結婚後の生活を語る資格なんてないと思ってる。


ただ、結婚と恋愛の間に、違いがあるという事


だけは、確かだとはっきり言える。



この前、久しぶりに実家に帰ると


友達が結婚して、子供が出来たと言ってた。


それも1人じゃない。


周りだけで3人もいた。


「お腹の中に赤ちゃんがいて・・」


なんて、電話越しに照れくさそうに言う。


女友達は、成人式くらいの年齢になると


結婚を口にするようになる。


あれから、6年。


今、現実になっている。


同じ時間を生きているのに、と思う。



ただ、1つだけ気になったこと。


それは、1人の女友達が、彼氏を連れて


遊びに来ていた時のこと。


彼女が、口を尖らせて言う。


「私は、結婚は・・。(口を濁して)それより将来、どうしようかって。


そっちが先かな」



彼女は、恋をしている。


かたや、他の3人は、結婚をしている。


いや、その彼女だって、内心、結婚したいと思ってる。


今は考えても仕方ないかなぁ、なんて言い続けてる。


もしかすると、彼女が本当にしたいのは、恋愛かもしれない。


女であり続けること。


魅力的であること。


それは、女性なら何年経っても、女として魅力的で


いたいんだろうなって、勝手な憶測をしてる。



彼女は、結婚と、恋愛を天秤にかけてるんだと思う。


今、どっちが必要か。


女で恋をしている事と、結婚した女性であることは、


そんなに違いはないかもしれない。


だけど、気付いたのは、彼女のカレシは、周りが誰も知らない


って事実。


「初めまして」の挨拶すら交わしたことがない。


でも。結婚した女友達は、旦那さんとは俺も知り合いで。


みんな彼氏だった時から、旦那を知ってた。地元ということもあって。


それが、彼女1人だけ無い。



恋と結婚の差は、そこかもしれないって思う。


恋なら、すぐ終わる。


だから、いつでも逃げられるようにと、周りを固めたがらない。


友人が、彼氏を知ってたら、


「お前、あの時の元彼、怒ってたぞ」って言ってきて。


周囲に変な噂になるし、それは、恋をする彼女にとって、


喜ばしいことじゃない。


逃げ道を作っていたい。心理的に、恋にウェイトをおく


彼女は、恋をしやすい環境に身を置きたいのかもしれない。



で、結局、何が言いたいのかというと、


いい女であることは男を惹きつけるし、


子供にとっていい主婦であることは、


強い母性を持ってるという事。



2面性を持ってると思う。


男には、それがない。


父性ってのも確かにあるけど、


愛情でいうと、はるかに女性のほうが強い。



そう思う。


だから、女性が、結婚と恋を同時進行できる生き物だと


捉えるしか、言葉が見つからないってのが


正直なところで。



どっちがいいかなんて、言えないけど。


でも、2つのバランスを保っている女の人ほど、


賢い人はいないんじゃないかなって。



人間、偏ってしまいがちだけど。


だからこそ、中心に軸を合わせる。


旦那に恋をしながら、結婚生活を


送れるなんてのは、幸せでいられる為の


秘訣なんじゃないかなとも思います。




「ラブホに耳あり」


1.

ラブホで泥酔  壁に耳あり  見え透い た男女の性行為


見える騎乗位 非常勤 のアルバイト


今宵もせっせとフロアを掃除  隣の部屋では相思


相愛  アンアン バンバン 参観  てな感じの団欒


深夜2時過ぎ 全室満室   


芯までイキ過ぎ  連日感じる


覗き穴感覚 in the house


聴いたら快楽 韻が弾け出す


ていうか、さっきの307


ドア開て、ワケありカップルさん あく穴


リーマンとOL、不倫企んだら


ソッコー、ラブホへ直行


お泊りグッズ持って、お出掛け小旅行


<HOOK>


何処で誰が見てるか、わからん 酒乱


俺はラブホ・アルバイター  別名、歩く性愛レーダー



2.

おっとまた聴こえる  スピーカーみたくガンガンに


喘ぎ声の エグいAV参観日


本日金曜、晩なり  地域密着のラグジュアリー  


カップルの乱れるバイナリー


大なり小なり 酔ったら行くっかないっしょ  nude show


精巣、しっかり清掃  裸の全面戦争、


夜中の喧騒  と掛ける  オバちゃんと陽気にコロコロかける


ちぢれ毛拾う  肉体疲労


あと、使ったコンドーム  ベッドルームのエンドロール


の象徴  俺、つまんで紙にロール


何でもスポイル ここラブホ、人間の素を見る



<HOOK>

何処で誰が見てるか、わからん 酒乱

俺はラブホ・アルバイター  別名、歩く性愛レーダー



3.

