人の幸せをイメージして、話すことは出来ない。


けれど、自分なりの幸せを紐解くことは出来る。


「幸福や不幸は想像できない」


この前、読んだ本の中に出てきた一小節。


幸せって、やっぱり現実に立って自分で作っていくものだと思う。


そのためには、自分を知ること



自分に似合うものを知る事は、幸せにも通じると思う。


ただ、自分と真っ向から向き合うのは辛い


だから、男性・女性という立場で見るとどうかなって。


まず、現実を見ること。


女性だったら、女性の本質を知ること。


はっきりと明言できるのは、には


決定的な違いがあることだと思う。


「女性だって男のやってることができる」


っていう人もいる。


だけど、女性には妊娠や授乳の機能が最初から


備わっていて、生命を存続させようとする


本能がある。


本能に逆らう行為は、不自然だと思う。


不自然な生き方を咎めたいんじゃなくて。


ただ、さっき言ったように自分に似合うか、似合わないか


っていうだけ。


自分が女性として、女性の良さを知っていれば


きっと「自分を綺麗に見せる方法」も曝け出せるし、


幸せに繋がると思う。


曝け出せないのは、本能に逆らってるからだと思う。

もっと極端な話をすると、物理学をひたすら勉強している


女性が、男の前で延々と


「アインシュタインの相対性理論」を語りだしたらどう?


ってこと。


男がその人を可愛い!なんて思うかなって。



確かに知らないより、知ってるほうがいいかもしれない。


だけど、好きな男性の前で博学な知識を晒すのは、


失態というより他ないって思う。



自分の良さのアピールを間違ってる。


自分の見せ方を知らない。


やっぱり自分を知らずには、いい恋はできないの


かもしれない。



反対に男は、行動することで喜びを実感できる。


当たり前だけど、引きこもりとか家でひたすら洗濯ばっかりとか、


内に篭ることは向いていないと思う。



それも古代から狩猟や家を建てたりとか、あるいは


漁に出て、より手軽に食べ物を採ってくる工夫を凝らしてる事から


外での行動が得意なんだと思う。



もし、好きな女性の前で、


「引きこもってガンダム作ってるんだよねぇー」


とか言ってたらどう?って話で。



やっぱりその彼に魅力を感じないってのが、


大半だと思う。


ただ、男の仕事が内勤であったとしても工夫は凝らそうとする。


内勤で、なおかつ、何も自分に発展がないのは


モテないどころか、本能を無視しているんじゃないのかって。



「俺、将来はガンダムになるんだー」って(笑)


女の子は誰もついていかない。



あと、自分がすぐ感情的になるとか、気分屋だって人は、


その性質が女性の本能だからと知って、自分なりの幸せを築いて


欲しいと思う。


感情的になるのが悪いからと言って、彼氏に隠そうとする人も


いるかもしれないけど、


それは悪いことじゃなくて、女性だからって事だと悟って。



だから、男と女の食い違いはしょうがないし、それを埋め合わせる


には、自分を知る以外にないんじゃないかなって思う。



比べるんじゃなくて、あくまで男・女なりの本能で幸せを持つ、


そう考える今日この頃です。



実家から帰ってきた説明もなく、


唐突に書いてしまって申し訳ありません。


ここ数日、実家に帰ると、色んな出来事がありました。


あったけど、正直、何から書いていいのかなって(笑)


あ、てか、このサイトがボランティアとして見られなくなったのは、


止むを得ないです。


ただ、アゲチンとして書いてるけど、上げてない部分も多々


あるんで。見方にもよると思うけど。



でも、やっぱり自分はアゲチンのスタイルを崩したくないと思うし、


幾ら小説を書いたからといって、「何にも役に立たない」物書きには


なりたいと思ってません。


誰かのためになる小説や詩、それを追い続けたいのは、


あくまで僕のスタンスです。



ご了承ください。


アメブロさんには、大変ご迷惑をかけたと思います。


この場を借りてお詫び申し上げます。



今後もアゲチンとして、女性ボランティアとして書き続けたいと思う


ので、皆様宜しくお願い致します。



レフトハンド

『松山デモクラシー』(松山での暮らし)



線路を越えると、昔、走り続けた道がある。


中学生の頃、僕が父親に半強制的に走らされていたランニングルートだ。



それは、毎日365日。1日も怠らず走り続けた。


あの頃、僕はランニングマシーンと化していたと思う。


僕と同期の仲間はよく言っていた。


「お前がハードなトレーニングをやってるのを見てるから、


俺らもそれ以上にやんないと勝てないよね」



確かに、その時の僕は負け知らずだった。不敗神話を更新し続けていた。


ただ、それは僕にとってあくまで日課だったし、勝ち続けるのは生活


そのもので、当然と課された使命だったように思う。



そこから、暫く5、6分歩くと、体育館が見える。


僕が実家に帰ると必ず通る並木道。


数々の思い出が蒸し返される。



雨が降っても濡れながら走った日。


練習が不本意で、コーチに怒鳴られて1人肩を落として帰った日。


仲間が、「途中まで送るよ」と言ってくれ、自転車で2人乗りした日。


あまりの苦痛に、目を真っ赤にして先輩宅に飛び込んだ日。


家出をして親に捕まって殴られた日。



今思うと、僕は特別な生活をしていたに違いない。


よく「変わり者」だと囃されたりもした。


だが、僕はその度に、変わっている性格であっても、


他のヤツが自由奔放に遊んでいる時であっても、


僕が走り続けた事には変わりはない。



今でも体育館や並木道を通ると、激しい動悸に襲われる。


「あの積み重ねがあったから、今の結果がある」



才能は、確かにあるかもしれない。


だが、それは苦労もしないで、何かを手にして喜ぶ人たちの気休め


でしかない。


「勝負」と言ってもピンとこない人は多いと思う。


でも、避けては通れない勝敗は必ずある。


僕は負け方を知っている。


負けた時の人知れぬ辛さや後悔も。


そして、辛さこそ、人を成長させるということも。



僕が何を訴え、何を残せるかは解からない。


けれど、ハードなトレーニングを重ねた頃と同じように


書かなければ始まらないとも思う。


僕は今。


近所の空き地でこの文章を書いているけど、


ハタから見れば「変なオッサン」だと我ながら思う(笑)


