必見!『亀も空を飛ぶ』 | 新・法水堂

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年間300本以上の演劇作品を観る観劇人です。ネタバレご容赦。

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『亀も空を飛ぶ』

Lakposhtha ham parvaz mikonand(Turtles can fly)
2004年イラク・イラン映画 97分
脚本・監督・製作:バフマン・ゴブディ
出演:ソラン・エブラヒム(サテライト)、ヒラシュ・ファシル・ラーマン(ヘンゴウ)、アワズ・ラティフ(ヘンゴウの妹・アグリン)、アブドルラーマン・キャリム(リガー)、サダムホセイン・ファイサル(パショー)、アジル・ジバリ(シルクー)

トルコに国境を接するイラク北部クルディスタン地方の小さな村。
アメリカとの戦争を間近に控え、村人たちは少しでも情報を得ようとサテライトとアダ名される孤児の少年にアンテナの修理を頼む。悪戦苦闘している中、目の見えない赤ん坊を連れた難民の少女・アグリンに出会って一目惚れ。ロープが必要だという彼女のために調達してやる。
今までのアンテナは使い物にならないということで、町にパラボラアンテナを買いに行くことに。無事にアンテナを取り付け、衛星放送を受信するが、ニュースは英語放送で何を言っているのか分からない。
サテライトは村の子供たちのリーダー的存在で、地雷を除去しては、それを仲買人に売りさばいていた。ところが、アグリンの兄で両腕をなくしたヘンゴウが他の子供たちに指示をしているのを知り、激怒する。だが、ヘンゴウの指示した場所からはいつも以上の地雷が見つかったのも事実だった。
数日後、トラックから資材を下ろす作業を取り仕切っていたところ、ヘンゴウが「そのトラックは不吉だ」と言っていたことを伝え聞いたサテライトは、嫌な予感がして子供たちを避難させる。果たしてトラックは爆発し、炎上。サテライトはヘンゴウに予知能力があることを確信する。ヘンゴウなら、アメリカとの戦争がいつ始まるのか分かるかも知れない──。

今年160本以上観た映画の中でナンバー1。
まだ2ヶ月ほどあるが、ほぼ間違いない。一つ強力な対抗馬があったが、これを観た後では相手にならなかった。その作品についてはまた別の記事で。
このタイトルを初めて目にしたときは、亀も意外に速く泳いだり空を飛んだり大変だなぁなんて思っていたのだが、内容はまったくの対極にある映画だった。

前半は割とユーモラスに描かれている。
英語でのニュース放送を訳してくれと頼まれたサテライトが「明日は雨だって」と答えたり、アメリカを説明するのにブルース・リーやサッカーのジダンの名前を出したり。
サテライトはアメリカびいきで、I don’t know.とかCome on.といった英語を使う。大人たちからは「まともな言葉でしゃべれ」と眉を顰められるが、「それどういう意味?」と聞いてくる子分のシルクーには得意気に教えてやる。

ところが中盤、アグリンの連れている赤ん坊リガーが、実はフセインの兵士に無理矢理乱暴された末に産んだ子供だということが明かされる辺りから、涙腺を刺激されっぱなし。
アグリンはそんな風にして生まれたリガーを自分の子供としては見ていない。「産んだら母親なの?」
戦争が始まるとアグリンは、兄にこの村を出ようと持ちかける。リガーは置き去りにして。
学校の授業もそっちのけで銃を調達し、扱い方を教えているサテライトの下にラガーが地雷原にいるという知らせがもたらされる。
駆けつけたサテライトは、目の見えないリガーに「動くな!」と言いながら近づいていく。
もう少しで手が届くところまで来たとき、動いてしまったラガーを助けるためにサテライトは地雷の犠牲となる。
サテライトは片足を損傷。今まで自分が憧れを抱いていたアメリカ製の地雷にやられたサテライトは、アメリカ軍の兵士が行き交っていても、目を背けるようになる。
リガーは無事だったが、ヘンゴウは泉に沈むリガーとそれを助けようとしている自分のビジョンを見る。その頃、戻ってきたアグリンがリガーを連れ出し、その足に岩をくくりつけていた。サテライトにもらったロープで。ヘンゴウは急いで駆けつけるが時既に遅し。崖にはアグリンの履物が残されていた。

子供たちの演技が真に迫っていて、思わずドキュメンタリーではないかと思ってしまうほど。
ヘンゴウは実際に両腕がないし、パショーは右足がない。
もちろん、ラガーも実際に目が見えておらず、彼がアグリンに崖に置き去りにされ、「ママ、ママ」と呼ぶところや、その後、地雷原に入ってしまうところはつらくて仕方がない。
聞くところによれば、この映画の後、アグリン役のアワズ・ラティフちゃんはテレビ局と契約、そのお金でリガー役のアブドルラーマン・キャリムちゃんの目を治す手術費用を出し、彼はそのおかげでこの映画を観ることが出来たという。
映画に輪をかけて涙を誘う話である。