「太陽は寝不足」
朝、ニートくんが町をふらついていると、
太陽と肩がぶつかった。
ニートくんは無気力だったので、街角へ出ることも
滅多にない。しかし、その日だけは、
絶対に欲しいと思っていた限定物の
「ときめきメモリアル攻略本 これだけで十分!」
を買いに出かけたのだ。
久しぶりに外を歩いたので、明らかにふらつき気味のニートくん。
太陽は、振り向きざまに、なんだ、コイツは。
そう言おうとした。
しかし、太陽は、ニートくんを見て、ぎょっとした。
体は痩せ細り、足は真っ白。手には血管が浮き出ていて青白い。
全身中学生ソックスかよ、と太陽は思った。
ニートくんは、何事もなかったかのようにその場を立ち去ろうとした。
太陽は、そんな彼を見て、同情した。
「私があっためてあげらければ、彼は死んでしまう。ときメモに
さらに夢中になり、頬は痩せこけ、全身に血が行き渡らなくなり、
やがて、果てるであろう」
危機感を感じた太陽は、彼の後をつけることにした。
電車を乗り継いでいくこと、40分。
目的地の電気街に着いた。
太陽は感じた。
「街のネオンは、確かに明るい。しかし、その未来は暗い」
妙に意味深であった。
ニートくんはそんなことなどおかまいなしに
ある量販店に入っていった。
店員は、うん?やけに明るいな、そう思った。
太陽はじりじりと彼の後と、焼け跡をつけていた。
エスカレーターの手すりが、熱で歪み、溶け出していた。
あまりの眩しさに店員は、仰け反り返った。
店にいるお客も、太陽が2本足で歩いているのに
驚いた。
時計を買いに来ていた老婆は、「お天道様、ありがたや」
と彼に合掌した。
目的の売り場は5階にあった。
ニートくんは、攻略本を見つけると、その場で立ち読みした。
太陽は、ついに彼の目の前に姿を現した。
ニートくんは人の気配を感じたが、あまり興味がなさそうに一瞥し、
また本を熟読し始めた。
堪りかねた太陽は、彼にこう言った。
「えーい!ニートだか、なんだか知らんが、太陽光線が
君には足りん。もっと光を浴びたまえ!」
そういうと、彼はありったけの紫外線を彼に浴びせた。
みるみるうちに、本売り場が焦げ始めた。
そして、気がつくとニートくんの隣にいた人が、チョコボール向井のように
マッチョで地黒になった。
ニートくんは、唖然とした。
そして、太陽の姿を見て恐怖に慄いた。
太陽は、優しい眼差しと光線で語りかけた。
「いいかい?人間は、紫外線が肌に良くないだとか、不健康だとか、
あまりに悪く捉えすぎる。
君もその自然界を否定した1人だ。
これからは、ときメモにはまってないで、精進したまえ。はっはっはー」
そういうと、太陽は5F全フロアを焼け焦がしながら去っていった。
手に持っていた攻略本は、陽に色焼けしていた。
振り返ると、先ほどの老婆が、去ってゆく太陽に向かって
まだ「ありがたや」とお辞儀をしていた。
時計の長針が熱で溶け出し、曲がりくねっていた。
ニートくんは、呆然としていた。
ふと我に返ったとき、隣で店員が真っ黒に黒光りしていた。
店員さんは、その後、イケイケのホストになり、
夜に光り輝く源氏名、「太陽」として君臨した。
ニートくんは、幸か不幸か、青白いままだった。
「人、間違えてんじゃん・・」
勢い無くそう呟くと、ときめきメモリアル攻略本と路地裏で
ダッチワイフを購入して、帰宅していった。
その日、太陽が寝不足だったのは言うまでもない。