わざわざ文章を外で書く必要なんてないが、


絵描きだって風景画を描くし、詩人だって未来像を公園でスケッチ


しているかもしれない。


そして、僕もまた必要であるから、外で書いているだけだ。



アリーナでの熱い声援と暗い影を1人、想像している。


ありったけの空想に耽った後で、蝉時雨をバックにペンを執り、


書き続けている。



2005/8/15

『西条ノスタルジア』


 児島から瀬戸大橋を渡ると坂出が望める。


私が心待ちにしていたのは、故郷へと戻る道中だった。


相次ぐ都市の合併で、昔あった筈の住所がなくなり、


新しい町として生まれ変わっている。


ただ、私が想いを馳せるのは、故郷の原形である。



確かに、一体化した都市というのは、地図上でしか見受けられない。


だが、住む人々に愛着を齎せていた地名が消滅することに


寂しさを感じずにはいられなかった。


更に車を走らせると、製紙工場から漂う鼻をつく匂いがする。


色んな回想を張り巡らせながら、伊予三島を通過する。


高速を走らせるほどに、高鳴る胸の鼓動。



壬生川を抜けると、いよいよ西条が見えてくる。


見慣れた風景が私を出迎えてくれる。


ただ。


私をがっかりさせたものがあった。


閑静な街にぽつりと孤高に聳え立つ分譲マンションだ。


ここまで来て、場違いな物を見せられた時の、何とも言い知れぬ


悲しさがある。


人が物珍しさ、都会の憧れに惹かれ、建造物を建てたがるのは


痛いほど解かる。


勿論、私も田舎の端くれだし、こうして都会へ出たのも好奇心が


あった事は否めない。



私が、1人バッグを抱え、東京へ出てきてからというもの、


故郷への想いは日増しに強くなっていった。


と同時に、今まで見えなかった郷土の良さ、自然の中で育てた感性が


沸々と蘇ってくるのだ。



私の生まれた町。


いつまでも、そのままの形で残っていて欲しいと思う。


そんな想いに駆られながら、中学校付近を通ると、友達と毎日のように


連れ添って歩いた通学路に差し掛かる。


友達が言っていた言葉を思い出す。


「東京へ行っても、ずっと一緒だよ」



私が東京へ行く際、貰った河川敷の小石を握り締める。


夕刻、遅くまで水遊びをしていた場所で拾ったと、友達が


さりげなく話していた事を思い出す。


下流に落ちていた小石、丸くつるりとした感触。


私は彼女との思い出をそっと胸の内で反芻する。


通学路では、中学生がおしゃべりをしながら、バッグを抱え帰宅している


姿を見かける。


確かに、もうあの頃には戻れないかもしれない。



だけど。


心の中では、より膨張した変わらない気持ちがある。


「ずっと一緒だよ」


私はそう口走り、実家へと先を急がせるのだった。



<了>

「ドボクン 第4話」


翌日、出掛けたのは友人の自宅だった。


相変わらず雨は降り止むことを知らなかった。


暫く家に帰っていなかったせいもあり、服は捩れ、悪臭を


漂わせていた。


目的の場所までは1駅だったので、僕は歩いて行くことにした。


曲がり角。


大通りを曲がると、細くうねった小道が延々と続いている。


水滴が紫陽花の葉に落ちていた。


雨の中。可憐に咲く花。


僕は、それを見つけ、世の中にはなんて優しく、美しい物が


存在するのだろうと思った。


こちらを見て、微笑んでいるような気にさえなる。


確か、彼女の自宅に忍び込んだ時も。


脇の花壇に咲きほころぶ紫陽花があった。


僕は泣いてなんかいられない。


前を向いて生きなければならない。


暫く花に見とれた後で、僕は歩き始めた。


隣にはブロック塀に囲まれた住宅地が並んでいる。


かたつむり。


彼だって、ほんの少しずつだけど、着実に前に向いて歩いている。


少しずつ。


僕は今の傷心を乗り越える為、1歩ずつ歩くことでしか


生きがいを見出せないでいる。


僕は花に勇気付けられ、生き物に教えられたような気がする。



それから30分近く歩き続けると、下町に出た。


商店街と真っ直ぐ伸びた通り。


店には活気が溢れていた。


僕は電柱に張られてある住所とほんの少しの記憶を頼りに


友人の家へ辿り着く。


時刻は夕方4時を指していた。


僕は何時間歩いたのだろう。


そう振り返ると、笑いが止まらなくなってくる。


雨に笑うドボクン。


びしょ濡れだけど、こんなに自分の人生が凝縮されている


時間を過ごしたのは、生まれて初めてだったに違いない。



彼の家の前。指先に力を込め、インターホンを押す。


玄関前の階段からドタバタと足音が聞こえる。


友人は僕を見た途端、思わず仰け反る。


それもそうだ。


僕は汚い作業着姿で、しかもここ3日間お風呂にすら入っていなかったのだ。



友人は目を丸くした後で、驚いた表情で言った。


「お前、どうしたんだよ!!汚ねーなぁ、その格好。


いいから上がれよ・・。いや、先に風呂場で足ぐらい洗ってくれ!」



僕はお邪魔しますと申し訳なさそうな調子で言い、玄関で靴を脱いだ。


