『男はつらいよ 奮闘篇』 | 新・法水堂

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『男はつらいよ 奮闘篇』

 

 

1971年日本映画 92分

原作・脚本・監督:山田洋次  脚本:朝間義隆
製作:斎藤次男  企画:高島幸夫、小林俊一
撮影:高羽哲夫  美術:佐藤公信  音楽:山本直純
録音:中村寛  調音:小尾幸魚  照明:内田喜夫  編集:石井巖
監督助手:今関健一  装置:小野里良  装飾:町田武  進行:長島勇治

製作主任:池田義徳

主題歌:「男はつらいよ」 作詞:星野哲郎、作曲:山本直純、唄:渥美清

 

出演:渥美清(車寅次郎)、倍賞千恵子(諏訪さくら)、榊原るみ(太田花子)、森川信(車竜造)、前田吟(諏訪博)、三崎千恵子[三﨑千恵子](車つね)、笠智衆(御前さま)、光本幸子[特別出演](冬子)、ミヤコ蝶々(菊)、田中邦衛(福士先生)、犬塚弘(巡査)、柳家小さん(ラーメン屋)、太宰久雄(朝日印刷社長・桂梅太郎)、佐藤蛾次郎(源吉)、福原秀雄、小野泰次郎、城戸卓(印刷工)、江藤孝(職人の仲間)、長谷川英敏(印刷工)、山村桂二、高畑喜三(職人の仲間)、北竜介(職人風の客)、中村はやと[クレジットなし](諏訪満男)

 

STORY

春三月。残雪の越後を旅する車寅次郎は、集団就職のために別れを惜しむ少年とその家族を見て故郷を想い出してしまった。一方、柴又には、寅の生みの親・菊が三十年振りで「とら屋」を訪れた。しばらくして菊は帰ったが、そこに寅が帰って来た。そして、さくらと一緒に帝国ホテルに泊まっている菊を訪ね、再会した嬉びも束の間、寅の結婚話が元で喧嘩になってしまった。菊は、そんな寅に終始気を使うさくらに感謝しつつ京都へ帰った。寅もこのことが原因でまた柴又を去った。旅先の沼津で、寅は津軽から出かせぎに来ている、頭は弱いが純真で可愛い少女花子と知りあった。寅はなけなしの金をはたいて故郷への切符を買ってやり、東京で迷子になったら柴又を訪ねるように伝える。数日後、花子のことを心配した寅が柴又に戻ると、花子が自分を訪ねてきていた。花子はとらやに預けられ、店の手伝いをすることになる。ある日、突然花子が寅さんのお嫁になりたいと言う。その気になった寅は、早速さくらに相談した。さくらは、おにいちゃんが幸せになれるならと賛成したが、おいちゃん、おばちゃんは、生れてくる子供のことを考えて猛反対である。そんな時、花子の身許引受人と名乗る福士先生が、突然紡績工場から行方不明になった花子を引き取りに来た。寅の不在中、花子は福士先生と共に津軽へ帰っていった。それを知った寅は柴又から消えた。それから数日後、旅先の寅から遺書のような手紙を受け取ったさくらは、列車で津軽に飛んだ。花子は小学校で給食の配膳などの仕事をしていた。一旦東京に帰ることにしたさくらはバスの中で偶然に寅と出会った。相変わらずの寅に飽きれながらもさくらはほっと胸をなでおろし、車内は笑いに包まれる。【「KINENOTE」のあらすじに加筆・修正】


シリーズ第7作。

個人的には『男はつらいよ』シリーズで一番好きな作品。

山田監督もベスト3を選んでくださいと言われた時に、迷わずに挙げたのがこの作品だったとか(佐藤利明さんの『みんなの寅さんfrom1969』より)。

 

本作の魅力は何と言ってもマドンナ・太田花子役の榊原るみさん。

いわゆる知的障害を持つ女性の役だけど、天真爛漫を絵に描いたようで実に可愛らしい。

「頭が薄い」(ハゲってことじゃないよ)など現在ではNGとなるような台詞が随所に出てくるけど、それでもなお、寅さんが花子に向ける眼差しは常に温かく、結局のところ、そういった言葉を「差別的だ」と糾弾するのは表面的なことに過ぎないと感じる。

特に交番で泣いていた花子に向ける寅さんの笑顔の優しさと来たら。それを見て花子もようやく笑顔を浮かべるわけだけど、寅さんはいつでも弱い者の味方だということを雄弁に物語っている笑顔でもある。

また、その前に柳家小さん師匠扮するラーメン屋の親爺が、目を見ればちょっとおかしいことが分かると寅さんに言うのだが、寅さんはまったく気づいていなかった。これはとりもなおさず、寅さんが人を見かけで判断しない、誰に対してもフラットに接する人だからであろう。

 

花子が柴又に来てから、ますます張り切る寅さん。

タコ社長が花子に肩を揉ませているのを見れば、「児童虐待法で訴えるぞ」(ちなみに1971年当時は児童福祉法の制定により、児童虐待防止法は存在しなかった)と息巻くなど、花子を溺愛する寅さんだが、他のマドンナと比べて異質なのは、その愛情が女性に向けた愛情というより自分の子供に向けての愛情に近い点であろう。

前半で寅さんの産みの親・菊が登場して、「お前ちょっと脳が足らんのと違うか」「脳が足りない息子を産んだのはどこのババアだ」と罵り合うシーンがあるが、寅さんは親元を離れて出稼ぎに来ていた花子に自分を重ね合わせ(冒頭にも東京に出稼ぎに行く少年たちが登場し、何かあったらとらやに行くように言う)、自分が母親から受けられなかった愛情を花子に注いでいたのかもしれない。

 

そんな花子もやがて故郷から福士先生が迎えに来て柴又を去ってしまうのだが、花子のそばに一生いると約束したんだと信じようとしない寅さん。花子は自分といるより先生のそばにいた方が幸せだって言うのかという問いかけに対し、さくらの「そうね、お兄ちゃん。その通りよ」という残酷ながらも真理を突いた返事が胸に突き刺さる。

寅さんが根無し草でいる限り、一生そばにいてやることなど不可能。さくらだからこそ言えた台詞よのうとしみじみ。

 

ところで榊原るみさん、昨年は『台風家族』に出演されていたのね。

いつか観なくては。