ナショナル・シアター・ライヴ『フランケンシュタイン』(ベネディクト・カンバーバッチ怪物役版) | 新・法水堂

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演劇と映画の日々。ネタバレご容赦。

ナショナル・シアター・ライヴ

『フランケンシュタイン』

National Theatre Live: Frankenstein

 

 

2011年イギリス 2時間

演出:ダニー・ボイル  映像版監督:アダム・ロウ

脚本:ニック・ディア  原作:メアリー・シェリー

舞台美術:マーク・ティルデスリー  衣裳:スティラット・アン・ラーラーブ

照明:ブルーノ・ポエット  音楽・音響:アンダーワールド

ムーブメント演出:トビー・セジウィック  擬闘:ケイト・ウォーターズ

 

出演:

ベネディクト・カンバーバッチ(クリーチャー)

ジョニー・リー・ミラー(ヴィクター・フランケンシュタイン博士)

ナオミ・ハリス(ヴィクターの婚約者エリザベス・ラヴェンザ)

ジョージ・ハリス(ヴィクターとウィリアムの父フランケンシュタイン氏)
ウィアリム・ナイ(ヴィクターの弟ウィリアム・フランケンシュタイン)

エラ・スミス(娼婦グレーテル/フランケンシュタイン家の女中クラリス)

ジョン・キロラン(乞食グスタフ/巡査)

スティーヴン・エリオット(乞食クラウス)

カール・ジョンソン(盲目の老人ド・レイシー)

ダニエル・ミラー(息子フィリックス・ド・レイシー)

リジー・ウィンクラー(フィリックスの妻アガサ・ド・レイシー)

ダニエル・イングズ(フランケンシュタイン家の召使)

マーティン・チェンバレン(同)

ジョン・スタール(オークニー諸島住人ユアン)

マーク・アームストロング(ユアンの甥ラブ)

アンドレア・パドゥラル(女性のクリーチャー)

ジョージー・ダクスター(アンサンブル)

ヘイドン・ダウニング(同)

 

STORY

1818年。ヴィクター・フランケンシュタイン博士の手によって生み出されたクリーチャーは、一人インゴルシュタットの町に取り残される。その醜悪な容貌から人々に恐れられたクリーチャーだったが、盲目の老人ド・レイシーに受け容れられ、言葉を学び始める。しかし、1年ぶりに帰ってきたド・レイシーの息子夫婦に追い出されたクリーチャーは、家に火をつけて復讐を遂げる。更に博士の住むジュネーヴにたどり着き、偶然出会った博士の弟ウィリアムを手にかけるクリーチャー。博士はクリーチャーの成長ぶりに驚くが、妻を作って欲しいというクリーチャーの要求を受け容れる。博士は父親や婚約者エリザベスを残してスコットランドのオークニー諸島に向かい、ユアンと甥のラブに若い女性の遺体の調達を依頼する。ウィリアムの蘇生に成功する博士だったが、女性の蘇生には失敗し、クリーチャーは恨みを募らせる。博士はすぐさまジュネーヴに戻ってエリザベスと結婚することにするが、結婚前日の夜、エリザベスは寝室に現れたクリーチャーの餌食となる。エリザベスを蘇生しようとして父親たちから狂人扱いされたヴィクターは、北極海まで追跡してクリーチャーと対峙する。


National Theater At Home第5弾その1。

 

 

ベネディクト・カンバーバッチさんとジョニー・リー・ミラーさんがクリーチャー(怪物)とフランケンシュタイン博士を交互に演じたうち、まずはベネさんがクリーチャーを演じたバージョンを。

2人は本作でオリヴィエ賞を受賞。

 

まずは冒頭、赤い照明の下、卵型の物体からクリーチャーが生まれ落ちるシーンが実に素晴らしい。時折閃光が走る中、下着一つでいわゆる“生まれたての子馬”状態となり、うめき声をあげながら立ち上がるまでを10分にわたって演じるベネディクト・カンバーバッチさんの演技は映像で見ても圧巻。

 

この作品は言わば、神となろうとした人間の愚かさを描いた悲劇。

不完全である人間が人間を作ろうとしても無理な話で、エリザベスの言うように、だったら子供を作ればいい。それでもなお、科学だと称して神の領域に踏み入ろうとしたフランケンシュタイン博士が狂人扱いされるのは必然。彼らにとってみれば、博士こそが怪物なのだ(実際、父親は"He's monstrous!"と息子を断罪する)。

 

クリーチャーにしてもそんな博士を恨みつつも、恨み切れない。

最後、博士が死んだと思ったクリーチャーが「私は死ねるのか?("Can I die?")」と戸惑い、「私が欲しかったのはあなたの愛だけだったんだ(All I wanted was your love.)」と嘆く台詞が切ない。

深淵なテーマを担ったメイン2人の演技に拍手。

 

それ以外のキャストでは、唯一クリーチャーに同情を寄せるエリザベス役のナオミ・ハリスさんが可愛らしい顔立ちでよかった。