
下手奥にドアがあり、部屋には7名の作家チーム各自の机(一番下手がルーカスで一番上手がキャロル)。上手側にガラス張りの窓があり、摩天楼が見える。その横にマックスの部屋へと続く出入口。更に上手側の壁にはヒッチコック風に描かれたマックスの似顔絵。
ストーリーはニール・サイモンさんがシド・シーザーさんのバラエティ番組の放送作家をしていた実体験をベースにした半自伝的内容となっていて、瀬戸康史さん扮するルーカスが作者の分身として語り手を務める。
主に3つの場面に分かれ、ルーカスが見習いとして働き始めて2週間経った1953年3月8日、正式採用された7ヶ月後、そしてクリスマスイブの23階の様子が描かれる。
そのままでは伝わりにくいようなギャグは三谷さんが日本人向けに書き直したとのことで、最初から最後まで笑いの連続。天才コメディアン、マックス・プリンスを中心に個性豊かな作家チームの7名+秘書が普段から気の利いた一言を発して笑いを競い合う(真っ白なスーツを着たミルトに対してアイラが「チキンでも売るのか?」が特に好き)。
そんな中、マックスのチームに対する愛情にホロリとさせられることもしばしばで、番組の時間が短くなり、予算が削られる中で、作家の一人をクビにしなければならないとなった時、マックスはくじを作ってきてキャロルに引かせるのだが、そこにはマックス自身の名前が書かれている。作家としての自分はクビにするという理屈で、チームを守ろうとするマックスの姿勢からはメンバー一人一人に対する深い信頼と愛情が窺える。
年の瀬に最高に面白い作品だったぞバカヤロウ(マックスの口癖)。
キャストはいずれも素晴らしく、チームとしての一体感がよく出ていた。
その中でも実質的な主役であるマックス役の小手伸也さん(三谷さんからも「主役ですからね!」とメールが来たとか)はまさにハマり役で、今年度の主演男優賞を差し上げたいぐらい。ちょっとスキャンダルでイメージダウンしていたけど、これだけの演技を見せられては文句のつけようがない。
英語が不得手ということで訛った喋り方をするヴァル役の山崎一さん、メンバーの中でもひときわ変わり者のアイラ役の梶原善さん(メル・ブルックスさんがモデルだとか)といった一癖も二癖もある熟練たちの中、コメディはほとんどやったことがないという吉原光夫さんの健闘も光る。三谷さんはこういう人材を見つけてくるのもうまいよなぁ。
キャロル役の松岡茉優さんも女性だからという理由で評価されるのではなく、作家として評価されたいという矜持を持った人物を好演。
舞台美術(壁に開いた穴や焦げた壁)、衣裳、音響(窓を開けると街の喧騒が聞こえてくる)などスタッフワークも完成度高し。