『アルプススタンドのはしの方』
2020年日本映画 75分
監督・編集：城定秀夫
脚本：奥村徹也
原作：籔博晶 兵庫県立東播磨高校演劇部
企画：直井卓俊 プロデューサー：久保和明
撮影：村橋佳伸 録音：飴田秀彦 サウンドデザイン：山本タカアキ
スタイリスト：小笠原吉恵 ヘアメイク：田中梨沙
応援曲編曲：田尻政義 演奏協力：シエロウインドシンフォニー
ラインプロデューサー：浅木大 助監督：小南敏也
主題歌：the peggies:(『青すぎる空』（EPICレコードジャパン）)
出演：小野莉奈（演劇部・安田あすは）、平井亜門（元野球部・藤野富士夫）、西本まりん（演劇部・田宮ひかる）、中村守里（帰宅部・宮下恵）、目次立樹（茶道部顧問・厚木先生）、黒木ひかり（吹奏楽部・久住智香）、平井珠生（同・進藤サチ）、山川琉華（同・理崎リン）
STORY
夏の甲子園1回戦に出場している母校の応援のため、演劇部員の安田と田宮は野球のルールも知らずにスタンドにやって来た。そこに遅れて、元野球部員の藤野がやって来る。訳あって互いに妙に気を遣う安田と田宮。応援スタンドには帰宅部の宮下の姿もあった。成績優秀な宮下は吹奏楽部部長の久住に成績で学年1位の座を明け渡してしまったばかりだった。それぞれが思いを抱えながら、試合は1点を争う展開へと突入していく。【「映画.com」より】
第63回全国高等学校演劇大会で文部科学大臣賞（最優秀賞）を受賞した作品の映画化。
昨年、浅草九劇でも上演され、その時の主要キャストが映画版でも続投（藤野役の石原壮馬さんは体調不良により降板）。
アルプススタンドというのは野球好きにはお馴染みだけど、阪神甲子園球場の内野と外野の境目の客席のこと（今回初めて知ったけど、かの岡本一平さんが名付け親なんだとか）。高校野球で応援団が陣取るあたりと言った方が早いか。
というわけで本作の舞台は甲子園球場のはず…なんだけど、どう見てもどこかの地方球場。
舞台なら、「ここは甲子園のアルプススタンド！」と言ってしまえば観客は頭の中でその光景を思い浮かべながら観るところだけど、映像の場合はそういうわけにはいかないのが難しいところ。甲子園球場には何度もお願いしたけれど、撮影許可が下りなかったんだそうで。
まぁ地方大会なら地方大会として観るのもありかな（タイトルに偽りありになっちゃうけど）。
それはさておき。
本作の主人公・あすはは昨年、自分が書いた脚本で高校演劇大会に出場するも、部員の一人がインフルエンザにかかってしまったために出場を断念。顧問からは「しょうがない」と慰められる（後にその部員がひかるだと判る）。
この「しょうがない」はあすはの口癖のようにもなってしまっていて、自分たちの高校が格上の相手に負けるのも「しょうがない」と言って、宮下恵からは「しょうがない」と言わないようにたしなめられる。
奇しくも高校野球が春のセンバツも夏の大会も中止になってしまった本年、新型コロナウイルスによってどれだけ多くの「しょうがない」が生まれることになったか分からないが、肝心なのは「しょうがない」で思考停止し、何事も諦めてしまうことではなく、だったらどうするか、次の道を探るなり、再挑戦したりすることだろう。
頑張っている人を冷めた目で見るのではなく、必死になって応援する。『のぼる小寺さん』にも通じるそんなまっすぐさが実に清々しい。
しかし高校演劇が絡んでいるとは言え、「中屋敷法仁が『贋作マクベス』を書いたのは18歳のとき」なんて台詞が出てくるとは。柿喰う客の中屋敷法仁さんを知っている人が今日の客席に何人いたことだろう。笑
キャストは主演の小野莉奈さん、眼鏡っ子の中村守里さんあたりは目立っていたけれど、個人的には口火を切って「がんばれー！」と声を出す西本まりんさんが印象に残った。舞台版には出てこない吹奏楽部部長にして成績トップの黒木ひかりさんも、テレビ中継で絶対抜かれるパターンの美少女っぷりでよかった。