お風呂場で、シャワーを拝借し、足どころか体中を洗い流した。


泥だらけになった作業着を洗おうと洗面所に行こうとしたその時、


友人は駆けつけてきた。


「何やってんだよ!洗ってどうすんだ。俺が洗濯してやっから。


でも、どうやったらそこまで汚れんだ?」


友人は、不思議に思ったらしいが、僕の作業着を洗ってくれた。


そして、バスタオルを渡し、洗ったらすぐ2階の俺の部屋に来いと


言い残した。


僕は少し嬉しくなった。


こんな泥だらけでも、助けてくれる友人がいた。


いや、正確には土木関係の同期バイト。


生きてて良かった。


僕はシャワー越しに、まだ心に宿る涙を一緒に流す。


バスタオルを手に取り、体の水滴を拭き取る。


生きることの喜びを1人、噛み締めている。



2階に上がると、友人のルームにはギターや音響機器が


所狭しと置き並べてあった。


将来はギタリストになると言ってだけあり、彼の私生活には


音楽が浸透していた。


彼は、僕が上がってくるや否や、それまで読んでいた週刊雑誌を


ベッドに投げ捨て、声を掛けた。


「おい、まずはこれ飲めよ」


そう言うと、僕に冷え切った麦茶を差し出した。


からんと音をたて、氷がぶつかる。


僕の顔が綻ぶ。


「何があったのか知らないけど、あの作業着はヤバイだろ?」


僕はひとまず出された麦茶を一気に飲み干し、


一息ついた後でそのいきさつの一部始終を語った。


彼女との出会い。父からの勘当。自宅の不法侵入から鉄橋の話まで。


ありとあらゆること、全て。


友人は僕の顔を真剣に見ながら、相槌を打った。


話し終わる頃、彼の目には涙が溜まっていた。


例えば。


映画を見終わって感動した時みたいな感じ。



彼は、重い口を開いた。


「お前、よくそこまでやるよな・・。感心するけどね。


だけど、ドボクンには悪いけど、そこまでするような女


じゃないことだけは確かだよな」


彼はすごくモテる。音楽でコンサートをやった時には、花束を


両腕一杯に貰っていた。それも全部、女の子から。


僕は、彼の話を真剣に聞いた。


彼は続けた。


「本当にまだ好きなの?」


僕はない頭を振り絞って考え、沈黙の後で応える。


「よく解からないけど、好きなんだ・・まだ」


お前、正気かよ、そう言い退け、彼は僕にアドバイスをくれた。


「どうなるか解かんないけど、早くバイトに戻って来いよ。


みんな心配してんだから・・」


彼は大笑いした。


僕もつられて笑った。


彼は不思議な人だと思った。


紫陽花でもなく、カタツムリでもないのに、元気を与えてくれる。



窓を開けると、爽やかな空気が入り込んでくる。


先ほどとは打って変わって、空は青く輝いている。


雲と雲の切れ間に虹を見つける。


僕は自分なりの幸せを象っている。



<続く>

「なんでボランティアじゃねーの?」



今日、アメーバブログの運営者の方から「ジャンルカテゴリー」に


ふさわしくないといった内容の不名誉なメールを貰いました。


今までアゲまくりボランティアとして、投稿させてもらったんですが、


どうやら彼らの目には、ボランティアとして映らなかったみたいです。


見る目がないのも甚だしいですね。


確かに「アゲチン」と書いているわりに小説が多いと言われるかも


しれない。


だけど、小説もボランティアの観点を持って描いています。


先日の「傷心のバスケットコート」にしても、


女性に強く問いかけようと思って性描写したんですけど。


文章にしたって、別にお金を取ろうなんて考えてもないし、


あくまで無償で「上げる」ために書いてきたんですけどねぇ(苦笑)


それなら、彼らのいうボランティアの定義は、


女性のための」という内容は含まないって事ですかね?


僕からしてみれば、それはある意味で女性差別にも


該当するんじゃないのかって思いますけど。



じゃあ、例えばですよ。


僕の両親は、身体障害者ですけど、「身体障害者のため」なら


一向に書いていいけど、「女性のため」ならボランティアに


値しないって事じゃないですか。


普通に見れば、そういう意味になるでしょ?


だったら、ボランティアは「社会的に弱い人達」にしか成り立たないって


ことになり兼ねないじゃん。


それって、偏見じゃないのかって。



女の人も悩みを抱えてるわけだし、それがボランティアで認められない


っていうのは、見方が偏狭としか言いようがないよね。


運営者はよっぽど、見る目の浅い人たちなんだと思う。



エイズ患者にしたって、精神障害者にしたって、もとは同じ人間じゃん。


それを、弱い人の集団だからサポートしないとって見るほうが、


よっぽど差別だよね。



昔、精神病の子供とか山に捨てられたって話を読んだんだけど、


ある種、同じ発想だと思う。


結局、「あなたは、私達とは違うから」って理由で山に捨てた


わけでしょ?


ユダヤ人にしても、ナチスから「あなたはドイツ人じゃないから」って


迫害されたわけでしょ?