ナニこれ? 鞭と蝋燭じゃん


何でも発掘  夜中の探索団


そこで女子高生の体験談


「初めは抵抗あったんだけどぉ~、超ハマっちゃってぇ~」


てか、掃除する身になってみろ


床にこびりつく蝋  蔓延ろう とするSMアウトロー


性癖を探求  ここは何でもアリ、性感竜宮 城


まさにお城 みたくラブホ聳え立つ 誰もが下腹部、イキリ立つ



縛る手足  サドが貶し


言葉攻め? そこに容赦や情けなし


さらに手錠  SでもMでも


ご利用頂けます 常連客デモン  ストレーション


全部出してく  日頃のフラストレーション


だけど俺、ローション お片付け


朝が来るまで


<HOOK>

何処で誰が見てるか、わからん 酒乱

俺はラブホ・アルバイター  別名、歩く性愛レーダー




オマルの暴走族  ルート1話



「おめえら、気合入ってんのかよぉ!」


そう言いながら、根性を入れ直す族長。


しかし、何故かオマルに跨っている。


空ぶかしのエンジン音が、周辺の住宅街に響き渡る。


あまりの騒々しさに、近所のオバサンが2階から大声を掛ける。


「アンタ達、うるさいのよ!!」


「うるせー。コッチは、お取り込み中なんだよ!」


リーダーの目は、マジだ。


一旦、エンジンを止め、集合をかける。


「おめぇら、なんで俺達がオマルに乗ってるのか、わかんのかよ!」


続々と輪になるように集まるメンバー。


総勢40人はいるだろうか。


リーダーは、さらにハッパをかける。


「そこのおめぇ、オマルにポリシー、持ってんのかよって聞いてんだよ!


答えろよ。」


あ、はい・・。と申し訳なさそうに返答するメンバーの1人。


「あの・・。オマルに乗るの。初めてで・・」


馬鹿野郎、とリーダーは罵声をあげる。


「誰でも、ガキの頃にはオマルに乗ってんだよ!初めてとか、抜かしやがって!」


そう言いながら、地面に唾を吐き捨てる。


「なんでオマルか。よし、そこのお前、言え!」


もう1人が威勢よく立ち上がる。


気合充分といった表情だ。


「ちす!自分、オマルに跨った時、おしっこを催しました!ちす!」


リーダーは怒り狂う。ちげーだろ。そんな諸事情を聞いてるんじゃねぇ。


そう言いながら、竹刀を真っ二つに折る。


集団が一瞬、凍りつく。


そこで、挙手をしたメンバー。ぶっこみの巧こと、副リーダー長が答える。


「ちす!押忍!オマルは、座り心地がいいからです。


快適に運転が出来るからです!ちす!」


ザッツ、ライト。 リーダーは何故か英語で返し、満面の笑みを浮かべる。


月夜に黒いサングラスが反射する。


すると、オマル横のエンジンを入れ、出発を促す。


「よし、全員、跨れ!!」



リーダーは、「オマル命」と書かれたシールに手をやる。


オマルに青春をかけるリーダー。


エンジン音が、近所周辺に木霊する。


途端に、2階から先ほどのオバサン鉄柵に身を乗り出してくる。


「アンタたち、今、何時だと思ってんの!


コッチは、うるさくて眠れないわよ!!」


副リーダーは、目をぎらつかせ、眼を飛ばす。


「婆は引っ込んでろ。コッチは、オマルと書いてマジなんだよ!」


オバサンは、閉口する。


そして、勢いよくリーダーが飛び出し、1台。また、1台と。


次から次へ公道へと出て行く。


「おめえら、オマルにしがみついて、俺について来い!!」


向かった先は、第3京浜。ひたすらオマルで蛇行だ。


「おい!チンタラ走ってたら、サイドから漏れちまうぞ!」


と激を飛ばしながら連なるオマル。



そして、ようやく目的地の埠頭へと到着したオマル族は、


一斉に集まり始める。


桟橋前に、広がるオマルの輪。


リーダーが、円の中心から叫ぶ。


「これからは、族も地球環境に優しくしなきゃいかん。


リサイクルのために、これをフィリピンで再利用してもらうことにする。」


確認しておくが、彼らの目は本気だ。


リーダーは1人、フェリーへとオマルを走らせる。


そして、1台。1台と丁寧にコンテナに積み込み始める。


最後のオマルを積んだ時、リーダーが集合をかけ、労う。


「今日は、ご苦労さん。じゃあ、名前を1人ずつ呼ぶから、


今日の日給分の袋、取りに来て。」


えー、巧。ご苦労さん。えー、龍二、サンキュー。


そう言いながら、1人ずつ、給料明細と袋を手渡していく。



このオマルの集会。


今では、月に3回ほど行われている。


フリーターの彼らにとっては、いい副収入になること、間違いないだろう。


そして、今夜も、月夜のどこかで、


捨てられたオマルを各自、探し出すのである。



<完>

「恋の引越し屋さん リターン」(再放送)



