『家族を想うとき』 | 新・法水堂

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演劇と映画の日々。ネタバレご容赦。

『家族を想うとき』

Sorry We Missed You

 

 

2019年イギリス・フランス・ベルギー映画 101分

監督:ケン・ローチ  脚本:ポール・ラヴァティ

撮影:ロビー・ライアン  美術:ファーガス・クレッグ

音楽:ジョージ・フェントン  編集:ジョナサン・モリス

衣裳:ジョアン・スレイター

 

出演:クリス・ヒッチェンズ(リッキー・ターナー)、デビー・ハニーウッド(妻アビー・ターナー)、リス・ストーン(息子セバスティアン・“セブ”・ターナー)、ケイティ・プロクター(娘ライザ・ジェーン・ターナー)、ロス・ブルースター(ギャヴィン・マロニー)、チャーリー・リッチモンド(リッキーの友人ヘンリー・モーガン)、ジュリアン・イオンズ(フレディー)、シーラ・ダンカリー(アビーの訪問先ロージー)、マクシー・ピーターズ(同・ロバート)、クリストファー・ジョン・スレイター(ベン)、ヘザー・ウッド(モリー)、アルバート・ダンバ(セブの友人ハープーン)

 

STORY

イギリス、ニューカッスルに住むある家族。ターナー家の父リッキーはマイホーム購入の夢をかなえるために、フランチャイズの宅配ドライバーとして独立を決意。「勝つのも負けるのもすべて自分次第。できるか?」と本部のマロニーにあおられて「ああ、長い間、こんなチャンスを待っていた」と答えるが、どこか不安を隠し切れない。母のアビーはパートタイムの介護福祉士として、時間外まで1日中働いている。リッキーがフランチャイズの配送事業を始めるには、アビーの車を売って資本にする以外に資金はなかった。遠く離れたお年寄りの家へも通うアビーには車が必要だったが1日14時間週6日、2年も働けば夫婦の夢のマイホームが買えるというリッキーの言葉に折れるのだった。介護先へバスで通うことになったアビーは、長い移動時間のせいでますます家にいる時間がなくなっていく。16歳の息子セブと12歳の娘ライザ・ジェーンとのコミュニケーションも、留守番電話のメッセージで一方的に語りかけるばかり。家族を幸せにするはずの仕事が家族との時間を奪っていき、子供たちは寂しい想いを募らせてゆく。そんな中、リッキーがある事件に巻き込まれてしまう──。【公式サイトより】

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『わたしは、ダニエル・ブレイク』のケン・ローチ監督が引退宣言を撤回して取り組んだ作品。

 

原題の"Sorry We Missed You"は不在通知票に書かれている文言なのだが、これは「私たちはあなたがいなくて寂しく思った」という意味にも取れる。私たちが誰で、あなたが誰なのかはまた色々な解釈ができそうだが、とにもかくにも本作では家庭を支えるはずの労働によって、家族がバラバラになっていく様が描かれていく。

 

万引きをして14日間の停学となったセスに説教する際、携帯電話を取り上げようとしたらキレられるというのは日本でもありがちな光景(アビーは携帯電話が“命”とまで言っていたけど)。

セスはリッキーの写った家族写真に「×」をつけ、バンにも落書きをして家を出て行く。バンの鍵が見当たらないことから、それもセスの仕業だと思い込んだリッキーは遂に息子に手を上げてしまうのだが、実は鍵はライザ・ジェーンが隠したのだった。

それもこれも元の父親に戻ってもらいたいという思いから。

 

その後、リッキーは男たちに襲われ、一部の荷物を奪われてしまう。

大怪我を負い、病院で診察を待っているリッキーのもとにマロニーから電話があり、盗まれたパスポートや壊されたスキャナーの弁償をするよう告げる(なんだってパスポートがあったんだろう)。

ここでアビーが電話を奪い、「クソッタレ」を連発しながらマロニーを罵るシーンが痛快。

アビーの声が罵りなれていないところがまたいいのよね。

 

最後、ボロボロの状態にも拘わらずバンを運転して出て行こうとするリッキーを、セブやアビーが体を張って止めようとする。しかし、それでもリッキーはバンをバックさせて2人を振り切って走り去る。

その先は映画の中で語られることはないので想像するほかないのだが、恐らくリッキーは仕事に行ったというよりは、マロニーを襲撃することが目的なのだろう。マロニーに対する恨みを晴らしたところで何も解決はしないのだが……。

 

キャストはオーディションで選ばれていて、有名な俳優は一人もいない。それどころか、マロニー役を憎々しいまでに演じていたロス・ブルースターさんなんて現役の警察官だというからびっくり。こうした素人に近いキャストを起用することで、リアリティを出しているんだろうなぁ。