今回はそれと逆の話で、「あなたは障害者じゃないから」って理由で


女性』はボランティアの対象外って言ってきてるわけじゃない


ですか。



この話に関して、僕は1つの確信を持っています。


何故なら、今まで女性をサポートする立場だったから。


恋愛を通して、女の子を上げてきたから


もしくは、僕の両親が身体障害者で、兄弟が精神障害者だから。



はっきり言って、片腹痛いよね。


だったら、今の今までの僕を取り巻く環境から、何を得てきたんだ


って話になる。


親父が身体障害者だけど、僕にとっては普通の親父なわけで。


それを弱いから「ボランティア」。健常者だとボランティアじゃない


っていうのは、おかしいよね。



アメブロさんに言っておきますけど、


僕は死んでもこの考え方を変えません。


死んでもね(苦笑)


何故ならその考えは、俺自身だから。


親は俺自身だし、兄弟も俺。



この世に生を授かったのは、親や兄弟のお陰だと思って生きてきた。


だから、障害者やボランティアの見方に関しても同じだよね。


弱い人だからサポートしないとって考え方が


いかに危険な発想か、1度考えてみて欲しいですねぇ。


障害者は言う筈ですよ。


俺らだって、普通の人間だよ」って。



普通に見られたい。


俺だって、女の子だって、誰だって同じ人間ですよ。


どんな人をサポートしようが、ボランティアは


ボランティアなんだよ。


頭の固い、普通に生きてきた人にはきっと


解からないんでしょうけどね。




「傷心のバスケットコート」


私が都内で待ち合わせたのは、陽平先輩との待望の初デートの


ためだ。


普段より念入りにメイクをし、服も彼が好みそうな明るい色を選んだ。


私はこの日をどれだけ心待ちにしたか、誰も知る由もない。


1つ年上の大学の先輩。


彼は、バスケ部の先輩で、私達後輩にはすごく優しく、


頼りがいのある彼。


勿論、陽平先輩の事を私は尊敬しているし、付き合いたいと


願うのは当然の結果だった。


彼と仲良くなり始めた当初、彼には同級生の


恋人、真理子がいた。


真理子先輩もまた同じバスケ部だったが、誰もが知っているカップル、


いわゆる公認の仲だった。


だが、私は内心、同性である彼女に対して不信感をも抱いていた。


部活では、しょっちゅう、私達後輩に八つ当たりをするし、


滅法気が強く、反論をも許さない、いかにも体育会系らしい人だった。


そんな彼女を、部活動が終わった途端、仲間達と散々愚痴っていた。


「真理子先輩、よくあれで先輩と付き合ってるよねー!」


「ルックスも悪いし、ニキビだらけでさぁ・・」


「怒ると、私なんてもの凄い剣幕でボールをぶつけられちゃってぇ」


「ああ、やだ。怖い、怖い」


「陽平先輩は尻に敷かれるタイプなんだよ、きっと」



部室へ戻ると、私達は決まって陰口を叩く。


陽平先輩は、みんなの憧れの的であったが、格好いい彼が


そんな意地悪い彼女と付き合うことに嫌悪していた。


ある時、風の噂で先輩が、彼女と別れることになったのを


耳にした。


聞くところによると、些細な事から大喧嘩をして彼から一方的に


別れを告げたらしい。


私達は、期待通りのシナリオに胸を躍らせた。


「ざまーみろって感じ」


「じゃあ、次に付き合うのは私かな」


「何言ってんの!アンタなんかに付き合う資格ないわよ」


「ねぇ、さっきから黙ってるけど、美樹はどうなのよ!?」


私・・。


私は、特に自分のルックスに対してはさほど自信が無かった。


それに、後輩の中にも可愛い子はいたし、私なんて到底無理だと


思うのが本音だった。


ただ、少しだけ強がりな性格だった為、その場凌ぎに口走ってしまった。


本当は、そんなこと言うつもりはなかったのに。


「先輩の事好きだから、私、今度告白してみる!」


周囲からの視線が一斉に私に向かってきた。


その表情は、温厚なはずはなく、むしろ攻撃的な目だった。


「ちょっと自惚れてるんじゃないの?」


笑い声が部室中に響き渡る。


私は必死に、引き攣りそうになった顔を手で押し隠し、


何とか平常心を保った。


みんなライバル。



そう思うと、私が憧れる陽平先輩が、ますます尊敬の眼差しと


して映り、自分の中で恋心と戸惑いを押し殺す事に


自棄になるのだった。


部活で汗を流す先輩は、輝きに溢れている。


爽やかな表情。


すらっと伸びた背筋。


バランスの取れた顔。


こんなに3拍子が揃っている人なんていない。


そんな空想をしながらも、自分のプレーに集中することでしか


彼への恋を留めておく方法は無かったように思う。


アピールと言ったら良いのだろうか。


胸を押さえつけられるような感覚が、日に日に強くなっていった。



そんな矢先のある日。


掃除当番だった、私が1人でアリーナの清掃を終え、


帰宅する途中。


先輩とばったり出くわせた。


彼は、いつものようにタオルを肩に掛け、爽やかな表情で


歩いていた。