別名、武田雄二、29歳。


先日、引越しをしながら、誕生日を迎えた。


妻は、私を半ばからかいながら、クラッカーを鳴らす。


娘の綾は、私に投げキスをしてくる。


肩に抱きつく綾。高い高いをして、娘からの祝福に照れる。


私は、家庭に帰れば、何処にでもいる父親。ただ、仕事が人と違い、


特殊なだけである。


先日、不可解な依頼があった。


クライアントはなんと、15歳の少女だった。


世に私の業務が、知れ渡り、浸透し始めたとは言え、若干、15歳の


女性からの依頼は先に例を見ない。


だが、私は相手がどんな人物であろうと、決して手を抜かない。


私は、恋の引越し業務にポリシーを持っている。


早速、つなぎ姿に着替え、支度をする。



待ち合わせ場所は、女子高のバス停前だった。


高校を引越しトラックで通り過ぎると、小さな女性の人影が見える。


私は、彼女の携帯を鳴らす。そして、相談場所をカフェへと移す。


一見、可愛らしい女の子。満面の笑みを浮かべ、これまでの


クライアントとは異なる。


私は、いつもの調子で話を切り出す。


「どうされましたか。どんな相手でも恋ごと引越しさせてみせます。」


彼女は携帯ストラップを指で弄び、左右に振っている。


カチャカチャと音がする。


シルバーのアクセサリーに、ミッキーマウスの目にハート。


私は、彼女の制服に目をやる。


少し。大きい目の寸法。まだ、中学生が抜けていない調子だ。


私の娘もこのぐらいの年齢になると、恋をし、


引越ししたい、という気持ちが沸くのだろうか。


そういった意味でも、今回の相談は興味津々だった。


彼女は、オジサン。と言いながら、頬杖をつく。


「オジサン。私ね。仲直りしたい人がいるの。」


仲直り?


私は、狼狽した。仲直りとは、一体何なのだろう。


彼と喧嘩でもしたのかな。そう思った矢先、彼女はそれまで


手遊びの相手だった携帯を差し出す。


「これ。これ見てよ!」


私はやっと言葉の意味を理解した。


そして、快く頷く。


「なるほど。そういうことか。オジサン、こういうの初めてなんだよ。」


そう言って、頭を掻いた。


彼女は、頬を赤くさせながら、続けた。


「私ね。本当はもっと仲良くしたいんだよね!」


「うん。解かった。喧嘩したんだね。それは、仲良くならなきゃいけないね。」


私は、あまりの微笑ましい内容に、笑みを浮かべた。


彼女の屈託の無い明るい表情が、伝染した、といったら


言い過ぎかもしれない。


けれど、私はあくまで恋の引越し屋さん。


「仕事はきっちりやらせて頂きます」


こうして、その場を後にした。


手を振って、見送る、15歳の少女。


彼女にとって私は、正義のヒーローにしか映っていないのだろう。


そう思った。



翌日、彼女の自宅に恋の媚薬を届けた。


小児・男性用と明記されてある。


インターホンを押すと、出てきたのは、昨日の少女だ。


「これを、ジュースにそっと混ぜるんだよ。いいかい、間違っても


1回につき、3滴だよ?わかった?」


「うん!引越しオジサン、ありがとう!やったぁー。」


引越しオジサン。


確かにそうかもしれない。


だが、私の役目はここまでだ。後は、少女がどうするか。それに


かかっている。分量さえ、間違えなければ、必ず効果は現れる。



今回のクライアントは、「弟との喧嘩を仲直りしたい」といった内容だった。


少女の弟は、恋をすることになる。


しかし。


あまり兄弟で使うものではないことだけは確かだ。


少し胸騒ぎがする。嫌な予感だ。



少女は、弟が小学校から帰宅し、真っ先に冷蔵庫へ向かうタイミングを


見計らった。


そして、指示された通り、3滴ほどコップに入れ、その後でジュースを


注いだ。


弟は気の利いた姉の思わぬ、行為に喜んだ様子。


彼は、まだ9歳だ。


ごくごくとジュースを飲み干す。


その15分後。思ったより、効果が出る時間が早かったようだ。


姉に抱きつく弟。


少女は、顔が赤くなり、綻ぶ。


「お姉ちゃん、ダッコしてよぉー!!」


「いい子だから、お姉ちゃんの言うこと、ちゃんと聞いてね」


「嫌だ!嫌だ!お姉ちゃんは好きだけど。ぼく、自分の


やりたいことしたいんだもん!!」


「え・・?」


少女からは笑みが消えた。


弟は、確かに好意を持った。しかし、好意の代償として、


以前より甘えが出たのだ。


恋の効用は、その人から自分を見失わせ、相手に甘えるようになる。


それは、彼ら兄弟にとって、必ずしも良くない結果となって現れる。



今でも、仲良く手を繋ぎ、近くの公園をデートする彼らを見かける。


しかし、それはお互いの仲を引き寄せるばかりか、


弟の過度な甘えやねだりとなって、少女を悩ます。



私は思った。


恋の引越しは、近親でするべきものではないと。


もしも、依頼者が仲を睦まじくしたいと思っていても、


恋愛の持つ光と影はある。


少女がその後、弟とどうなったかは知らない。


そして、私は、次のドアをノックする。


「恋のお引越し、お届けに参りました。」



ご家庭内では、くれぐれも使わないように。



ピチピチのギャル男、出没。


渋谷で闊歩する大男。行き交う人々は、目を丸くして彼を見る。


女子高生達は指をさし、笑っている。


それもそのはず。


彼は、オカマのように腰をくねくねさせながら、赤黒のチェックのスカート姿。


季節は夏だが、肌色のセーターを着ている。胸にワッペン。


頭には、金髪の鬘を被り、横髪を手で梳ぐ。


左頭部に咲き誇るハイビスカス。


クレープ屋の前で立ち止まり。一服でもするご様子。


「よくねぇ?これやばくねぇ?」


ヤバイのはお前だろと、突っ込みたくなる。


「この、右から2番目のマジヤバいクレープ、くれよ。兄ちゃん」


マジヤバイ?


