面白いんだけど、息子よりも「軽い」。
霊の話+冒険譚で、いわゆる通俗小説。
さらっと読める。
いいなと思ったのが、全体に漂う懐古趣味。
本人はごりごりの共和主義者なのに貴族的なもの、風雅なものへの愛がある(解説p387)。
断頭台に消えていった貴族や王たちに共感を寄せ(p100)、我が物顔でうろつく"市民"を野蛮な人間として描いている(p109-115)。
本作、いろんな人物が集まって怪奇譚を披露するというシンプルな小説(入子状にする構成的工夫はあるけどあまり効果的と思えない)。
実在の人物が登場人物なので、さながらフランスの山田風太郎。
出だしの凄惨な殺人事件から始まり、生首実験の話(p95あたりで出てくる本は実在するという)が興味深い。
なんと1956年まで生首に意識があるかを研究していたという(!解説p376 どうかしているぞフランス人)。
私は知らなかったのだが、マラーを暗殺したコルデーが処刑された後の出来事は「シャルロット・コルデーの頬打ち」として有名らしい(p105 解説379)。
ソランジュとアルベールの逸話はラストはともかく、なんとも切なくて印象に残る。
サン=ドニの王墓の話は驚き。
霊の話はともかく、実話のほう。
大革命後の民衆の狼藉。まったく知らなかった。
当時の民衆は、歴代の王墓があるサン=ドニ教会に押し寄せ、墓を冒涜したという(! 第9章)。
あまりにひどい話で、私の中のフランス人と大革命のイメージがさらにネガティブなものに。
幽霊なんかより現実の民衆のほうがよっぽど残酷で恐ろしい。
ラルティファイユの話は、普通に信仰の尊さの話。
髪の腕輪のお話も、うーん、なんてない幽霊話。
最後の東欧の話は冒険もの(幽霊の話だけど)として一気に読ませる。
さすが「三銃士」のアレクサンドル・デュマ。
背景にロシア・ポーランド戦争があり、ロシアに蹂躙されたある王族の話なのも雅びな貴族を愛するデュマらしい(p303)。
ところでこの逸話で、ある兄弟の弟は緑色のローブで赤いパンタロンをはき、兄は緋色のローブで青いパンタロンとデュマは描いている(p309-311)。
「ムーレ神父のあやまち」でゾラはムーレ神父の部屋に黄色いカーテンがかかっていると書いていた。
なぜわざわざ色を記しているのかとキリスト教の黄色の意味を調べたら、「神の永遠性」と「堕落」の意味があるそうで、なるほどと思った。
なので、大作家デュマ・ペールも色に意味を持たせているのかしらと調べてみた。
緑は生命力、赤は人間性あるいは犠牲。
緋色は王権と罪、青は精神性。
赤は微妙だけど緋色と青は納得で、デュマも意識して色を描いているのかなと思ったし、当時の読者もこの辺は”常識”だったのかなあと、しばし妄想。
いやはや、あっという間に読み終わりました。
面白かったです。
でも息子のほうが偉大だと思うな。
Dumas A(Pere): Les Mille et Un Fantomes. 1849.(前山悠訳 光文社古典新訳文庫、東京、2019)