おはようございます

占い屋🔮リーリエリリー 店主

百合音です😊✨

 

「置き記事」⑤


昔、書いていた小説を連載しています。どこまでの人が読むかは分かりませんが、一応続きを

 

3月末近くあたりから、バリバリ編で復帰いたしますので、それまではお付き合いいただけると幸いです。


 ちなみに、ホラーSF小説です(血とか、誰かが死んだり、殺されたりとかはないです。)


『前回までのあらすじ

同棲生活3年目を迎え、彼との関係に悩む主人公。職場の後輩、瑠奈に誘われ占い館に訪れる。

鑑定中、血黒の大蛇をみた主人公、井上みひろは、バニックに陥りつつも、現実と自身を見つめ、彼と別れようと決意。しかし、彼は蜘蛛のように、卑劣な男。孤立無援になったみひろは·····』

 

第1話


第2話

第3話

第4話

 衝動的に電話を掛け、15秒ほど、呼び出し音を聞いてから、ふと、スマホを眺める。 


0:53。 


深夜の時刻にギョッとした。見ず知らずの他人に電話を掛ける時間ではない。 慌てて電話を切る。


 窓の開かないホテルという、非日常に身を置いてから数日経ち、時間の感覚がなくなっていたみたいだ。




 そこまで怯えなくとも良いかもしれない。だが、彼の粘着には絡め取られたものにしかわからない恐怖があった。 


 なにしろ、同棲をはじめて3年。 半日以上、彼の支配を免れられたことなどなかったからだ。


 不定期に入るLINEスタンプ。既読がつかないと、鬼のような着信や怒りスタンプの連打。

 それでも連絡できないと、身体の痛みで後悔させられる。


 たった数日、聡一郎と顔を会わさないだけで、すでに恐怖心が何倍にも膨れ上がっている。


 理性をなくすまで怒り狂った聡一郎には、なにをしでかすかわからない、ある種の狂気があった。最悪、殺されるかもしれない。  


と、急に手元のスマホがバイブし始めた。 着信を確かめると、名刺の電話番号。


慌てて電話を取り、開口一番に


「すみません! お時間も考えず電話をしてしまいました!!」


と、叫ぶ。


「すみません! 大丈夫ですか?!」


 同時に、電話の向こうから切羽詰まった男性の声が響いた。


「えっ?!あれ?」


 と、私が声を詰まらせると、重ねるように男性は言葉をつなぐ。


「ご無事ですか? お怪我とかはないですか? 今どこですか?」


 「えっ? あの……、すみません、間違いました」


 といい、電話を切ろうとすると


 「切らないで!」


と、電話の向こうから鋭い声が響いた。 スマホを離し、名刺と電話番号を3度ほど見返す。


宝龍庵 日向 夏子


 と書かれた名刺。確かにこの電話番号だ。でもなぜ、男性が?


「え? あ、す、すみません! とにかく切らないで!」


 相手は、慌てて自己紹介を始めた。


「僕は、えぇと…。実は僕、日向夏子の息子で、警察官の日向夏生といいます。 で、この電話番号は、母が、緊急対応が必要な人にだけ教えるものなんですよ」


 彼の話によると、母親のお客様の中には、警察沙汰ギリギリの相談もあるとのこと。 中でも「生命の危険」があるような人の場合は、占いよりも、自分のような職業が必要になるケースが多く、事前連絡を受けているという。


「あ……。 そうなんですか。 えぇと…」


そうは聞いても、何をどう話せばいいか迷っていると、


「お名前をうかがってもいいですか?」


と、電話の向こうから穏やかな声が尋ねてきた。 名乗ると、しばらくの沈黙のあとに


「あぁ、ハイ。 井上みひろさん。母がデータを残していました。 前の電話番号は、〇〇〇-△△△△-××××ですね。 そちらを登録していたので、どなたか分かりませんでした。 申し訳ありません。


以降は、こちらの着信番号で登録し直しておきます。


でも察するに、そうとう厄介な状況にあるようですね? 今、ご自宅ですか?」


「いえ……」


占いの館での会話を思い出す。

だが、あの時話したのは、腐れ縁の彼がどうとかいう話だけだった。


 で、ほんとうの自分を取り戻すために別れるという、シンプルな鑑定内容だったはずだ。


聡一郎の、ひととなりなどは、これっぽっちも相談しなかった。


 とはいえ。


あの場が『見えて』いれば。


あの、私の全身から溢れでてきた、どす黒い血色の大蛇が見えていたのなら、ある種、別の意味での「生命の危機的状況」であることは、伝わったのかもしれない。


こちらが沈黙していると、


 「あ、母が言葉足らずだったのかな。 えぇと、たぶん今、修羅場真っ最中だと思うんですけど、違いますかね?」


 彼は、この手の混乱状況には慣れているのだろう。極力、自分を抑えて、穏やかに疑問を投げかけてくる。 


だが「修羅場」という言葉が生々しすぎて、言葉が詰まる。


「あ、あの。 まだ、修羅場というわけではないんですけど·····」


 と、いいながら、なんとか事情を説明しはじめる。 要領を得ない私の話を、所々で的確な質問を挟みながら聴き、最後には、細かな個人情報などもお伝えすることになった。


「なるほど。 よくわかりました。 取り敢えず私から折り返すまで、そこから出ないようにして下さい。


 いろいろ心配や不安はあるでしょうけど、できるだけ、なにか食べて、ぐっすり睡眠を取っていてください。


 ただし、着信音はちゃんとオンにしてくださいね。 


こちらの電話にだけは、出られるように、忘れず設定しておいてください」


 と、最後は必要なことだけを言って、彼は電話を切った。


いったい、何がどうなっているのか。


 ただ、思わぬところで、相談に乗ってくれそうな人が現れたというのは、確かなのかもしれない。


 安堵していいのだろうか。 世間知がありそうな警察官という肩書きは、少し安心する。


 とにかく眠ろう。


 私の「今」を知る人がいるのは、すこしだけ、心強い·····。


 そう思いながら、久しぶりにぐっすり眠った。


続く