クレープ屋のお兄さんも苦笑いだ。


ヤバかったら売るわけねーよ。そう言いたそうな表情。


はい、と敢えて事務的に差し出す。


貰う、ピチピチギャル男。その途端、地べたで夢中にほうばり始める。


「うまくね?盛り付け、ださくねぇ?」


旨いのだか、貶しているのだか、わからない調子。


すると、そこへ先ほどの女子高生がやってくる。


「ちょっとぉ~!写メ、撮りたいんだけど!」


「OKちゃん。ヤバクね?俺、マジヤバクね?」


オッケーに「ちゃん」を付けるピチギャル男。センスの無さが伺える。


カシカシとフラッシュがたかれる。


有名人になりきり、ご満悦の様子。


彼は一通り、撮影を終え、立ち上がって歩き出す。


そして今度は、CDショップの店内へと入っていく。


店内は、殺伐としている。


それも彼の持つ、独特な雰囲気のせいだ。


ヘッドフォンをかけた大学生風の男に目が留まる。


どうやら、学生が気に入ったようだ。


ドカドカと29cmはある大きいスニーカーで踏み寄る。


唐突に声を掛ける。


「ちょいヤバめ。あんたの顔。あたい好きなんだよねぇ。」


は?と大学生は、驚き、その場から立ち去ろうとする。


「マジ、超カッケぇ。あたい、大好きん。」


おえええ。マジかよ。そう言って、逃げようとする男子学生。


ちょいお待ち!と言いながら、ピチギャル男は広々と手を伸ばし、


行く手を阻む。


「なんだよ。ウザいんだよ。」


「あたい、惚れちった。」


「ちったって・・・。いいから早く、そこどいてくれよ。」


ヤバクね、今の発言。と言うギャル男の脇の下から抜け、


大学生は走り去る。


「超ドSじゃねぇ?」


そう大声で叫びながら、大学生の後を追いかける。


出口から飛び出す学生。


追いかけるギャル男。


一進一退の攻防。


渋谷の駅まで一直線で逃げる学生。


すると、そこへまたしても先ほどの女子高生と出くわす。


ギャル男に陽気に手を振る。


そして、道路脇からギャル男に向かって走ってくる。


「もっかい、写メ、撮りたいんだけど!!」


余裕をかまし、すぐさま立ち止まる。余裕でピース。


「ピースフル!」


知ってる英単語は、それだけか。


と誰もが突っ込みたくなる。


そう言いたくなる時には、既に大学生の後を追って走る。


これが早い。


100mを13秒台だ。


暫く進むと、携帯ショップの前に出る。


ギャル男は、マラソンの給水所のように「これ、最新のじゃね?」


と言いつつ、持ち去る。


パクった!アイツ、パクッたよ。と道行く人が、叫ぶ。


出てくる店員。


そして、ようやく状況を把握し、追いかけ始める。


その直後に、ショップを過ぎ去る女子高生。まだ追っかけてる。


そうこうする合間に、野次馬も集まり始める。


店員が、交番の前に差しかかった時。


「あの人が盗ったんです!」と説明。


お巡りさんもえ?え?と言いながらも、ようやく状況把握。


先頭に逃げる大学生。


猛スピードで追いかけるピチギャル男。


背後には、お巡り。


その後でショップ店員。女子高生と続く。ほか、野次馬。


まさに平成の大名行列。


渋谷の大激走劇。


列となり、人は群がり、収集がつかない非常事態に陥る。


そして、ついに先頭の大学生が109の入り口で力尽き、倒れ込む。


突然のストップで覆いかぶさる、大男。いや、ピチギャル男。


「痛てぇよ!!」


叫ぶ大学生。その後で、お巡り。ショップ店員。後続が109へ続く。


なだれ込む人。


写メを相変わらず、撮り続ける女子高生。


お前らは、林家パーペーか。と言いたくもなる。


結局、109の前では人の山が出来る。


大学生は観念した様相。


「わかった。わかったから、離してくれ。」


ギャル男は一世一代の大チャンスと言わんばかりに、


熱いキスをする。


おえ。げほっ。大学生が咽る。


お巡りが、間違えて女子高生を捕まえようとする。


「あっちだよ、あっち」とピチギャル男を指差す、店員。


収集が一向につかない。


この後、大学生は、ギャル男と付き合う羽目になる。


何故か、警官に尋問を受けるパーペー。いや、女子高生。


店員は、頭をかかえ、酸欠状態。



この大激走劇を生んだ、ピチギャル男。


そして、今日も彼の行く所には、事件が巻き起こる。


恐るべし、ピチピチギャル男。



<完>

「Dear 旧親友」


友人の藍子の結婚式に行かなかったのには、深い理由がある。


かつて、僕は藍子と親友だった。大学へ行っても同じサークルに


入った。いや、彼女が目当てだったのではない。


たまたま、趣味が合い、高校で同じクラスメイトだっただけ。


高校では、サックスの練習に明け暮れた。


屋上で。自主的に練習もしていた。


「山口は練習熱心だけど、相変わらず下手だよね」


そう言って、囃し立てた。


1匹狼。僕はいつもそう。


1人でやる上に、誰からも教わろうとしないがために、


下手くそ。サックスも興味本位で始めた。


でも、好きな事に没頭できる時間。それが欲しかっただけなのかもしれない。


