私にとって彼と離れるべきだと感じたのは,一緒に住み始めてから3ヶ月過ぎた頃だった。
彼は,アメリカに一時帰国する,そのときずっと気になってる子とうまくいくかトライしたい,と言っていたあのころだ。
でも,どうもその女の子には彼氏がいて、しかも私のこともありあきらめたらしく、帰国してから,Dはよりを戻すような体制に入った。
しかし口頭では
「君とは,帰国して一日だけ耐えられたけど,もう次の日からは地獄だった」などといわれ,「君といて楽しかったことなんて一度もない」だの
「愛したことなんてない」などといわれるようになった。

アメリカ人の女友達にDとあったこと,いわれたことなどを話していたとき,彼女に訊かれた。

「ゆーちゃん,Dのことが怖いんじゃないの?」

少し間を置いて答えた。

「うん,怖い」

言ってから、初めて私は彼を怖いと思っていることに気がついた。

このころ,アメリカ人女子3人と仲がよく遊んでいたし,イギリス人の女の子とも仲が良かった。
すこし私たちとは常識・知識が違うことに気づいた。DVに詳しいのである。理解力も高く,DVの教育を受けていて、しかも身近な人に体験者がいて,実際見たり聞いたりしている
。私よりも10歳も若い子たちなのに。
私は友人の年齢が気にならなかったので、若かろうが年上であろうが平等につきあってきた。
日本人よりずっと精神年齢が高いような気がしていた。でもDは別だったけど。

私とDのやり取りを聞いて、
「それは精神的虐待だわ。」「いじめだわ。」「それは中毒であり,共依存症だわ」という言葉を初めて耳にした。

はじめは「?」という感覚だった私も,インターネットで検索するうち日本では「モラハラ」という呼ばれ方をしていることを発見した。
そうして,私は自分がDVに合ってることに気づいた。

この頃私はすでに3回ほど暴力や暴力まがいの行為を受けていた。
うつ気味ではあったが、まだ精神的には,それほど病んでいなかった。
あの頃脱出しておけば,今のような落ち込みをすることはなかったのに。私には勇気がなかった。
怖かったのと、なによりまだ彼を愛していた。

5ヶ月経った頃,限界が来たと感じた。
暴力も数回受けるようになった。腕に痣がよくできるようになった。

彼は背が170cmで,小柄なレスリングの選手だった。
筋肉質で,細マッチョというかんじ。
怒るとまず腕を後ろにまわして,寝技?の体制にもっていき技をかけてきたり、首を絞めたり、顔に布団や手を覆いかぶせて息が出来なくなるようにしたり,蹴飛ばしたり、突き飛ばしたり、頭を押しつぶされたりした。

私は,父が子供に暴力を振るう人だったから、絶対に暴力を振るう人とは一緒になりたくないと思っていた。
だけど,結局暴力を振るわれても,実際のところは「こんなこと慣れているわ」くらいにしか思っていないことに気づいた。
でも精神的なモラハラには耐えられなくなってきていた。

私はずいぶん痩せた。
あれだけダイエットしてもしても痩せられない壁があったのに,そんなのひょいっと超えて,痩せたと言うより,やつれた。
何を食べても美味しくない。

30代を極度のアレルギーで過ごした私は,いつも食事は気を遣ってきた。
野菜は無農薬。基本的にお菓子は生ものしか食べない。おやつはサラダ。肉は食べない。玄米と野菜、魚と大豆中心。ファーストフードは食べない。添加物はとらない。
でも,彼と暮らすようになって,食事も少しは彼に合わせようというのもあったが、自分をいたわらなくなった。
自分よりDを中心にしたのと,自分の価値を下げられて、それを信じ、大切にしなくなったのだと思う。
「君は価値がない。」「信用できる人間じゃない」「うざい」「君は~をうけるだけの価値はないね」「きみといるといらいらする」といわれ続けられた。

その後2ヶ月を一緒に住んで過ごした。
旅行へ行っても,針のむしろのようだった。
知らない場所の地図を見る私に,「どっちだ?!」と聞き、
「ちょっと待って」と地図を読んでいると,一分も待たず「遅いわ!」
と勝手に道を進み,違っているとわかると,私が遅いからと怒鳴り散らす。

彼が勧めるレシピのりんごケーキを作った。
怒られたくないので,完璧につくった。
「うえ~見た目からまずそう」
といって,味見すらしない。結局友人らに持っていったら、みんなに大好評で,料理上手に思われたくらい。

ある晩あんまりひどいこといわれ,夜中に一階で親友のNちゃんに電話して,
話していると,二階に響いてうるさいと言っては,また暴力と暴言。
(夜中に話す私も悪いのだが)

アメリカ人の友人Rちゃんが,うちに逃げておいで,と言ってくれた。
Rちゃんも去年DVの彼と別れたばかりだったから,ずいぶん協力しようとしてくれていた。
私は実家にも帰りにくかったし、大事にしたくなかったので,Rちゃんのところに夜は泊まりにいった。
それから,まさかあんな彼が狂った行動にでるとは思っていなかった。