私を見つけるや否や、声を掛けてきたのだ。


私の鼓動は急速に高まった。


試合前の緊張感よりも遙かに早い脈。


「おう!1年の前田じゃん。今日さ、部員全体で飲み会をやるからさ。


みんなにも声掛けといてくれよ」


早口だったのか、私の気が動転していたのか。


そのせいもあり、私は上の空だった。


そう言い残し、先輩は颯爽と友人の元へ走り去っていった。


カッコイイ。


思わず、そんな言葉を口にした。


と同時に私は、自分の中に気の強さで固めていた恋の壁を


打ち破ろうと決意した。


告白。


それしかないと思った。


彼と直接話したことで、私の恋は急展開を見せる。


飲み会の席のことだ。


私は思い切って、陽平先輩の隣に座った。


ビールを片手に意気揚々とバスケットについて語る彼。


まるで少女漫画にでも出てくるような顔つき。輝いた目。


私は、先輩にその日、色々な話をした。


先輩は優しかった。


酔いも回っていたせいもあり、その場の勢いで私は先輩に


メールアドレスを教えた。


先輩は、微笑み返してくれた。


そして遂に念願の番号を聞いた。


それ以来、彼とは毎日のようにメール交換し、


電話でも相談してもらったりした。



まるで、夢のような日々だった。


彼と電話で話す時は、我を忘れ、時間の経過すら


気にならなかった。


深夜まで語り明かしたこともある。


彼のことを想い、部活でも側に居られる。


それだけで幸せを実感できた。


むしろ、生きた心地すら感じられないほど、私の精神と


肉体は開放感に満ち溢れていた。


部活仲間にもよく動くようになったと言われた。


「最近、美樹、調子いいよね!レギュラーも取れるんじゃない?」


そう仄めかされたりもした。


私は、充実していた。



そして。


夢にまでに見た初デート。


勿論、私から誘った。


勇気を振り絞って言ったのだが、先輩は2こと返事でOKしてくれた。


心底、嬉しかったし、願ってもないチャンスだと思った。



先輩と肩を並べて新宿の靖国通りを歩いた。


その日は夕方から会ったこともあり、2人で近くの居酒屋へ


飲みに行った。


先輩は、終始、私をエスコートしてくれた。まんざら、私の事を気に


掛けてくれる素振りもあった。


そして深夜。


2人で心地良い風を浴びながら、帰っていく途中。


陽平先輩は、肩をそっと抱いてくれた。


優しかった。


私は涙を目の中に浮かべた。


喉まで出かかっていた『好き』の2文字。


言おうとした時、先輩はそれを悟った様子で頷いた。


彼の表情を見ようとした途端、キスをした。


道の真ん中。


彼は、私の背中から手を回した。


私は、夢へと急かされるような心地に至った。


私の目を見つめ、陽平先輩は言った。


「今日は遅いから、家に来なよ」


私は、言われるがままに彼の家へと出向いた。



彼のマンションは中野駅の線路沿いにあった。


2人で歩く姿は、もうカップル以外の何者でもなかったように思う。


そして、ルームキーを手に取り中へ入ると、彼は私の手を握り、


そっと連れ添った。


部屋に着いてからの記憶は定かではない。


ただ、その後の彼は、私の服を脱がして身体を露にし、


行為に及ぶことに徹した。


私はまだ付き合ってもないのに・・と言いながら、抗ったような


気もする。


しかし、彼は私の懐に入り、心の底まで愛し始めた。


彼の手。


この世の物とは思えないすらっとした手で、私のあらゆる部分を探る。


うなじを彼の舌が這う度、私は甲高い声を上げる。


徐々に、エスカレートしてくるキス。


いとも簡単に私を深々と抉り、かろうじで持ち堪える。


私の局部に到達したとき、私は宙を浮いているかのような


夢の中へと導かれた。


いつの間にか、彼が隣で寝そべっている。



その横顔を私は密かにずっと1人占めしていたい、


そんな気持ちに駆られるのであった。



その後も何度か私は陽平先輩の自宅に連れ出され、


彼の側に寄り添った。


至福の時間。


しかし、それは突然、思わぬ結末を迎える事となった。



部活が終わり、いつものように彼にメールをしていると、


何時間経っても返信が一向に返って来ない。


私は不安に思い、彼のいるであろうキャンパスに足を運んだ。


すると。


私はその光景に愕然とした。


彼は、去年ミスコンテストで優勝した女性と連れ添っていた。


いや、違う。


私は我が目を擦った。


しかし、明らかにデートをしている素振りで仲良く手を繋いで歩いている。


そして遂に。


友人から思わぬ言葉を耳にすることとなった。


「陽平先輩、実はかなり色んな人と付き合ってるらしいよ」


「えー!マジでぇ。でも、確かにモテるし、仕方ないのかもねぇ」


「手を出されるかもしんないから、美樹も気を付けなよー」


私は絶句した。


先輩が・・。


憧れていた先輩。付き合い始めたばかりの先輩。



その日以降、彼と会っても視線を合わせることなく、立ち去る彼。