今、考えてみると。


僕の事を、藍子だけが1番知っていた。異性の中では。


いや、その時は、異性すら感じなかった。


ただ。


彼女が、大学に入って1年目の夏。


彼氏ができたぞ、とメールで連絡があった。


「あっそう。おめでとう。お前みたいな男っぽいヤツでも彼氏、できんだな」


そう言って、励まし、腐した。


腐れ縁って仲なのかも。その言葉がぴったり適合する。


だけど。その数ヵ月後、サックスの練習を1人で自宅付くの河原で


明け暮れていた。


彼女から電話が入る。泣きながらだった。


「ひどいよ。男ってみんなそうなの?」


問いかけるように、藍子は縋り付いてきた。


僕はたじろいだ。彼との出会いから別れまで。一部始終を聞いた。


藍子は、どうやら彼に2股をかけられたらしい。


よくある話だけど。だけど、その時ばかりは、僕の少ない親友を悲しませた、


彼氏に対して強い憤りを感じた。


「藍子。お前は悪くないよ。純粋なヤツだよ。」


そう慰めるのがやっとだった。


「飲みに行こうよ・・」肩を落としたアイツを。藍子を見放すわけには


いかなかった。


僕は、それまで男女の友情はあるもんだと、勝手に思い込んでいた。


しかし、当たり前だが、彼女は女で、僕は男。


一度、関係を持ってしまえば、友情は崩れる。


崩れてしまう可能性のある友情は、友情などと呼べない。


何があっても、親友はゆるぎないものだ。


何にも、取って代えられないもの。


だからこそ。男と女の友情は脆く、崩れる。


僕は、藍子が泣きじゃくって、僕の肩に触れた時、それを感じた。


藍子は寂しい、と言った。


それ以来、僕は元親友の、藍子と交際を始めた。


確かにお互いの手の内は知り尽くしている。


だからこそ、よく喧嘩も繰り返した。


喧嘩もしたが、その後の仲直りの仕方も知っていた。


どうすれば、喜ぶか。機嫌が直るかまで。


いずれ、僕は藍子と結婚をするのだろうな、と勝手な思い込みを


するようになる。


毎日が、喜びに満ち溢れ、恋愛感覚が麻痺していたのかもしれない。


家族、と言ったら変だけど。それによく似た、近い関係であった事は確かだ。



ある日。彼女は、それまで同棲していた部屋から突如、姿を消した。


何の前触れも無かった。


僕は、苦しかった。


親友と恋人を一変に両方無くした気分だった。


愕然とした。それ以来、僕は藍子との夢に魘され続けていた。


ようやく、2年が経過していた頃。高校の同級生の伝手で


藍子と連絡が取れるようになった。


しかし、藍子は、既に他の彼氏がいて。幸せそうだった。


藍子は申し訳なさそうに言った。


「ご免。あんな事、するつもりじゃなかったのに・・」


僕は、隣にいたらすぐに引っぱたこうと思っていた。


だが。彼女の前で。忘れ去られた好意の前では。


全てが、無効力だった。


僕は、それっきり、彼女と1度も会う事はなかったが、


以前と同じように友人関係を取り繕うと


努めた。いや。お互い、そうすることでしか、


傷ついた心を慰められなかった。


僕は、彼女がまだ好きだった。本音を押し隠していた。


だけど、それを知らしめたのは。


彼女が言った一言だった。


「私、もうすぐ赤ちゃんが産まれるの」



唯一の希望。藍子といつか、また元の恋人関係でいたい。


そう願っていた筈が。


根底から覆された瞬間だった。


僕は、携帯をそのままにした。


体中から、力が抜け、その場に倒れこんだ。


「なんで。もっと早く言わなかったの。俺じゃなくて、


どうして、別のヤツと一緒にいるの」


僕は今まで心の片隅に封印していた想いをぶちまけた。


悔しさのあまり、自暴自棄に陥った。


不甲斐なかった。僕は、なんて馬鹿なんだろうと卑下し、罵った。



数日後、藍子から結婚式の案内状を貰った。


素朴だが、幸せが沢山、詰まった葉書だった。


涙。案内状の出席のマークに。滲む、涙。



僕は外に出た。近所の公園まで走った。


藍子。


幸せでいてくれ・・。そんな思ってもみない言葉を飲み込む。


今は。そっとしておいて欲しい。


そう心の中で呟き、涙が枯れるまで泣いた。



今の僕は。まだ彼女を好きと思う気持ちは、否めない。


しかし、彼女とは親友には戻れないし、彼女は最初から最後まで


僕の中で女だったと思う。


同じように彼女も。僕を男として見ていたと思う。


解かるのは、その程度だった。


振り返っても仕方ない、情もある。


僕はそう、自分を諭す以外、生きていく術を未だに見出せない。



<終>


こんなテーマあったんだ第2弾です。sixpence none the richer


携帯からの投稿なんで読みにくさはご了承ください。


今日のBGMは、DOCOMOの最新CMでも流れてる曲で、


Sixpence None The Richerの 『KISS ME』です。


緩やかなテンポで、リラックスできる仕上がりになってます。


実は、4年くらい前からある曲なんすね。


今頃、流行った理由もよく分かんないんすけどね(笑)


