1年前の自分へ。

今、実家の古い机に座ってこれを書いている。引き出しの取っ手がひとつ取れかけていて、子どもの頃から直されていない。春と夏のあいだの、どちらとも言えない気温の夜。窓を開けると、まだ少し肌寒い。

古いプロジェクトフォルダを整理していたら、去年の春に作ったクライアント向けの広告素材が出てきた。ファイル名に「_v7_final_本当にfinal」と書いてあって、少し笑ってしまった。あのとき、あなたはどれだけ消耗していたか。

そのフォルダを開いて、しばらく眺めていた。


あのころ、何が起きていたか

あなたは当時、AI広告クリエイティブ生成ツールを「使いこなそう」としていた。正確には、使いこなせると思っていた。

ツールは確かに動いていた。プロンプトを入れれば画像が出てくる。テキストを入れれば文案が返ってくる。でも、何かがずっとかみ合わなかった。

今になって思うのは、あのとき問題だったのはツールじゃなくて、「既存のワークフローにAIを後付けしようとしていた」こと自体だったんじゃないかということ。

クライアントへの提案資料を作る手順は、それまで何年もかけて自分なりに整えてきたものだった。リサーチ、方向性の整理、コピーの草案、ビジュアルの方向性、フィードバック、修正。その流れの中に、AIを「便利な道具」として差し込もうとした。

でも、AIはそういう使われ方を想定していない、というか、そういう使い方では本来の力が出ない、ということに気づくのに、半年かかった。


文案とビジュアルの「語調」がずれていく問題

特に苦しんだのが、コピーとビジュアルのトーンがバラバラになることだった。

AIが生成する文案は、単体で見ると悪くない。でも、同じツールが生成したビジュアルと並べると、何かが浮いている。文章は落ち着いたトーンなのに、画像は妙に賑やかだったり。あるいはその逆。

これはAI広告クリエイティブ生成ツール全般に言えることだと思うけれど、「文案の語調」と「ビジュアルの語調」を統一するのは、ツールに任せるだけでは難しい。

当時のあなたはこれを「AIの限界」として処理していた。でも今思えば、それは半分しか正しくなかった。

問題の半分は、自分がクライアントのブランドトーンを言語化できていなかったことにある。「落ち着いた雰囲気で」「信頼感があって」「でも堅すぎない」——そういう言葉をそのままプロンプトに入れていた。それでは、ツールも迷う。


AIアバター動画広告を試したとき

春の終わりごろ、あるクライアントから「動画広告も作れないか」という話が来た。

予算は多くなかった。撮影は難しい。そこで初めて、AIアバター動画広告というものを本格的に試してみた。

正直に言うと、最初の印象は「思ったより自然だ」だった。アバターが話す映像は、数年前に想像していたような不自然さよりずっと滑らかで、短い尺であれば十分に使えるレベルだった。

でも、ここでもまた同じ問題が起きた。

アバターが話す「言葉」と、画面に映る「雰囲気」がかみ合わない。スクリプトは自分で書いた。でも、アバターの表情や動き、背景の色温度と、スクリプトのトーンが微妙にずれている。見ている人には伝わらないかもしれないけれど、自分には気になって仕方なかった。

結局、スクリプトを書き直した。今度はビジュアルの側に合わせる形で。文章を先に作るのではなく、生成されたビジュアルを見てから言葉を決める、という順番に変えた。

それだけで、ずいぶん違った。


ワークフローを「改造」するということ

今のあなたに伝えたいのは、「AIツールを既存のフローに組み込む」という発想を、一度手放してみてほしいということ。

組み込もうとすると、どこかで必ずぶつかる。なぜなら、既存のフローはAIがない時代に最適化されているから。

むしろ、AIがある前提でフロー全体を設計し直す、という方向の方がうまくいく。少なくとも自分はそうだった。

具体的には、こんな順番に変えた。

まず、クライアントのブランドトーンを「形容詞リスト」として言語化する作業を最初に置いた。これはAIに任せない。自分でやる。ここだけは人間の仕事だと思っている。

次に、そのリストをベースにビジュアルの方向性を先に生成する。文案はその後。

最後に、生成された文案とビジュアルを並べて、語調のずれがないか確認する。ここは目視。今のところ、これに代わる方法を見つけていない。

このフローに変えてから、Nextify.aiを含むいくつかのツールを試したけれど、どれも以前より使いやすく感じた。ツールが変わったわけじゃなくて、自分の使い方が変わったんだと思う。


結局、何が変わったのか

_v7_final_本当にfinal というファイル名を見て思うのは、あのころの自分は「完成」を外側に求めていたんだろうな、ということ。

ツールが正しく動けば完成する。クライアントがOKを出せば完成する。バージョンを重ねれば完成に近づく。

でも今は、完成の基準が少し変わった気がする。語調がそろっているか。伝えたいことが伝わっているか。それだけ。

AIがどこまで関わっていようと、その問いは変わらない。


窓の外が少し明るくなってきた。春なのか夏なのか、まだわからない夜明け。

1年前のあなたは今ごろ、また別の「_final」ファイルを作っているかもしれない。

それでもいい、と今は思う。