『すずしい木陰』 | 新・法水堂

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演劇と映画の日々。ネタバレご容赦。

『すずしい木陰』

 
 
2019年日本映画 96分
脚本・監督・編集:守屋文雄
プロデューサー:関友彦
撮影:高木風太  音響:弥栄裕樹
宣伝プロデューサー:重久夏樹  現場応援:柴田剛
出演:柳英里紗
 
STORY
たとえばその中古車屋の娘は、いつまで経っても子供みたいなヤツで、もうすぐ30歳になろうというのに、家でゴロゴロ、昼過ぎに起きて、朝食だか昼食だかを済ませる間にも、2、3時間テレビの前でぐうたら、食ったら食ったでそのまま履き潰したサンダルをつっかけ、家の裏の雑木林の隅っこにある、中古車屋の喫煙所みたいになっている一角に何年も吊られっ放しの、雨曝しのハンモックにぼよんと転がり、起きるでもなく眠るでもなくボーッと、生い茂る木々の葉っぱたちを眺めているように見えて、実は今後の人生に思いを巡らしながら、ふと頬を風に撫でられた途端、宇宙のことを考え出し、夏の空に伸び広がる天気輪の柱を見た気がしたのだが、やがてそんなこともどうでもよくなり、いつの間にかうたた寝をはじめ、今日もまた陽が暮れてゆく……。実は“うたた寝をしているのは中古車屋の娘で……”といったストーリーは、この映画にはなく、ただただ女の子が寝ているだけ。物語らしいことは何も起きない。にもかかわらず、確かに何かが起きている。“見つめる”行為の向こうに、何かが立ち現れてくる……。【「KINENOTE」より】

映画評論家・柳下毅一郎さんがTBSラジオ『アフター6ジャンクション』に出演した際、上半期ベスト映画1位として紹介していた本作(ポッドキャストはこちら)、アップリンク渋谷での再上映にて鑑賞。
 
女の子がハンモックに寝ているだけで何も起きない。
いやいや、そうは言っても最後に何かあるんでしょう?と思いきや本当に起きない。笑
正確に言うと、女の子は途中、ハンモックから降りたり、一旦フレームアウトしてから戻ってきたりはするのだけど、台詞らしい台詞もない(言語化できる言葉としては「ピヨピヨピヨピヨ」ぐらい)という究極のミニマリズム映画。
観る前は多分寝てしまうのではないかと思ったが、そんなことはまったくなく。あれ、以前も同じような感想を書いたなと思いだしたのが、太田省吾さん脚本の『水の駅』。太田省吾さんが演劇でやろうとしたことを映画でやったのが本作とも言える。
 
基本、何も起きないが、虫や鳥の鳴き声、周囲の生活音などが聞こえ(途中、意図的に音が遮断される)、スクリーンを見ているうちに細部にまで目が届くようになり、蚊取り線香の煙がたなびいていることにも気づく。
また、太陽が動くため、普通の映画ではありえないほど日光で画面が白くなり、また陰っていったりといった時間の経過を味わえるあたりも、細かいカットを積み重ねた忙しない映画が多い中にあっては異色中の異色であろう。
柳下さんのポッドキャストを聴く前にtwitterにも投稿したのだけど、本作こそは映画館で観るべき映画。アップリンク渋谷の最前列のデッキチェアで観たので、それも作品に合っていてよかったのかも。
 
主演の柳英里紗さんの存在も大きい。
なんせ96分もハンモックで寝ている女の子の役なんて誰でも彼でも務まるものではないが、膝を曲げたり、左脚だけハンモックから垂らしたり、そうした仕草だけで画面を持たせるのだから大したもの。
色々と小道具や衣裳も用意したが、結局全部取っ払い(この辺りもミニマリズム)、衣裳は柳英里紗さんが撮影初日に着てきた私服だとか。本人の素材そのもので勝負した結果がいい方向に出ていた。
個人的には本年度の主演女優賞候補。
 
本日最終日につき、守屋監督と柳英里紗さんのアフタートークあり。

守屋監督は俳優としても活躍されているが、城定秀夫監督『恋の豚』などで拝見するより若く見えた。
『おそいひと』の柴田剛監督がクレジットされているので気になっていたのだけど、思わぬご活躍?をされていたことが分かったのもよかった。笑