『男はつらいよ 柴又慕情』 | 新・法水堂

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演劇と映画の日々。ネタバレご容赦。

『男はつらいよ 柴又慕情』

 

 

1972年日本映画 108分

原作・脚本・監督:山田洋次  脚本:朝間義隆
製作:島津清  企画:高島幸夫、小林俊一
撮影:高羽哲夫  美術:佐藤公信  音楽:山本直純
録音:中村寛  調音:松本隆司  照明:青木好文  編集:石井巖
監督助手:五十嵐敬司  装置:小野里良  装飾:町田武  進行:玉生久宗

製作主任:池田義徳

主題歌:「男はつらいよ」 作詞:星野哲郎、作曲:山本直純、唄:渥美清

 

出演:渥美清(車寅次郎)、倍賞千恵子(諏訪さくら)、吉永小百合(高見歌子)、松村達雄(車竜造)、三崎千恵子[三﨑千恵子](車つね)、前田吟(諏訪博)、宮口精二[東宝](歌子の父・高見修吉)、笠智衆(御前様)、津坂匡章[現・秋野太作](舎弟・川又登)、太宰久雄(朝日印刷社長・桂梅太郎)、佐藤蛾次郎(源吉)、新村礼子(戸枝屋のおばさん)、高橋基子(歌子の友人・みどり)、泉洋子(同・マリ)、吉田義夫(夢の親分)、桂伸治[10代目桂文治](不動産屋)、青空一夜(林不動産)、佐山俊二(不動産屋)、沖田康裕(諏訪満男)、中田昇(夢の子分)、北竜介(同)、大杉侃二郎(金平駅駅員)、戸川美子(金沢の旅館の仲居)、後藤泰子(同)、谷よしの(同)

STORY

“フーテンの寅”こと車寅次郎が、初夏を迎えた東京は葛飾柴又に久しぶりに帰って来た。ところが、団子屋「とらや」を経営しているおじ夫婦は寅が急に帰って来たのでびっくり仰天。と言うのも寅の部屋を貸間にしようと「貸間あり」の札を出していたからである。案の定、札を見た寅は捨てゼリフを残して出て行ってしまった。さて、寅の下宿探しが始まった。ところが、手前勝手な条件ばかり言う寅を不動産屋は相手にしない。やっと三軒目の不動産屋に案内されたのがなんと「とらや」だった。その上、不動産屋は手数料を要求する。払う気のない寅と居直る不動産屋との間が険悪になりそうになったが、結局、博が仲に入り手数料を払った。今度はそのことで、寅はおじ夫婦とも喧嘩になり、果ては建築中のさくら夫婦の家にケチをつけさくらを泣かせてしまった。居づらくなった寅は、また旅に出ることにした。最初に行った金沢で寅は、久し振りに弟分登と再会した。その夜、飲めや唄えのドンチャン騒ぎで、数年振りの再会を喜び合うのだった。翌日、登と別れた寅は、三人の娘たちと知り合った。歌子、マリ、みどりというこの娘たちを寅は何故か気に入り、商売そっちのけで御馳走したり、土産を買ってやったり、小遣いをやったりする始末。やがて、三人と別れた後、急に寂しくなった寅は柴又に帰ることにした。すっかり夏らしくなった柴又・帝釈天。寅は土手でみどりとマリに再会した。二人は金沢へ旅したときの楽しさが忘れられず、もう一度寅に会いに来たのだった。翌日には、みどりに聞いた歌子がひとりで寅を訪ねて来て想い出話に花を咲かせる。それ以来、たびたび歌子は遊びに来るようになった。そして寅は歌子に熱を上げ始めた。ところが歌子は、小説家の父と二人暮しで、好きな青年との結婚と、父との板挟みで悩んでいたのである。歌子はこの悩みをさくらに打ち明けた。「すべて貴方の気持次第ね」というさくらに力づけられた歌子はその青年と一緒に田舎で暮すことを決心した。このことを歌子からじかに聞かされた寅は、翌日、引き止めるさくらに「ほら見なよ、あの雲が誘うのよ」と言い残し、また旅立ってしまった。ひと月後、結婚して幸福な生活を送っている歌子から「とらや」に届いていた手紙には、留守中、寅が訪ねて来たらしいがもう一度寅に会いたいと記してあった。【「KINENOTE」より】


シリーズ第9作。

本作よりおいちゃんが二代目の松村達雄さんにバトンタッチ(満男役も交替)。

 

さて本作のマドンナはリリーに次ぐ存在と言ってもいい歌子(考えてみれば、演じているのはどちらも日活黄金期を支えた女優さんですな)。

歌子がみどりやマリと、更には寅さんも交えて北陸を旅する様は、さながらロードムービーか青春映画かといった趣。写真を撮るときに「はい、バター」であんなに笑い転げてもらえるならお安い御用だよなぁ。笑

柴又に帰った寅さんがみどりやマリと再会し、30年振りに帰った体でとらやに入っていくくだりも実に面白い。

 

3人の中でどこか陰のある歌子は、宮口精二さん扮する小説家の父とうまくいっていない(前作の志村喬さんに続いて七人の侍が!)。それが思い悩んでいた結婚にまで進めたのも、寅さんとの出会いがあったからこそ。いつものように振られてしまう寅さんだけど、自分は世間的な意味での幸せには縁遠くても、こうやって周りの人を幸せにしているのよねぇ。

ところで、歌子の結婚相手、愛知県の窯場で働くというから瀬戸市かと思ったら、最後の手紙の住所を見ると春日井市高蔵寺(『人生フルーツ』の津端夫妻が住んでいる辺り)。実際にロケをしたのは岐阜県多治見市だそうで。

 

前作、怪我のために出演できなかった佐藤蛾次郎さんをオープニングから登場させているのは、「今回はちゃんと出てますよー」と観客に知らせるための山田監督の配慮だろうか。笑