まー、でも幅広い層で人気のある曲なんで、和みやすさでは群を抜いてると思います。


マックでよく聴いてたんですけど、思わずうっとりして寝そうになります。


お薦めの1曲です。



タイムトラベラー! 第5話



教室は、静まり返っている。


昨日の堤の自殺で悲しむ振りをしている生徒もいる。


教壇に立つ担任の黒染め。


今日もやけに黒いな、と三上は思う。


黒染めは一呼吸おいた後で、寂しそうな表情で話し始める。


「葬式が明日あるから、各自行くように」


何が各自だ、俺は知らない人間の葬式に行くほど


暇じゃねーんだよ、三上は憤りを感じている。


朝礼が淡々と進む途中も、三上はつまらなそうに


机とにらめっこをしている。


隣の女子生徒がすすり泣く。


教室全体が沈んでいる。


どうせなら、沈没してしまえなどと三上は相変わらず


呪文のように唱えている。


ただお経のような担任教師の話を聞いているだけの時間が


とてつもなく長く感じられる。


億劫でしかなかった。


朝礼が終わると、三上は辺りを見回す。


そういえば。


滝田がいない。


昨日、機嫌を取り戻したはずだった。やはり、まだ失恋を


引きずっているのか、そう考えた矢先。


突然、勢いよく背後の扉が開いた。


滝田だ。


何故か、虎のぬいぐるみを被っている。


「みんな、おっす!!阪神優勝おめでとう!!」


「何だよ、その格好・・・」


教室の時間が一瞬、止まる。


途端にひそひそ話が始まる。


「おっと!三上ちゃん、おめでとう!」


「おめでとうって・・」


「優勝だろ?もう」


「まだしてねーじゃん。それにそんな格好で学校来んなよ!」


「ん?」


などと言って、滝田はおどけて見せる。


そして、手にはドラムを持っている。


スティックで勢いよく叩き始めたかと思うと、1人どんちゃん騒ぎだ。


もう一方の片手で紙吹雪を撒き始める。


ヤバイ、完全にイってる・・。


三上は途端に両脇を締め、滝田を制した。


滝田は三上を振り払い、教壇へ向かう。


そして、教室片隅のだるまの前で止まった。


「遅れて、すみません」


先ほどと打って変わって、教室中でどっと笑いが起こる。


三上は、背後から肩を叩く。


「それ、黒染めじゃねーよ」


さっきにも増して、笑いが渦巻く。


そして、何故か拍手まで起こる始末だ。


三上は照れ臭そうにしながらも、ぬいぐるみを引っ張り、


滝田を連れ戻す。


滝田は、頭を掻きながらみんなに手を振る。


手。


手まで黄色い虎模様だ。


いや、そんなことはどうでもいい。


それよりコイツを何とか教室から外へ出すことが先だ。


そう考えて、三上は滝田を諭す。


「お前、黒染めに見つかったらどうすんだ。早く着替えろよ」


「俺、これしか持ってきてねーよ?」


「とぼけんな、次の英語の教師が来んぞ」


「そっか」


そっかじゃねーよ、そう言って虎の手を掴む。


後ろの扉へ足で蹴り出す。


廊下で英語の女教師とすれ違う。


丁寧に会釈をし、挨拶を交わす滝田。


「虎です。おはよ・・」


そう言う滝田の口を強引に塞ぎ、三上は裾を引っ張り走る。


滝田は呑気に他の教室までの生徒まで手を振っている。


女教師がくすっと笑う姿を確認しながら・・。



ようやく玄関先まで辿り着く。


三上は息が上がっている。


滝田は、相変わらず感無量といった表情だ。


「で、なんで帰らなきゃいけねーの?」


三上は乱れた呼吸を整えながら、呆れた調子で言う。


「なんでって。どこまでボケれば気が済むんだよ」


その直後、背後に人が近づくの気配を感じ取る。


体育教師だ。


マッチョな身体をのそのそと左右に動かしながら、こちらに


近づいてくる。


そして、目と目が合う。


滝田は途端に裸足で、いや虎の足で玄関から飛び出る。


それにつられるかのように、三上も追う。


「待て!お前ら!!」


教師の言葉を振り切り、猛スピードで逃げる2人。


グラウンドを横切り、正門まで一目散だ。


駐輪場まで回ると、滝田はすぐに自転車に飛び乗る。


逃げ足だけ速いヤツ。


三上はそう思いながら、必死で滝田まで追いつこうと走る。


「三上ちゃん、逃げるぞー」


「お前、ふざんけんなよ!」



その日は1日中、近所の河原の土手で過ごした。


滝田は虎姿。


なんで、こんなヤツと一緒にいるんだろ。


そう思いながら、三上は土手に寝そべる。


滝田は真顔で問いかけてくる。


「俺、行くことに決めたよ」


三上は素知らぬふりで空を見上げている。


雲と雲が重なる。


あまりの馬鹿馬鹿しさに、三上はくしゃみを


しそうになる。横になって、滝田をまざまざと見る。