あの時のあの行為は何だったのだろう。


弄ばれた私。


私は、遊びの一環でしかなかったのだ。


それは紛れもなく事実だったが、受け入れるのには時間が


かかった。


その後、私は度々、部活を休むようになり、同級生からも


離れていった。


彼の手。


思い出すと、暫くの間、胸に激痛が走る。


憧れ。


夢。


こうして、私の恋は脆くも敗れ去った。



それ以来の私と言ったら。


部活に退部届けを提出し、大学の友人と飲み歩くようになった。


決まって新宿の靖国通りを歩いた。


私は、事あるごとに何人もの男性と身体の関係を持った。


それは、今も消えない傷跡を癒すために。


軽い女。


そう言われても、今の私にはちっとも羞恥心すら感じなくなっている。


あの時。


安易に付いて行かなかったら。


そう思う度、私は自らの苦しみを他の男に委ねることだけしか出来ない。


深い傷。


負った後で、私は1人、孤独な新宿の繁華街を飲み歩くのである。



<完>


「下北沢怪奇物語」


僕はカメラを片手に、下北沢を散策している。


日曜日は必ずと言っていいほど、この町を訪れる。


風変わりな看板や何の変哲もない電柱。


古着ショップや雑貨屋が所狭しと並んでいる。


その町並みを撮ることが、近頃の僕の日課となっていた。


一眼レフカメラは、アルバイト先の先輩から譲ってもらった代物だ。


シャッターを切るたび、心が休まり、ほっと安堵できる。


ほのぼのとした休日。


カメラで好きな絵を撮れるだけで、僕は随分と贅沢だと思うし、


穏便な暮らしが送れていたと思う。


ただ1つ。


あの恐怖さえなければ・・。


これから語る話は、後々の僕を恐怖のドン底に陥れた


重大な事件である。


僕の話を信じるか否かは、読者に委ねようと思う。



その事件は、今から2週間前に起きた。


雲1つなく真っ青に晴れた昼下がりの日曜日。


僕は、いつものように自転車に跨り、下北沢まで出掛けた。


普段と何も変わらないGパンにネルシャツ姿だった。


その日は、たまたま前日の夜が遅くまで起きていたせいも


あり、予定よりも30分遅れて着いた。


近くの空き地へ自転車を停め、ナンバーを合わせる、いわゆる


チェーンタイプの鍵を電柱へ繋いでかけた。


ここまでは、別段、何も変わらなかった。


ただ、その日に限って日本晴れで気分が爽快だったこともあり、


いつもと違うルートで撮影ポイントへ行こうと思った。


抜け道を見つけ、意気揚々と歩く。


そんな矢先、一軒の古びた骨董品屋に立ち止まった。


軒先には、たぬきがお腹を突き出すような形で、こちらを眺めていた。


これは面白い。


僕はそう思うと、居ても立ってもいられない性分なのだ。


何の躊躇いもなく、暖簾を払い、僕は中へと入り込む。


すると、店内には人影らしきものが無い。


不気味に並ぶ人形やぬいぐるみの数々。


僕は、却って好奇心に煽られた。


下北沢にも、まだ奥ゆかしい文化が残っている。


そんな実感さえ沸々と沸いてくるのだ。


更に奥へと進むと、レトロなちゃぶ台が置いてあり、その隣には


レジがあった。


何度か、声を掛けて店員を呼んだのだが、一向に返事すらない。


どうやら店主は留守のようだ。


おかしいな。


留守なら、店を開けておく必要もないじゃないか。


そう考えたのだが、好奇心が勝り、こんな空間で寛げるのは


今日ぐらいだと思うと、僕は気分が乗ってきた。


気味が悪いどころか、思わぬシャッターチャンスの到来だった。


僕はカメラを右手で抱えながら、陳列の片っ端から貪るように


撮り始めた。


訳の解からない漫才師風の人形から赤い蛙。


それに、今では何処にも売っていないような古びた看板の数々。


西洋風の昔のナンバープレート。


浴衣を着たジャイアン。


妖怪のミイラ。


ありとあらゆる珍種が、ここにはあった。


僕の胸は高まった。


それと同時に総額すると幾らの値打ちがあるのだろうと


思うと、夜も眠れないほどのテンションになりそうだった。


何時間が経過しただろうか。


僕は撮っても撮ってもちっとも飽き足らず、時間すら


忘れてしまうほど、熱中した。


そろそろ最後にしよう。


そう思い、カメラのシャッターを切ろうとしたその時。


隣にある物珍しいポスターを発見した。


何年前のものだろう。作ってから随分とそこに置き去られたかの


ような女性のポスター。


埃を被っていて、顔の下には名前の跡がある。


しかも、不自然にその部分だけが削り取られていた。


僕は、自分の目を疑った。


何故か、その女性はこちらを見て好意を持っている風な表情だった。


気掛かりで仕方なかった。


誰がいつ撮ったものか、唐突に知りたくなった。


僕は、ポスターをそこへほったらかしにしているのは


もったいないと思い、暫く眺めた後で、自分のバッグへ


丸めて押し込んだ。


魔が差したと言ってしまえば、それまでかもしれない。


