ルクーのヴァイオリン・ソナタを聴きたくて、頑張って仕事を早く終えて会場へ。

 辻さんの演奏は初めてで、失礼ながら曲目当てでした。

 ところが、会場で私の「音楽の師匠」と偶然会いました。

 師匠がいるのなら間違いない。

 

 

 一曲目のイザイから呼吸が深い。

 伸びやかで艶のある音色。

 どっしりとしていて、あれ?今聴いているのヴィオラだっけ?と思ってしまう落ち着きがあります。

 フォルテ・ピアノの振幅は大きいのですが、細かにアクセントをつけたり、短い音符で乱暴に音を切らない。

 なので、音楽が”大きい”。

 それから弦を押し付けず、一音目はすっと柔らかく入るので丁寧に聞こえます。

 

 

 二曲目のフランク。

 ゆらゆらとして気怠く、中間色な曲にぴったりな、全体にレガートがかかった一筆書きのような演奏。

 滑らかな音色で、ちょっと妖艶さを感じました。

 改めて聴くとピアノとヴァイオリンが対話しているのですね。

 

 今回の演奏会、私にとっては、ここ数年の疑問である「ヴァントイユのソナタのモデル」問題解決が裏テーマでした。

 もう決まり。

 絶対にフランク。

 

 プルーストが気に入った音楽も、こういう曖昧で気怠さが特徴だった気がするし。

 

 この色っぽさは、サン=サーンスのヴァイオリン・ソナタにはない。

 これを聴きながら、スワンさんはオデットに恋をしたに違いないと、しばし妄想。

 

 

 さて、期待のルクー。

 CDで聴くのと違って「こういう曲だったんだ!」という発見がありました。

 驚いたのは、辻さんの奏でるヴァイオリンの音色が、ルクーとフランクで変わったことです。

 同じヴァイオリンなのに、どうなさっているのでしょう??

 基本的な演奏の仕方は変わらないのですが、フランクでの艶っぽさが抑えられて、少し荒々しい(荒いは言い過ぎですが。私の語彙力ではこうとしかいえない)印象。

 フランクよりも刻む箇所や高音が多いのですが、やはり柔らかく入るのでうるさくないし、高音も癇に障る音にならない。

 第二楽章や第四楽章は素晴らしいの一言でした。 

 フランクを聴きながら、この感じはルクーのソナタにそぐわないのでは?と思っておりましたが、やはり才能のある方は違います。

 

 

 辻さんのバッハをぜひ聴いてみたいです。 

 が、チラシでは名古屋での演奏会。うーん、仕事も忙しいし無理だな。

 次の機会に。

 

 本当に素晴らしい演奏会でした。

 

 

 

辻彩奈 ヴァイオリン・リサイタル

イザイ 悲劇的な詩、フランク ヴァイオリン・ソナタ イ長調、ルクー ヴァイオリン・ソナタ ト長調

2025年3月18日 於・紀尾井ホール