こまつ座『私はだれでしょう』 | 新・法水堂

新・法水堂

演劇と映画の日々。ネタバレご容赦。

こまつ座 第134回公演
『私はだれでしょう』
 

 
2020年10月9日(金)~22日(木)
紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
 
作:井上ひさし  演出:栗山民也
 
音楽:宇野誠一郎  美術:石井強司  照明:服部基  音響:山本浩一
衣裳:前田文子  ヘアメイク:鎌田直樹  振付:田井中智子
音楽監督:後藤浩明  歌唱指導:亜久里夏代  宣伝美術:ささめやゆき
演出助手:五戸真理枝  舞台監督:村田旬作  制作統括:井上麻矢
 
出演:
朝海ひかる(脚本班分室長・川北京子)
枝元萌(分室員・山本三枝子)
八幡みゆき(分室員・脇村圭子)
大鷹明良(放送用語調査室主任・佐久間岩雄)
尾上寛之(従業員組合書記・高梨勝介)
吉田栄作(CIEラジオ担当官・フランク馬場)
平埜生成(山田太郎?)
朴勝哲(ピアノ奏者)
 
STORY
敗戦直後の昭和21年7月。今よりもずっとラジオが人々の傍にあった。日本放送協会の一室からラジオ番組「尋ね人」は始まった。15分間の放送の中では戦争で離ればなれになった人々を探す無数の"声"が全国に届けられた。脚本班分室長である元アナウンサー川北京子をはじめとする三人の女性分室員は占領下日本の放送を監督するCIE(民間情報教育局)の事前検閲を受けながらも番組制作にひたむきに取り組んでいる。そこへ日系二世のフランク馬場がCIEのラジオ担当官として着任。そんなある日、彼らの元に一人の男が現れた。自称・山田太郎と名乗るその男は言う。「ラジオで私を探してほしい」。次々と騒動が巻き起こる中、自分自身がわからない男の記憶がひとつひとつ明らかになっていく――。これは戦後のラジオ番組「尋ね人」の制作現場を舞台に「真実」にひたむきに向き合った、向き合うことから逃げなかった誇り高き人々の物語である。「私はだれでしょう。だれであるべきでしょう」【公式サイトより】

初演は2007年、2度にわたって初日が遅れた曰くつきの作品。
今回は2017年の再演と同じキャストが集結しての再再演。
 
舞台には長椅子や机、棚。上手に放送用語調査室となる机。センター奥には天井からスピーカー。

戦後の日本放送協会(NHK)で聴取率90%を誇ったラジオ番組「尋ね人」を題材にした作品。フランク馬場は実在の人物だが、米国籍を捨てて馬場一(はじめ)となり、村長選挙に出るというあたりはフィクション。
もうひとつ、へーそんなことがあったんだと信じきってしまっていた広島・長崎からの投書はラジオコードゆえに番組で読まれなかったというのもフィクション。さすが井上ひさしさん、巧みだぜっ。笑

「私はだれでしょう」というのは日本という国自体が戦後陥っていた状況を示す言葉だと思うけど(だからこそ山田太郎という極めて平凡な名前にしたのだろう)、愛国の名のもとに自分を見失っている現在のこの国の状況にも相通じるものがある。
最初と最後に歌われる「耳」の歌はしっかりと周りの声に耳を傾けろという井上ひさしさんの警告なのかもしれない。
ただ、作品全体としては歌ありタップダンスありで楽しませてはくれたのだけど、井上ひさし作品にしてはあまり心に響く台詞や場面がなかったかな…。

役者陣では劇作家を目指す山本三枝子役の枝元萌さんと酔ったら人格が変わる脇村圭子役の八幡みゆさんが印象に残った。
 
上演時間約3時間1分(一幕1時間31分、休憩17分、二幕1時間13分)。