だが、僕はどうしてもその女性を家で鑑賞したかった。


それに、さっきから僕を見ているという錯覚に捉われるのだ。


僕は、店内に誰もいないのを確認し、一目散に


自宅へと急いだ。



汚れたポスターをティッシュで丁寧にふき取り、部屋の中央の白壁に貼った。


しかし、その日から僕の生活は一転した。


僕が翌日、アルバイトから帰ってきた時、すでに異変に気付いた。


ポスターに削り取られてあったはずの名前が浮き出ていた。


いや、浮き出ると言うのは、語弊があるかもしれない。


極端な話、誰かが後から書いたような筆跡で、はっきりと


「橋田 洋子」と書かれてあった。


僕は、このポスターにはおかしな力があると思っていたが、


予感した通りだと自負した。


おかしな力。


はっきりとは定かではないが、本当にそこに女性が笑って


立っているかのような錯覚だ。


少し気味が悪くもあった。


ただ、文字が浮き出ること自体、そのポスターに


仕掛けがあったのだと思った、この時は。


そして、更に翌々日、自宅へ戻ると、さらにポスターには


新たに書き足されてあった。


「元気にいこう!」


僕は首をかしげた。


そういうポスターなんだと思った。


しかし、3日後、とんでもないことが起こった。


僕はアルバイト先で、ヘマをしてしまい、大事な店の花瓶を


割ってしまった。


「す、すみません・・」


僕は深々と首を下げ、店長に謝った。


それはそれで許してくれたのだが、自宅に戻ると、


ポスターの名前の下にはこう書かれてあった。


「花瓶を割ってしまったのね。可愛そうに・・」


僕は、腰を抜かした。


それ以来、アルバイト先や友人と会った時のエピソードが


次々と書かれ始めた。


「約束の時間は守ろうね」


「好きな子に今日も会えなかったね」


「アルバイトは100円ショップなんだ」


それぐらいなら、まだ可愛いもんだ。さらに予言めいた事も


言い始めた。


「また花瓶、割っちゃったね」


「明日、事故に出くわすから気をつけて」


僕は次第に気味が悪くなっていった。


そして、2週間経った今日。自宅へ戻り、恐る恐る部屋の電気


を点けるとこんな事が書かれてあった。


「ポスター盗んじゃ駄目だよ・・」


僕は怖くなった。


確かに罪悪感はある。ただ、彼女があまりに惹きつけるから・・。


そう思った矢先、ポスターの文字が変わった。


「嘘つかないで。黙って持って帰ったんでしょ」


僕は居ても立ってもいられなくなり、すぐ様、ポスターを剥がし、


下北沢へと自転車で向かった。


あの店に戻さないと。


そう思って急いだ。


だが、あの骨董品屋が見当たらない。


いや、確かにここにあったはずだ。


そして、行き着いた場所は、さら地と化していた。


埋め立て予定地と書かれてある。


僕はあまりの恐怖感にその場所にポスターを


捨てた。


そして、颯爽とその場から立ち去った。


ようやく自宅へ戻ると、時計は深夜の2時を指していた。


「やっとこれで落ち着ける・・」


そう胸を撫で下ろそうとしたその時。


部屋にポスターが貼ってある。


か、彼女だ!!


僕は仰向けになるような格好で、その場に崩れ落ちた。


次の瞬間。


彼女の目が動く。


僕は慄いた。


そして、彼女は僕を指差してこう言った。


「お前が盗んだんだ!!」


声が出なかった。


僕は、その場で気を失ってしまった。



下北沢の一角。


たぬきの人形がある、古びた骨董品屋を見かけたら、


あまり立ち寄らないほうがいい。


何故なら、あなたは、ポスターを盗んでしまうからだ。


そして、今日も彼女は次の来客を待っているのである。




「ドボクン 第3話」



その日、大雨が降った。


まるで、僕を嘲笑うかのように打ちつける大粒の雨。


行き場を失くした僕は、勢いなく呟いた。


「好きならなきゃ良かった・・」


鉄橋が雨で霞んで見える。


川沿いの道を肩を落とし歩く後ろ姿。


彼の目には、絶望の2文字しか浮かばなかった。


氾濫した川。


ダムの警告表示。


虚ろな表情。


そのどれもが、この世の終わりのように感じられる。


彼女に会いに行ったつもりが、気持ち悪いとまで言われた。


父親には勘当されそうになり、友人は僕を蔑んだ。


ただ、彼女を好きになっただけ。


だが僕は、自分を責めた。


「こんな筈じゃなかったのに・・。僕が馬鹿だったんだ!」


繰り返し思い出される彼女との楽しかった日々。


それが一転し、雨に濡れるおぼろげな顔。


気付くと、川に足を踏み入れていた。


僕なんて気持ち悪いだけ。誰にも必要とされてないんだ。


そう言いながら、川の中央へと1歩ずつ歩いた。


作業着に水が沁み込む。


冷たさが増す。


このまま冷たくなって死ねればいいのに。


そう思った矢先の事だった。


橋の上に女性らしき人が立っていた。


ずっとこっちを見ている。


暫く、5分、いや10分以上お互いを見たまま、その場で立ち尽くした。


彼女だ!


