おはようございます

占い屋🔮リーリエリリー 店主

百合音です

 

「置き記事」⑥


昔、書いていた小説を連載しています。どこまでの人が読むかは分かりませんが、一応続きを

 

3月末近くあたりから、バリバリ編で復帰いたしますので、それまではお付き合いいただけると幸いです。 

 

『前回までのあらすじ

同棲生活3年目を迎え、彼との関係に悩むみひろ。職場の後輩、瑠奈に誘われ占い館に訪れる。鑑定中、血黒の大蛇を目撃し、バニックに陥りつつも、現実と自身を見つめる。 結果、彼と別れようと決意するが、彼は粘着ストーカーだった。

身を潜めるみひろに、占い師の息子と名乗る男性が現れ·····』


第1話

第2話

第3話

第4話

第5話



 

 ぐっすり眠っていると、大きな着信音が鳴り響き、慌ててスマホを取る。


「すみません! 寝てました!」

 

と、焦って叫んでしまうと、少しの間を置いて、穏やかな声が話しかけてきた。


「おはようございます。 よく眠れましたか?」


 「はい。 久しぶりにゆっくり眠れたような気がします」


 小窓もピッタリ遮光しているため、とっさに時間は分からない。 頭元に据えつけられた電光時計を見ると、AM10:47 と表示されていた。


 「あ、ほんとうに良く寝ました。すみません」


 こんな時間までぐっすり眠れたのは、いつ頃だったろうか。電話口の相手は、ほっと安堵したようなため息をついた。


 「井上さん? 日向です。 母や知り合いと話した結果、今後、井上さんが安心して暮らせるように図らいますから、2日ほど、準備にお時間を下さい」


 「・・・・・・。」


 「長く、ホテル生活をしているようなので、今しばらくは窮屈でしょうが、もうしばらくはそこに居てくださいね。 明後日の朝10時半、ホテル玄関前で待っていますから、チェックアウトをして出てきてください。


 それからは、忙しくなりますから、体力は温存しておいてくださいね」


「はぁ。わかりました。 でも、あの。 他人さまにそこまでしていただくのも何やら申し訳ないといいますか……」


「今は何も気にしないでください。 いいですか? あなたは今、身の危険を感じて潜伏しているんです。 私は、市民の安全を守る警察官です。 被害相談を受けた以上、放置しておくことはできません」


「あ。 じゃあ、警察に出頭したほうが良いですか?」


「いえ。 できれば、この案件はこちらに任せていただけますか? 母が非常にあなたを気にかけていて……、とても、危険だと言っているものですから」


 危険……。 確かに痛いくらい強烈な心当たりがあった。

 

 やっぱり先生は、あの大蛇が見えていたのだろう。 私が多く語らなくとも、おそらく先生はあれで、現状が一筋縄ではいかないということも理解したのだろう。


 「もう一度来なさい」という言葉は、あの悪霊の始末に、そうとうの時間がかかると判断したからか。 

だから、常人には見えないモノを「ないもの」として、一旦は、やり過ごしたに違いない。


 少なくともこれは、現実世界でも、そうとう厄介なことが予見できたからこそ、息子さんにも相談したのだろう。


 そう考えれば、すべてに合点がいく。 いったいいつから私は、あんなモノに憑りつかれていたのだろうか。 


あれは聡一郎絡みのものか。


 とたんに全身の毛が逆立った。得体の知れない感覚に冷や汗がにじむ。 


 思い当たる節は、充分にあった。 とはいえ一体、私自身が何をしたというのだろう。と怒りが湧き上がる。 


でも、先生の能力で、アレが除霊できるなら、大枚はたいても良いから、一分一秒でも早くお祓いをお願いしたい。ならば、この人に今後を委ねるしかないだろう。


「……。 わかりました。 よろしくお願いいたします」


 なんとかそう声を絞り出すと、相手はホッとしたように明るい声で


「では、明後日の10時半。 ホテルの玄関まで迎えに行きますね。 私は、グレーのスーツに青いネクタイ姿で行きます。 背は高め、ひょろっと眼鏡をイメージしておいてください」


 と、電話を切った。


 思い当たる節 ──。

 聡一郎が捨てた女たち……。 二人で街を歩いていた時、いったい何人の女が私を罵倒しただろう。


「こんな冴えない女の、どこがいいの!?」


と。バッグで殴りかかられたこともあったっけ。そしていつから、それを数えることを辞めたのか。


 昔を思い出すと、急に身体が重くなり、またベッドに横たわる。 おなかは空いているが、出前をお願いする気力がない。


 聡一郎への怨霊なのに、なぜ本人でなく、私に憑りつくのだろう。 おかげでヤツは、何ひとつ不幸になっていないじゃないか。


 好き放題、何もかもを食い散らかして、いろんな女を巻き込みながら自堕落に生きて。 あの生き方こそが、彼がもっとも望んでいる幸せなんじゃないの?·····。


と、考えて、ハッとする。

 

 だからこそ「女」のほうに憑りつくのか? 


 

『彼は、わたしのもの』


 

 どこからともなく声がした。これは、夢? 身体が動かない。


 血黒の大蛇がゾロリ現れたかと思うと姿を変える。


 真っ赤な着物に真っ赤な目。陶器のような白い肌。 誘うように薄く開いた真っ赤な唇から、シューシューと二枚舌が出入りする。


 不気味な姿。だが、そのなんともいえないなまめかしさが、女である私にも充分にわかる。


あまりにも妖艶な姿にゾクリとする。


 濡れたように艶やかな黒髪が聡一郎に絡みつく。 そしてうねうねと動きだす。 その刺激が心地よいのか、彼は、うっとり目を閉じる。


 二枚舌が巧妙に、丹念に彼をねぶり始める。 喜悦の表情で身を任せる聡一郎を、自由に愛しながら、蛇女はこちらに目を向け、にやりと笑う。


こちらを蔑み、憐れみながらも、得意げで満足そうな、陰湿な蛇の目。

 

 『アンタは、愛されてないのよ』

 

 思わず、ギュッと目を閉じる。


 同棲を始めて3ヶ月も経たないうちに、聡一郎は浮気を始めた。 

それ以降、彼はいっさい、私を求めてはこなかった。 

 

 「だったら、私を解放してよ!!」

 

 そう叫ぶと蛇女はますます嬉しそうに口角を上げた。 その顔はもう、蛇そのものだ


『いやよ。 まだまだアンタはコイツを愛してる。 愛されないのに、愛してる』


楽しく歌うような声が響く。

 

 「嫌ぁあぁぁあぁぁ」 

 

 自分の絶叫で、飛び起きた。

肩で息をしながら、呟いてみる。

 

「聡一郎を愛してる?」

 

 思考がまとまらない。

 がんじがらめの縄に絡め取られ、うなだれる人のカードが浮かぶ。



 あの人はどうやって、あそこから抜け出すのだろう。 


 いや、そもそも、どうやって、あんな状態にまで陥っちゃったんだろう。


 中途半端にうたた寝をしたせいか、頭がガンガンと痛い。


 この痛みから、この呪縛から、逃れたい。 逃れられるのか? どうやって動けばいい? 


 私はもう、この呪縛に対して、なすすべがなく、ただただ、うなだれるだけだった。

 

 続く