「真剣な顔してるけど、虎だぜ?」


滝田は思い切り、かっかっと笑う。


それまで溜めていた鬱憤を払い除けるように。


おかしいといった様子で、地面を叩く。


「こんな格好でも、怒られない場所へ行こうぜ」


ようやく落ち着いた後、滝田はそんな言葉を三上に


掛ける。


河原の水面に小さな虹を見つける。


三上は、滝田の言葉を反芻する。


そして、もう1度虹を凝視する。


「そうだな。お前の言うとおりだよ」


三上は、滝田に手を差し伸べる。


滝田も虎の手を差し出す。


お互いに見つめ合い、歯を剥き出して噴き出す。


夕方になるまで、滝田と語り合った三上。


翌日。


学校に新たな事件として、衝撃を与えることになることも


知らずに。


この事件をきっかけに、学校で彼らを知らない者は誰も


いなくなった。


土手で笑う2人。


夕焼けが、川岸で止まる。


水面に浮かぶ光に、青臭い春を感じる。


彼らの物語は、まだ始まったばかりだ。



<続く>

「ハイヒール」



スッチーの寛子は、苛ついた様子で腕時計を何度も見ている。


搭乗アナウンスが待合ロビーに響く。


ゲートに徐々に人が集まり始め、たった5分で長蛇の列が出来る。


「調整により、出発が遅れましたことを深くお詫び申し上げます」


丁寧な口調の乗務員。


しかし、1人独特の空気を醸し出している女性がいる。


寛子だ。


アナウンスをそっちのけで、ざわつく乗客にあからさまに一瞥する。


鬱陶しいわ。


そうぼやき、低位置まで重い足取りで向かう。


機内は、先ほどの列が時間の遅れを急かすかのように


我れ先へ乗客同士がおしくら饅頭状態だ。


ごった返している様子に、寛子は挨拶の1つもせず、言い放つ。


「早く乗りなさいよ。そこの汗かきデブも!」


何故か、他のスチュワーデスは彼女の横柄な態度に


全く気に留めない。


煙草があれば、吸ってしまいそうな勢い。


彼女は周囲の唖然とした表情に対し、ニヒルに笑う。


「ふん。遅れたのは、私達が悪いわけじゃないのよ。


調整せずに乗って、飛行機が墜落してもいいわけ?」


夏ということもあり、空調が徐々に淀み始め、


乗客の熱気が一気に充満する。


ますます寛子は、苛立ちを露にする。



家族連れの親子が乗る。


父親は、どうやら新聞を取ろうとしたのだが、あまりの混み具合に


取りそこねる。


彼女は、新聞をハイヒールで踏み潰す。


表紙の見出しの文字が歪む。


父親は、思わず目を見開いた。


「な、何してるんですか!?」


語気を荒げ、罵るように彼女に注意を促す。


寛子は、そんなのは少しも気にならない様子だ。


「早く乗りなさいよ。ハイヒールで蹴られたいの?」



父親は、憤りをじっと堪え、子供を引き連れその場を離れる。


ある年配の乗客は、お辞儀をしているのにも関わらず、


彼女は見向きもしない。


そればかりか、お年寄りを少しも労わろうとしない。


「アンタ、のろいわね」


そう言っては、尻を蹴り上げる。


あまりの悪女っぷりに先を待つ乗客も怯えている。


それだけならまだ良かった。



一通り、乗客がシートに座り終わると機内アナウンスが始まる。


寛子は、乗客のシートベルトをチェックすべく、通路を歩きながら


辺りを見回す。


長身に高いヒールを履いた彼女は、さながら厳重な警備員のようだった。


鋭く、そして冷めた目で睨む。


シートベルトをしていない子供の前に立った。


左右の乗客は、また何か起こるんじゃないかと


目を凝らして子供に注目が一点に注がれる。


彼女は、それまで遊んでいた飛行機の玩具を手でさっと


奪う。


「シートベルトしなさいって言ってるのが聞けないの?」


子供が泣き出す。


次の瞬間、寛子はシートベルトのシルバーの留め金具で


子供をひっぱたく。


すぐ隣にいた母は、怯えながらも子供を庇おうと必死だ。


「ちょっとやめて下さい。痛がってるじゃないですか!!!」


「あなたの子供?随分と躾がなってないわね」


暫くの口論の後、寛子は謝りもせず通路を颯爽と抜ける。


コツ、コツ。


ヒールの音が響くたび、辺りに緊張が走る。


気の休まる暇もない。


そう囁き、乗客は混沌とする。



そして、遂にマイク越しに寛子の独壇場が始まる。


「長らく待たせたわ。私の言うことを聞けない人は


さっさと降りなさい。乗る資格なんてないわ。


機内は、私が支配し、取り締まってるの。


つまり、私に逆らう者。その時は、罰が待ってるから覚悟しなさい」



その時だった。勇気ある乗客がいた。


不服だ、と言いながら立ち上がった。


「あなたのやり方は間違ってる!お金を払って乗ってるんだぞ!