彼女に違いない。


そう思い、僕は川から我を失いながら走った。


ずぶ濡れ。そんな事など構うものか。


彼女に。彼女に聞きたかった一言。


それだけを伝えたくて、必死に土手を駆け上がり、


彼女の元まで無我夢中に走った。


そして、彼女と対面したとき、僕は唖然とした。


それは、彼女ではなかったのだ。


人違い。


女性は、僕が迫ってきた途端、思わずのけぞり、その場に


傘を落とした。


叫び声が虚しく響いて聴こえた。


僕は、力なく水溜りに跪いた。


「どこまで間抜けなんだろう・・」


またしても自分を悔やんだ。


いや、悔やんでも悔やみきれない。


ドジで間抜けで、馬鹿で。


僕は死ぬ勇気すら喪失してしまった。


雨は容赦なく打ちつけた。


なすがまま、全身で受け止める。


何もかもが、上手くいかない。


天命を受け、ただ涙に打ちひしがれる。


次の瞬間、僕は傷だらけの両手を地面に付け、


咽び泣いた。


雷が鳴る。


それにつられるかのように、慟哭は共鳴する。


人目を憚らず、崩れ落ちた。


僕は。


僕は、これからどうやって生きようかなんて


考えられなかった。


今は、こうして鉄橋の脇で蹲り、豪雨に佇むだけだった。


何もかも。


全て。


投げ出したい。


僕に明日なんかないし、恋愛なんてできない。


水溜りに映る僕の醜い顔。


泣けるだけ泣こう。


そう思い、顔を上げる。


傘が風で飛ばされ、転がっている。


まるで僕だと思った。


どこまで転がれば済むのだろうか。



雨音はさらに激しさを増す。


涙は止め処なく、彼の目から流れ落ちる。


1人。


彼を待つ運命など、誰も知る由もない。


今は途方に暮れるだけかもしれない。


それでも、彼は生きている。



<続く>


「恋の引越し屋さん」


『あなたの恋、誰とでもお引越しできます』


私の名前は武田雄二、28歳。恋の引越し屋を始めて、


丸3年が経とうとしている。


恋の引越しなら、どんな依頼でも引き受ける。


前例では、不倫をしようと企てる奥さんからの依頼で、意中の


相手男性の恋の矛先を自分に向けてほしいという引越しも実行してきた。


「若い子と恋愛したいの」


彼女はそう言って、社内恋愛を見事に成就させた。


私は、そのサポートをしたまでだ。


今回のクライアントは、まだ1度も恋愛をした経験のない女性からだった。


21歳の匿名希望。


同じ専門学校に通う、どうしても付き合いたい男性がいるという。


早速、話をするため、つなぎ姿に着替え、待ち合わせの中野まで出向く。


喫茶店にその女性はいた。


見た目は、小太りで、顔の左頬に痣があった。


今風な感じの服装だが、垢抜けてない雰囲気だった。


コーヒーを口にしたり、指を組んだり、終始落ち着かないといった素振りだ。


私は、彼女を見つけるや否や、声を掛けた。


「恋の引越し屋です。あなたの恋、どこでも運んでみせます!」


少し声が溌剌としていたせいか、裏返ってしまった。


そんな些細な事にめげる私ではない。1度、深々とお辞儀をし、帽子を


取った。


彼女は、人と話すことが苦手らしく、はにかんだ。


私は、ひとまずテーブルに置いてあるコーヒーカップを見つめた。


彼女は緊張しているせいか、手がおぼつかない。


コーヒーカップで顔の痣を隠すように飲んでいる。


まず、彼女を落ち着かせるため、彼女の飲んでいたコーヒーを拝借し、


有無も言わさずに口に含んだ。


そして、こう話を切り出した。


「実績は、遂に100件を超えました。お客様には、信頼してもらっていて、


毎日、引っ切り無しに仕事が舞い込んでくるという状況です。


これはほんの一例ですが、お読み下さい」


そう言って、パンフレットを手渡した。


彼女は、真剣な表情で目を通していた。


私は続けた。


「恋の引越しを必ず成功させてみせます。どんな苦難な状況下でも


恋心は変わります。いえ、相手の心情を突き動かすのです」


彼女は私の目を見た。


重々しい表情から、彼女は第一声を発した。


「どんな・・。どんな状況でも、ですか?」


「ええ。相手が人間であるなら、どんな恋でも引越しさせます」


「実は・・」


そう言って、彼女は話し始めた。


相手先の専門学生は、同い年で1度も会話した事がないという。


いつも遠くから離れた場所で、格好良い相手をチラチラ見るのが精一杯


だそうだ。かなりのイケメンで、彼女はいるだろうと思われる。


男同士でよくラウンジで煙草を吸う姿を見かけるという。


情報はただ、それだけだった。


だが、私に出来ない仕事などない。


彼女は、相手の知ってる一部始終を話し終えると、


先ほどよりは平常心に戻った様子で、こちらに頭を垂れる。


「いえ、必ずお客様に振り向かせてみせます。


代金は、その後でも結構です」


そう言い残し、私は早速、彼の元へと足を運んだ。


引越しトラックのエンジンを噴かせる。


私は、いつもこの瞬間が好きだ。


ギアを入れ、路駐したトラックを即座に移動させる。


恋の引越しトラック。


ピンク色の印字にダークグレーの車体。


私は、目的地へと向かった。


彼の自宅に張り付き、いつものように配達物を届ける振りをする。


勿論、彼が戻ってきた直後である。


私は怪しまれぬよう、充分に注意を払い、地域住民が近くに居ない


のを確認してから、彼の家のインターホンを押す。


「武田引越しセンターです!荷物をお届けに参りました」


彼の自宅まで入れるよう、大きいサイズの荷物にする。


今日はDVDデッキだ。


懸賞で当たった品であることを言葉巧みに説明し、取り付け作業


の依頼を受けたと切り出す。


こうして、彼の自宅に潜入することに成功した。


設置作業をしながら、彼の自宅にある全ての物を拝見する。


彼女とのデート写真。


そして、沖縄旅行。


整頓された日記帳。


洗面台の使い方まで。


くまなく彼の性格を調べ上げるためだ。


そして、後日、特性のドリンクジュースを手渡す。


懸賞品の粗品として。


しかし、その中身は。もう言わなくても解かるだろう。


クライアントに恋をさせるための飲料だ。


それと、今の彼女との仲を引き裂くための成分。


2つが融合された時、彼の目に飛び込んでくるのは、


左の頬に痣のある彼女なのだ。


こうして、1週間後、2人は出会うのである。


クライアントの彼女からは喜びの着信が入ってくる。


「有難うございます!彼と付き合うことが出来ました。


ホント、超嬉しいです!!」


私は、満面の笑みを浮かべる。


「お客様のご依頼ですから。仕事は有言実行させて頂きますので」


「本当にありがとうございました!!」


私は、一通り仕事を終えると、運転シートに腰を掛ける。


そして、一服した後、こう不敵に笑うのだ。


「効き目は、半年ほどで切れるんだよなぁー。


その後でしっぺ返しが来ることも知らずに。


でも、仕事はちゃんとやらせて頂きましたからね」


恋の引越し屋さん。


またの名を刹那的快楽サポーター。


もし依頼する時は、その恋が他力本願であることを


忘れてはならないのである。



<完>