もう限界だと思った。絶対無理。

こんな拉致までされて置き去りにされた。
絶対普通じゃない。

Reyちゃん宅にいつまでもお世話になるわけにもいかない。
実家に帰ろう。
その日は寝不足のまま身支度をして,実家にとりあえず行った。

両親に今回の事件の話をした。彼らは神妙に聞いていた。母親は彼の言動が,もうすでにおかしいと思っていたらしい。父は,もしもここに来るなら,俺が身をもって戦う,とか言っていた。母も怒っていた。具体的にはかすかにしか記憶がない。

インターネットで調べ,市役所にある「女性相談センター」に電話をかけ,行った。そこでは40分くらい経緯,話を聞いてもらった。結果,アドバイスを受けた。
1)警察に行って報告すること。
2)県の暴力相談支援センターに電話すること
3)弁護士を雇い,裁判所から保護命令を出してもらう。

私は何をしたかったのか,よくわからなかった。
頭の中が混乱して,とにかく助けてほしい,と思っていた。
一人で彼に立ち向かう気力も体力もない,そう感じていた。
市役所の相談センターで,DVについてのパンフレットをもらった。そこには,DVの定義が書いてあった。

そうか,私はDVに遭っていたんだ。
そんなことに、初めて気づいた。モラハラだとは,気づいていたが、これがDVだとは認識していなかったのだ。

実際その渦中にいると,されていることが酷いのかどうかの判断すら出来なくなる。今ですら、私は自分がされてきたことの度合いがどれだけのものか、よくわからない。明らかにおかしいとはわかるという程度だ。

私は警察へ行った。警察で,確か生活安全課だったと思うが、そこで詳しく普段からの彼のおかしな言動と暴力,今回あったこと,私たちの情報を説明した。

一時間くらいだったと思う。ずっとDから電話が鳴りっぱなしで,20回くらい鳴っているのを警官もみつめていた。
「すみませんが,電話が彼からで,あまりしつこいので、電話に出て,『彼に今忙しいから話せない』と言ってもいいですか」と断りをいれて,
電話で「今は市役所だから・・・」と嘘をついた。

警察では,基本的には,市役所とおなじアドバイスを受けた。私は実家にしばらく滞在する予定だったが、実家の近辺を見回ってもらいたかった。しかし,実際に何か器物破損とか,特別なことがない限り動けない,と言われた。
そして,過去の暴行も証拠が必要で、それがないと何も証言は認められないようだった。しかし,今回の報告から、何かあって連絡があればすぐに動いてくれる,と言っていた。

警察から帰ったあと,当然Dから電話がかかり,しつこくいろいろなことを聞かれた。
「どこにいたんだ」
「なにをしていたんだ」
「だれといたんだ」
「何の手続きだ」
「うそだ」

などなど,どうしても私の行動を知りたいのだ。

私は適当に取り繕った。
本当にうっとうしい。
奴は自分のしていることがおかしいとはわかっている。
自分の行動を誰かに訴えられるのが怖いのだろう。

その後の日々はどうしていたのだろう。あまり記憶がない。
ただ実家のベッドがあるだけの客室で,仕事以外ほとんどぐったりしていた。
ある日,Dの職場から電話がかかり,
「忘れ物をしたので届けてくれ」と言われ、
私はもう本当に起き上がるのも精一杯だったので,断るしかなかった。

「そんなくらいのこともできないのか!
そのくらいやってくれたっていいだろう!
なぜできないんだ?
おれには出来ないって言うんだな。」

とかしつこく言われて、どやされた。

断るのも本当にしんどかった。
疲労困憊した。
こうやって,わけわからん攻撃を遠隔でもされていた。

弁護士に頼むことも考えた。そしたら,父と母は,
「それはDをもう国外撤去させるのとおなじことで、彼の退路をなくすことになるから,よく考えてから行動したほうがいいわね」
と言った。

今考えれば,彼らには細かい暴力やモラハラに関しては,きちんと説明していなかった。恥ずかしいというか、情けなくてできなかったし,心配もかけたくなかったというのが,一番の理由だった。

だから,実際わたしが虐待にあっていることが,きちんと伝わっていなかったし、私がここまでのダメージを受けていることも,彼らは認識していなかったと思う。でも,私は親にはあまりぶつけたくなかった。

私はその客間で,天井を見つめながらぼーっと何も感じない状態で,何時間も過ごした。荷物を昼間にとりにいこうと考えたが、怖くて行けない。
あの家が怖い。Dがいないってわかっていても怖い。
友人につきあってもらって、荷物をとりにいった。

私はアパートを探すことに決め,探し始めた。でも,まだどうするか何も決まっていない。私の名義の借家は解約できていないし,Dが退去してくれないとどうしよもない。路頭に迷っていた。

ある日不動産屋さんからの帰り,Dから連絡があった。

D「ぼくは,君からの話を聞いていないから,君の話を聞いてもいい。帰ってきて話そう。」
ゆ「話すのはいいけど,家に行くのはいやだ。」
D「じゃあ,外で会おう。とりあえず,(僕らの)家で6時に待ち合わせよう」

複雑な気持ちで家に行った。まだ愛情はあるが,怖かった。
家に入ると,私はぼそっと「ただいま」と言った。

彼はいつものように畳のビーンクッションに座って,ノートパソコンを膝に乗せインターネットをしていたが、「おかえり」とすくっと立ち上がって,私のほうに立ち寄って,プレゼントをくれた。そうか,ホワイトデーのチョコだった。私はバレンタインもあげなかったのに。
そして,わたしをしっかりと抱きしめた。長い間そうした。
恐怖心が解けたものの,アメとムチのようだ。こうした彼の一貫していない行動が私を混乱させる。でも一時的にでも安心した。今は怖くないとき。

ラーメンを食べにいこう,ということになり,食べに行って帰宅。
私は昼食も遅かったからか,本当に食べ過ぎた。

今で畳みに座って,いろいろ話をした。話といっても,なんだかイエスキリスト時代の歴史の話とか、彼の元彼女の話とか,結局彼の話だった。
「君は,ほとんど僕の話を遮って聞かないけど、今日は聞いてくれるね。」
と言っていた。
いつも聞いていたが、質問したり,相づちが彼の思った通りでないと,彼が勝手に機嫌を損ねて話をやめてしまうだけだった。
「さあ,もう帰ろうかな」というと,「まだいいじゃないか。一緒に映画を観よう」とかいう。っていうか話しにきたけど、一体何の話かわからん。

そうこうしていたら私は,食べ過ぎとストレスでか,
おなかが痛くなって吐いてしまった。とにかく胃が気持ち悪いし,腹痛。でも病院に行くほどでもないが、横にならないとつらい。

D「今日は安静にしたほうがいいから、泊まっていったほうがいいよ。」とおなかをさすってくれた。

私は実家に帰りたかった。でも心の中の半分は,そんなに優しくしてもらえるなら,一緒にいたいと思った。
そして,その日は泊まっていった。彼は私をベッドに寝かせ,「おやすみ」と自分の布団に行った。平和に過ぎた。



続く


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