もっと親切な対応が出来ないのか!!」


彼はもっともらしい意見を言う。


しかし、機内において全ての権限を握るのは寛子だった。


「あなたは乗る資格がないわね。早く降りなさい」


そう言い退けては、彼女はヒートアップしていく。


彼女が男だったら。


まるでヒトラーだ。


もしくは、学校の無能力な教師か。


乗客は背筋の凍りつくような思いで、無事、飛行機が到着するのを


待つしかなかった。


長い沈黙の後、いよいよ機体が離陸を始める。


寛子はモニター画面にアップで映る。


もはや、誰も彼女を止める者はいない。


「さぁ、始めようかしら。まずは、新聞を落としたA25に座った


あなた。立ちなさい。早く立て!!」



A25に座った父親は、仕方なくゆっくりと立ち上がる。


指先は怒りに震えている。


そこでカートで持ち込まれたのは、ジュースだった。


「あなたが飲みたいのは、オレンジジュース?それとも、ウーロン茶かしら?」


父親は唇を噛み、応えない。


わずかな抵抗だったのかもしれない。


だが、無言の彼を待っていたのは体罰だった。


「何も言えない子なのね。いいわ、両方かけなさい」


ジュースを持ってきた他の乗務員が2人がかりで


彼の頭めがけて、ポリバケツでジュースをかける。


眼鏡が流れ落ちる。


オレンジと茶色の液体が混ざり、何とも言えない濁った液体が


髪や額から滴る。


隣に居る母親でさえ、恐怖に慄く。


「さて、お次はC30のあなた」


彼女は専制的に振る舞い、男に指をさす。


男は大学生のような風貌だった。


彼は思った。


「まるで俺のいた学校だ・・」


彼の通う学校は、体罰が酷く、県内でも


1、2位を争う校風の乱れていることで有名だった。


生徒を注意することに意義を見出していた教師。


正義という名のイデオロギー。


閉ざされた空間。


そのどれもが、彼の中では苦い思い出として残る。


閉ざされた空間では、暴力も正当化されてしまう。


彼はそう思った。


そして、またしても。


寛子は、それまで虚ろに宙を見つめていた男を名指しして


激しく罵った。


途端に、シートに紐で括りつけられる。


わずかな出来事に彼は呆気に取られた。


いや、彼はある意味で悟っていた。


この現場から逃れることは出来ない。


寛子は、彼に機内食を食べさせてあげなさい、と淡々とした


口調で話しかけた。


乗務員がスプーンで、熱くなったシチューを顔面にかける。


悲鳴が響き渡る。


暫くして沈黙。


ジェット機のエンジン音だけがかすかに聞こえる。


乗客の手が、面々を覆い隠す。



フライト以降、監禁状態だった乗客はぐったりとした


徒労感に襲われる。


通路には、至るところで血痕や嘔吐した食べ物が


散乱している。


離陸の後、乗客はやっとの事で解放される。


だが、寛子は腕を組み、満足気な様子で嘲笑う。


駆けつけた警察官に取り押さえられ、寛子は連行されてゆく。


機内から階段で降りる途中、彼女の足音が不気味に響く。



ハイヒール。


彼女という人格を作り上げたのは、決して偶然ではない。


ただ場所が機内で勃発しただけであって、学校の


体罰と何も変わらないのだ。


乗客の1人は、離陸後、こう語った。


「恐怖は彼女自身じゃなかった。最も恐れていたのは、


閉ざされた密室だったことだ」と。


もし、ハイヒールの音が鈍く、不気味に聞こえたら。


それは悲劇の序章に過ぎないのである。



<了>

「太陽の町」



フロントガラスに飛び込む  紫外線の手荒い洗礼


風を切って  ダイブする  オレンジ色の季節


息をきらす 走る砂浜で


君に会いたくなって 海ごと連れてくよ



島に浮かぶ女神  微笑みかけて


明日の運命を預けたい


海が大声で呼んでいる 太陽の町  



溶け出すバニラアイスと青空


熱く焦がす 黒くなった背中に


キスを残すだけで


世界の尻尾を掴んだ気分



ちっぽけな心より広々とした


砂浜に寝そべって 思わず欠伸をしたら


ペットボトルで殴られる


太陽がいる限り


僕は少年になれる


淡い季節はさざ波に運ばれる



目に焼きつく女神  睨まれて

日記張に思い出を刻む

海が大声で呼んでいる 太陽の町



コバルトブルーを入道雲が追い越す


屈託なく笑う


僕は少年になれる


そこは無垢が住む常夏  太陽の町



2005/8/19